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どっちが本物


エーレムが皆に支度させている間、アルスとティーネ、ギルティ三人はこれからの事を話し合い、まずはティーネに自分の姿に変身してもらう為人の姿へと戻っていた。


「ようやく人に戻れた。あの姿は色々な意味で疲れる」


皆と背が違うので見上げる事が多く、身体的にも疲れるし、挙げ句の果てには攻撃も出来ない。踏んだり蹴ったりだった。


「あの姿も私は好きですよ? いつもお城にいたアルス様とは違う姿が見れて私は嬉しいです」


ニコニコと笑顔を見せるギルティに、アルスは苦笑いを浮かべる。


それが疲れるんだよなあ。


「そろそろ始めますよ」


二人が頷くと、ティーネがどんどん水に包まれていき、息を飲みながら見つめる。

水が弾け飛び現れたのは、白銀の髪に青い目を持つアルスだった。

本当に全く同じで何度見ても驚いてしまう。


アルスに変身したティーネがニヤリとほくそ笑むと、ギルティを後ろへ向かせアルスの肩を持つ。


触れられると変身が解けると言っていたが、自分から触れるのは大丈夫みたいだ。

しかし、近いな。自分の姿を鏡の目の前で見ている気分だ。


そう思いながら一体何が始まるのかと不思議に思っていると、ティーネはアルスの肩を持ったままお互いにグルグルと回り出す。


目が回ってこれ以上はーーー


ふらふらに倒れる前にティーネはピタリと止まり、ギルティに振り返るように声を掛けた。


「さぁ、どっちが本物か当ててくれ」


ギルティはきょとんとしてる。

どちらがティーネの変身した姿か分からないみたいだ。

それもそうだ、容姿だけでなく声まで同じなのだ。いくらギルティでもこれは見抜けないだろう。


「左がアルス様です」


そう言うとギルティはアルスへと近づき手を取った。触っても左のアルスはティーネに戻らない。


「正解、です」


ティーネは変身を解くが、その表情は負けた事に対しての驚きと悔しさが見える。


「ギルティよく分かったな。

ティーネさんの変身は、自分でも鏡を見ているかのように完璧な変身だったが」


「小さい時からアルス様にお仕えしておりましたので、ちょっとした仕草で分かりますよ。

私が見つめると、少し目を逸らしてからまた見つめ返すのがアルス様の癖です」


小さい頃からギルティはずっと仕えていたが、そんな所まで見られていたとは。

なんだか恥ずかしいな。


「成る程、次からはそれを考慮してみます。他にどのような癖や仕草がありますか?」


「そうですね、座って足を組む時は右が上で、寝る時はーーー」


「教えなくていいから!」


よほど見破られたのが悔しかったのか、ティーネはもっと詳しく情報を知る必要があると、ギルティに根掘り葉掘り聞き出そうとする。

恥ずかしいから程々ににしてくれ・・・


そうそう仕草で気づかれないとは思うが、少し心配な部分もある。そこはティーネの腕を信じるしかない。


「ティーネさんとギルティは、エーレム達を連れて街の外へ脱出し、別の仲間達と合流。その間に俺は各国を周り撹乱させる。

皆が合流してからティーネさんも撹乱に参加し、ガブルヘイム帝国の守りが薄くなった所を一気に叩くのが目標だ」


ティーネはこくりと頷く。ギルティは不安気な表情を見せながらも、アルスを心配させまいと頷いた。

それを見ていたアルスは、ギルティに近づき頭を撫でる。


「大丈夫、もうすぐ皆が笑い合える日が来る。もう少しの我慢だ」


「そこにアルス様も居ないと駄目ですからね」


アルスは目を細めゆっくりと頷いた。


「じゃあティーネさん皆を頼みます。

俺は先に地下通路から街を出てら皆が簡単に街を抜け出せるように撹乱させて来ます」


「くれぐれも無茶をしないようにして下さいね。あ、あとこれを」


ティーネが取り出したのは、美しい青色の水晶で作った小さなブレスレットだった。


「これを使えば離れていても通信が出来ます。

この水晶に話したい相手を思い浮かべて念じる事で会話が可能です。

ドラゴンになっても伸縮自在なので心配しなくても大丈夫ですよ」


それなら壊れる心配もなさそうだ。

そういえば、ハピュ族の守護獣であるシュエットが似たような物で会話して来た事があったな。

しばらく会っていないがレイナは元気だろうか。全部片付いて落ち着けばまた会いに行こう。


「じゃあ行ってくる」


ティーネとギルティが見守る中、アルスは仮面を付け地下通路へと続く階段を降りて行った。



地下通路は思っていたよりも綺麗でネズミなども見当たらない。

地下通路の脇を水が流れており、それに沿ってアルスは道を進んで行く。


しばらく進み、ティーネに教えてもらった通路を曲がろうとした時だった。何か気配を感じて立ち止まると、ゆっくりと角から覗いてみる。

そこには、先程倒した灰色のスライムが伸び縮みしながらもぞもぞと動いていた。


もうこんな所にまで来ているのか。

ティーネ達もこの通路を使う。排除しておいた方がいいな。


スライムに気付かれないよう背後からこっそりと忍び寄り、狙いを定めるように手をかざす。

スライムは打撃ではすぐに元に戻ってしまう。ティーネの時みたいに原型を留める事が出来なくなるまで粉々にし、再生出来なくしてしまえばいい。


「【バーニングフレア】!」


炎が一気にスライムを取り囲み勢いよく燃え盛る。スライムは反撃する暇もなく、あっという間に消し炭となり消え去った。


しばらく小さなドラゴンの姿だったので、魔力はほぼ回復しているみたいだ。


「ティーネさん聞こえますか」


左手にはめた青色のブレスレットに話しかけると、ブレスレットは淡く光り出しティーネの声が聞こえてきた。


「はい、聞こえていますよ。どうしましたか?」


「地下通路に先程と同じ魔獣がいました。

片付けましたけど、まだ他にも居るかもしれないので、ここを使う時は注意して下さい」


「分かりました、皆さんに伝えておきますね。王子も気をつけて進んで下さい」


淡く光っていたブレスレットはティーネの声が聞こえなくなると同時に光を失った。


今回の騒動の原因となるエーレム達を探す為とはいえ、魔獣が嗅ぎつけて来るのが早い。

結構な数を偵察に送り込んでいるのかもしれないな。

あまり倒し過ぎると気付かれる可能性もあるし、早く街を出ないと。


アルスは早足で地下通路を進んで行くのだった。

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