追い風になりましょう
『帝竜になる方法・・・確かに強くなれば解決出来る事もあります。
しかし、力を求めた者の末路を貴方も見たでしょう。兄様は力を求める余り、人化をしても人の姿を保てなくなりました』
ティーネは俯きながら答える。
兄の様に力に溺れてアルスが自分を見失ってしまうのではないかと心配だった。
少しでも考えを改めてくれないかと心の中で祈っていたが、アルスは決心しているようだった。
『俺は、ジャファールの様に他者をねじ伏せる力ではなく、この力を貴女やラグシルドみたいに皆んなを守る為の力として使いたい。
それに、帝竜になる事で神に会えるのならば状況が変わるかもしれないし、小さな希望でも無いよりは良いと思います』
小さな希望と聞いてティーネは昔を思い出す。最初は自分も人に戻ろうとしてもがいていたが、いつしか希望も無くなりただ海の底で誰とも関わらないようになっていた。
人に戻るなんてとっくに諦めていたティーネにとって、アルスは小さいながらも闇を照らす希望の光のような存在に感じた。
『この呪縛から解き放たれ、安らかに眠れる日を長く永遠とも言える時間の中、私は待つ事しか出来なかった。でも、貴方は立ち止まらず逆風の中を突き進んで行くのですね』
『私の立場ではもう貴方と肩を並べて突き進む事が出来ない。でも、追い風として貴方を支えて行く事ならーーー』
そう言いかけた時、ティーネは遠くの方からドラゴンが近づいて来る気配に気がついた。
アルスも目を凝らしてティーネが見ている方向を見ると、帝国のドラゴン達がこちらへ向かって来ているのが見えた。
背中には勇ましくドラゴンに乗る竜騎士達の姿も見える。
『どうやらゆっくりと話をしている暇はなさそうね。向こうから複数のドラゴンが飛んで来ているようです。多分帝国の竜騎士達でしょう』
これだけ暴れれば偵察に来ると思っていたが、こんなに早く到着するとは。
もっと色々と聞きたい事があるが、ここは撤退した方が賢い。それに一度ギルティ達と合流し、また作戦を練らなければ。
『お仲間さんの所に向かうのなら、向かいながら話をしましょう。ドラゴンの姿は目立つので、人の姿で街を抜ければ追跡も免れるかも知れません』
ティーネは人の姿になると、アルスも早く人化するように伝える。
アルスは人化しようとしたが、先程の戦いで魔力を使い過ぎてしまい、人になる事が出来なかった。
仕方がなく魔力を節約する為に小さなドラゴンの姿になる。
『すみません、もう魔力が残っていないみたいで・・・この姿ならまだ目立たないと思いますけど、どうですか?』
ティーネは目の前に現れたふわふわの毛に包まれ、クリッとしたつぶらな目の小さなドラゴンに目が釘付けとなってしまった。
自分を見上げるその姿に、思わず「可愛い」とポツリと呟いてしまう。
『え?』
ティーネは頬を赤らめ首をブンブンと振ると、何事も無かったかのようにアルスを抱き抱えて走り出した。
『え!? ちょっ、待って!』
ティーネの後ろを走って行くつもりだったアルスは、まさか抱き抱えられるとは思ってもみず、ジタバタももがく。
「こうした方が早いでしょう?
余り暴れられるとくすぐったくて落としてしまいかねないので、出来るだけ大人しくしていて下さいね」
アルスは渋々ティーネの腕に収まる。
ティーネは人の姿だが、普通の人とは比べ物にならない速度で街の中を駆け抜けている。帝竜が人化すると、人の姿になっても身体能力が落ちないのかもしれない。
「そういえば、帝竜になる方法でしたね。
私の場合は水を自在に操り、枯れた大地に恵みの雨を降らせたり、大海を泳ぐ間にいつしか水帝竜となっていました」
「ラグシルドさんは皆を助け、森やそこに住む人々へ恵みをもたらした事で、いつしか緑帝竜となっていたと聞いています。
もしかすると、自分の行動によって進化先が変化するのではと私は考えています」
自分の行動によって進化先が変化するか。結構重要な情報だ。しかし、これほど上手く役割り通りの進化をするだろうか。
緑帝竜は自然、水帝竜は水、炎帝竜は炎とエネルギーを管理する役割が出来ている。
もしかしたら、神によって進化先は決まっているのではないか?
そうなれば、自分は一体何の役割を担うドラゴンに進化させられているのだろう。
「ティーネさん、今三つのエネルギーが帝竜に管理されていますよね? もうこの三つがあれば新たな帝竜を生み出す必要がないと思うのですが」




