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炎帝竜の過去


少年は父と母、小さな妹と一緒に平穏に暮らしていました。

毎日の大変な畑仕事にも愚痴もこぼさず父と共に懸命に仕事に取り組みましたが、日に日に雨が降らなくなり、ついに神に雨の祈りを捧げる為に人柱を捧げる事になります。


人柱はまだ幼い子どもがいいと理由から、選ばれたのは少年の妹。


「どうして妹が行かないと駄目なんだよっ!

まだ雨が降らないって決まったんじゃねえだろ!!」


少年は懸命に訴えましたが、仕方がないの一言でついに妹は神に身を捧げる為に崖の上へと連れていかれます。


妹は自分が犠牲になれば村は救われると信じ、父母と兄に別れを告げついに崖下へと身を投げました。

その時、妹を追って少年も崖下へと身を投げたのです。落ちていく妹に追いついた少年は、妹を抱きしめながら思いました。


ただ雨が降らないだけで人の命をこうも簡単に投げ捨てるのか。

許さない、父も母も助けてくれなかった村の皆も、全部全部消えて無くなってしまえばいい。


「兄様、怖い。私たちどうなるの」


「大丈夫、兄さんと一緒なら何も怖くない」


妹が怖い思いをしないようにと、少年は妹と一緒に歌をうたい、何も見えないように自分の身体に抱き寄せました。


眠れや眠れ、木漏れ日の中。

小鳥がさえずり歌をうたう、五つ数えて夢の中、眠れや眠れ、何処までも。


憎しみ、怒り、嘆き、暗く冷たい闇が二人を飲み込んでいく中、少年は憎悪と呼ばれる感情全てを込めて強く願いました。


妹を救える力があれば。

あいつらを苦しみもがかせる力さえあれば。

父母さえ逆らえない力があれば。

この世界を変える力があれば。

守れる力があれば。


『君の思いは聞き届けられた。

力が欲しいならあげるよ? その代わり、この世界の管理を少し手伝って欲しいんだけど、契約するかい?』


少年の頭に直接声が響きました。

しかし、死が近い事で幻聴だと思い込んだ少年は、疑う事なく声の言うまま頷いてしまいました。


気がつけば少年の姿は真っ赤に染まったドラゴンの姿へと変わっていましたが、少年は笑みを浮かべ村へと飛び立ちます。


憎しみに囚われた少年は村を焼き尽くし、許しを請う父と母を引き裂こうとした時でした。

青く輝くドラゴンが少年を止める為に割り込んで来たのです。


妹も兄を止める為に契約を結んでしまったのでした。

抵抗も虚しく父と母は殺されてしまい、兄を止める事が出来なかった妹は悲しみに暮れ、海の底へと姿を消して二度と少年と会う事はありませんでした。


少年も自分の行いに気づき、嘆いた時にはもうすでに遅く、何もかもが焼け尽きた後でした。


少年は妹だけでも元の姿に戻すように神に訴え続けましたが、神が少年に応える事はありませんでした。


エネルギーを暴走させ全てを消そうと考えましたが、海底に消えた妹がいつかまた現れ、一緒に暮らせる日が来ると信じて少年は待つ事にしました。


何年、何十年、何百年経っても待ち続けましたが、妹は戻って来ません。


長い年月が過ぎ、少年は炎帝竜と呼ばれるようになりました。

すると、今まで音沙汰の無かった神が歪んだ空間から突然現れたのです。


もう十分な年月を費やした。だから妹だけでも元の人へ戻して欲しいと訴えますが、神は首を振ります。


『いやいや、契約覚えてる?

でも、僕がやりたかったのとはちょっと違うんだよね。うん、次に期待と言う事で』


神は早々に帰ろうとし、思い出したかのようにポンと手を叩きこう伝えました。


『あ、そうだ。

管理を辞めてもいいけど、君が辞めたら君の大切な人も巻き込むから、気をつけてね。

それと、帝竜になった者同士が一箇所に留まり続けると力が反発して大陸が裂けちゃうから、なるべく近づかない事。いいね?』


この言葉は他の帝竜にも伝えられており、こうして逃げる事の出来ない硬く重い鎖が、三人にまとわり続けました。


これを断ち切るには、神を殺すしかない。

炎帝竜は次の帝竜となる者を探し出す為に世界を飛び回り続けました。


そしてある日、新たな犠牲者が現れた事を知ります。


しかし、緑帝竜はその少年が帝竜になるか、別の道を生きるのかは彼に決めさせたいと言いましたが、炎帝竜はそうは思いませんでした。


帝竜にしてしまえば、また神が現れる。

早速行動に移り、彼を見つけ出しました。

これで神を誘き出しこの呪縛から逃れられるなら、妹を助けられるなら他人を犠牲にしてもいい。


しかし、緑帝竜の邪魔が入り一度は逃してしまいましたが、自分の刻印がある限り何処へ逃げても同じ。炎帝竜はフィーネ大陸へと翼を広げ飛び立つのでした。

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