それはもういいから
今回は短めです。
洞窟へ戻る頃には朝日が昇り、大地を照らしていた。
洞窟の中を覗くと、まだスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているレイナの姿が見えた。
起こさないようにそっとマントを回収する。
帰る途中で川魚を数匹と昨日レイナが美味しそうに頬張っていた果物を取ってきた。
さすがに魚は生では食べられないので、人化して煙がこもらないように洞窟の外で焼く。本当は塩が欲しいところだが、贅沢は言っていられない。
魚の焼ける香ばしい匂いが洞窟の中まで広がっていき、その匂いに釣られたレイナが目を覚ます。
「・・・いい匂い」
立ち上がろうとした時、レイナは傷や痛みがなくなっている事に驚く。
「あれ、痛くない。何でだろう?」
しかし、考えてもレイナには分からず、匂いにつられて洞窟の外に出ると、朝日に照らされた白銀のドラゴンがレイナを見つけ二、三回尻尾を振る。
側には焼いた魚と果物が木の葉の上にきれいに並べられていた。
「すごい!これ全部シロがしたの?」
「クルル!」
自慢気に鳴いた後フスンと鼻を鳴らす。
これくらいならどうということはない。
よく一人で森へ入り、剣の練習がてら食事を作って食べたものだ。父上に見つかっては王子の自覚を持てと怒られたが。
本当はスープなどの身体の温まる食べ物を作りたかったが、鍋も調味料も無いので仕方がない。
レイナは駆け寄ると、木の葉に乗せられた果物と焼き魚を食べ始めるが、何故かチラチラとこっちを見ている。
何だ、獲らないぞ?
首を傾げてクルル?と鳴いてみると、レイナは果物と焼き魚をシロへと差し出す。
「シロはたべないの?」
そうか、レイナは俺が食べなくてもいいことを知らなかったな。心配させない為に一つ食べておくか。
果物を咥えてぱくりと食べると、甘い果汁が口に広がり、しゃりしゃりといい音がなった。
レイナはそれを見てニコニコと笑い、一緒になってしゃりしゃりと果物を食べ始める。
しゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃり。
会話がない。
今なら怖がらせる事なく話す事が出来そうだが、あれだけクルルとか鳴いていたのに今さら話せますとか言えないしなあ。
ーーだろ。ーーーだ。
森の方から声が聞こえてくる。
耳をピクピクさせて集中すると男二人の会話が聞こえてきた。
「お前が逃がした獲物は確かにこの森に逃げたんだな?」
「あぁ、羽を折ったから大丈夫だと思っていたのだが。くそ、あの『ハピュ』のガキめ。痛めつけたが足りなかったか」
「まぁいい、あのガキの両親は捜しになんてこねーよ。今頃魔獣の餌になってるはずだからな」
聞こえてくる会話に感情が抑えきれず、アルスは勢いよく立ち上がり、男の声が聞こえた場所へと向かう。
「あ、シロまって!」
追いかけてくるレイナを振り返らずに尻尾で止める。
今の顔をレイナに見せる事が出来ない。
今の顔は誰もが恐れ慄くドラゴンの顔をしているに違いないからだ。
「・・・じゃあ、まってるね。
ゆっくりトイレしてきて!」
よろけそうになりながらも、アルスは空へと飛び立った。