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人の幸福を喜べるか


エーレムは仲間と休息を取っていたが、窓の外が異常に明るくなった途端、大きな音が響き慌てて飛び上がった。


「なんだ!?」


窓の外を見るが、先程の明るさや音が無かったかのように静かだ。

しかし、異常が起きたのは確か。すぐに仲間と共にエーレムは外の様子を見に行く。


外に出てすぐに焦げた臭いが鼻についたのと同時に、異様な光景を目の当たりにする。


森の真ん中が海岸の方向から一直線に焼け野原と化していた。

一体何が起こっているのか分からず、ただ目の前の光景に唾を飲み込む。


「エーレム様これは一体・・・」


「分からないが、まずは情報をーーー」


ガァアアアアアア!!


耳をつんざく程の咆哮にエーレム達は何が起こったのか分からず、周りを見渡した。


「エーレム様あれをっ!」


見上げると、真っ赤なドラゴンが中庭の方へ降りて行くのが見えた。


「まさか帝国の敵襲なのか?

皆はすぐに動けるよう準備をし、何かあれば指示を待たずに退避せよ。私は偵察して来る」


エーレムが閃光の魔女と呼ばれる理由はこれにある。素早い指示と身のこなしでこれまで数々の同胞を救って来たのだ。


出来るだけ仲間を犠牲にしたくないエーレムは中庭へと急ぐ。

中庭に近づくにつれ、何度も大きな音や咆哮が聞こえて来る。


ようやく中庭に辿り着いたエーレムが見たものは、想像を遥かに超えるものだった。


青いドレスを身に纏った女性の前には、人とドラゴンを合わせたような姿をした男と、そして一際目立つ白銀のドラゴン。側にはギルティもいるではないか。


「どうなっているんだ。これは敵襲なのか、それともーー」


気づかれないように茂みに身を潜めていたが、白銀のドラゴンがエーレムに気づき目と目が合ってしまった。

びくりと身体を震わせ、いつでも動けるように腰の剣に手を当てる。


しかし、白銀のドラゴンは襲って来る様子もなく、そればかりかギルティを急かすように尻尾で優しく押し退けた。


心配そうにドラゴンを見つめて何かを口にしたギルティは、ドラゴンに一礼して此方へと向かって来た。


何が起こっているのか理解出来ないエーレムは、兎に角今は安全な場所へとギルティの手を取り走り出す。


「ご無事でしたかギルティ様。

しかしどうなっているのですか? 帝国の襲撃ではなさそうですが、あの白銀のドラゴンは一体・・・」


「炎帝竜が暴れ、それをあのドラゴンが止めて下さったのです。

詳しくは分かりませんが、兎に角この屋敷からなるべく遠くに行くようにとアルス様から言付けております。後から合流すると言っておりました」


アルスが居ない事を不審に思われないようギルティは話を偽る。


「王子はご無事なのですね。

では、我々も早急に移動しなければ。この戦いは人が踏み入る事が出来ない領域にある。我々は足手まといとなりましょう」


エーレムと一緒に逃げる中、ギルティはどうか無事に帰って来てと、アルスの無事を祈るのだった。




「ティーネ、どうしてお前がここに」


動揺するジャファールに、水帝竜ティーネは優しく声を掛ける。


「緑帝竜ラグシルドから聞いたの。兄様、これ以上罪を犯さないで。

私は兄様を止める為に来たのよ」


「・・・止める?

俺はずっとお前を人へと戻す為に動いていた。それを罪だと?」


眉間にシワが入り表情も険しくなるジャファール。

いつ切れて襲いかかっるか分からない状況だが、それでもティーネは動じる事なく話を続ける。


「ええ、父母を殺めた時から兄様は変わってしまった。いつか兄様が昔の兄様に戻ると思って待っていたけれど、他人を犠牲に兄様はここまで来てしまった。

だから、どうか兄様これ以上はーーー」


恨みを込めた眼差しでティーネを睨みつけると、元のドラゴンの姿へと戻り地を踏み鳴らした。


「抜かした事を口にしやがる。

俺はお前の為にドラゴンになった。力を求め、あと少しでお前を人に戻せる。

俺がして来た事は無意味だったってのか? あのままお前を見捨てていれば良かったのか!?」


「違う、聞いて兄様!

私は、いくら人に戻りたいからと言って他人を犠牲にしてまで人に戻りたくない。今の兄様は村の人たちと一緒よ!」


その言葉は重くジャファールの心へとのし掛かり、ジャファール自身を追い詰める。

今までして来た事全てが無意味だと言われたように感じ、ジャファールの心を酷く傷つけた。


『そうかよ、お前の為と動いていた俺が馬鹿だった。今までのは全部無意味だったんだな』


「違う、私が言いたいのはーー」


『あの時、お前を見殺しにすれば良かった』


その言葉がジャファールの口から出たのと同時に、ティーネの目から涙がこぼれ落ちた。

その瞬間、アルスは拳を思いっきりジャファールの頬へとぶち当てた。


『妹を大切に思っているなら、それは絶対に言っちゃいけない言葉だっ!』


「兄様が私の為にずっと動いてくれていたのは嬉しかった。でも、人を犠牲にしない方法を一緒に探そう」


『・・・お前のそういう所は昔から変わらねえな』


ゆっくりと近づいて来るティーネに歩み寄ったジャファールが片腕を横へ広げる。

と、一気に振りかぶりティーネを吹き飛ばした。


アルスは咄嗟に動き、吹き飛ばされたティーネを上手く受け止める。

ぐったりとしているが気絶しているだけみたいだ。回復魔法を掛けてからゆっくりと地面へと降ろした。


『自分の妹に何をっ!』


『犠牲にしなきゃ駄目な時もあるんだよ。

自分が犠牲になって他人が喜んでるのを見て、お前は良かったなんて思えんのか?

結局誰かを犠牲にしないと自由なんて掴めねえんだよ!』


ジャファールは自分に言い聞かせるよう言い放つと、咆哮を上げてアルスへと飛びついた。

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