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迫る炎


はぁはぁと息を荒げるアルスに対し、ジャファールはまだまだ体力を温存しているようだ。


『よくここまで戦ったと褒めてやる。だが、所詮人と竜の差、お前に勝ち目はねえ。

他に危害を加えられたくなけりゃあ、さっさと帝竜になる事だな』


「だからーー」


(今は無理だと何回も言っているが、全く聞く耳を持たないな)


何を言ってもジャファールには通じないだろうと諦めて、アルスは改めて戦いの分析をする。


やはりジャファールは強い。ドラゴンの姿で戦うとしても、翼が片方しか無い分こちらが不利だ。


思考を巡らせ、どうすればジャファールへ対抗出来るかを考える中、ジャファールが先に先手を取る。


『疲れてきているみたいだな? 長引かせると辛いだろ、死なない程度に一瞬でケリをつけてやるよ』


ジャファールの目の前に炎の塊が現れ、次第に大きくなっていく。


なんとか止めよとするアルスだったが、魔力も残り少なく無駄撃ち出来ないと判断し、ドラゴンへと姿を変えて迎え撃つ体勢を整えた。


これなら人化している間の魔力は使われない。その分をリフレクションに回して何とかこの炎の塊を止めなければ。


ジャファールの前にみるみるうちに太陽のような灼熱の炎の玉が出来上がる。

あまりの熱に辺りは溶岩のように溶け出し、夜にもかかわらず日が昇っているかのようだ。


汗も蒸発してしまいそうな熱さに、その場に止まっている事が出来ず距離を保つ為に後ろへと大きく飛び退く。


あんなもの街にでも落とされたら、街どころかこの辺り一帯焼け野原になってしまう。まさか本当にやるつもりか。


『お前がこれを避ければ街は壊滅的な被害が出るだろうな。

かと言ってこれを止めようとすれば、お前の身体はただでは済まない。どっちを選ぶのか楽しみだ』


放たれる炎の塊を目の前にして、アルスは詠唱を始める。

省略した詠唱では、あれを止める程の結界を張る事は出来ない。完全な詠唱で初めて魔法は威力を発揮するのだ。


「光よ、彼の者を守る結界となれ! 【リフレクション】」


炎の塊と同じ高さまで結界が張り巡らされ、結界に当たると同時に激しく炎が上がる。


なんとか食い止めたものの勢いが強く、結界ごとどんどん街の方へと押し戻されていく。


打ち消し合う魔法をぶつければ消し飛ぶはずだが、今の俺の魔力量では、この結界を維持したまま炎の塊と同等の威力の魔法なんて作り出せない。


考えている間も無くジャファールの鋭い爪の追撃がアルスを引き裂こうと目の前に迫る。


咄嗟にライトグングニールを作り出しジャファールへと飛ばすが、ジャファールは素早く避けると空へと舞い上がる。


ぐっ、このまま繰り返されたら魔力が持たない。一旦離れて体勢を立て直さないと。


結界が崩れる前に炎の塊から逃れる為、アルスはくるりと向きを変えると一気に加速して、迫り来る炎のスピードよりも速く森の中を駆け抜ける。


結界は徐々に大きく歪みながらヒビが入っていき、バリンッと大きな音を立てて崩れ落ちた。


一気に加速する炎を背にアルスは森の中を走り抜けるが、整備された道などなくそれに慣れない四足歩行で足がもつれないよう走るのが精一杯の為、邪魔な木々を避けきれずぶつかりながら荒れた道を進んで行く。


木々がアルスにとって邪魔になる存在なら、ジャファールにとっても同じだった。

空から狙おうにも生い茂った木々がアルスを隠し、うまく狙いが定まらない。


(ちっ、何処にいるか分からねえ。

だが魔力は残ってねえみたいだし、高みの見物といこうじゃねえか)


ジャファールは余裕の素振りを見せ、これから起こる事態に胸を躍らせながら舌舐めずりをした。


逃げ惑う魔物が炎に焼かれ、後ろから悲痛な叫び声が聞こえるが、振り返っている余裕はない。

森の中を追いつかれないように必死に走り抜けていたアルスだったが、突然開けた場所に出てしまう。


気づけばもう目の前まで街が迫っていた。

後ろからは刻一刻と炎の塊が迫って来ている。


炎の塊はあまりの強大な力の為打ち消す事が出来ないが、軌道をそらせれば街への被害は最小限に留められるはず。

邪魔な木々が無くなった事で、ジャファールがいつ襲って来てもおかしくない。


ブリーズで身体を浮かせ、結界を反らせながら空へと伸ばしていく。

炎の塊が反れた結界にぶつかると同時に上へと軌道が反れ始めた。


よし、このまま上へ持って行って爆発させればーーーー


『させねえよ』


ジャファールが炎を吹き炎の塊へとぶつけると同時に爆発が起き、結界が砕け散るとともに辺りが昼のような明るさとなり、まるで閃光弾を食らったかのような衝撃に爆音も加わり、アルスは意識が飛びかける。


目を開けても辺りが白く霞んで見え、自分がどの場所に飛ばされたかも分からないが、この姿のまま街に落ちてしまえば、街は混乱に陥ってしまう。


ドラゴンから人へと戻ると、庭だと思われる場所に感覚だけで着地する。

勢いが強く何度か転がりながらも、ようやく止まる事が出来た。


くそっ、まだ目がぼやけて視界が悪い。

それに爆発音で耳がキーンという甲高い音が鳴り響き、音や感覚さえもうまく感じることが出来ない。街はどうなっているんだ。


ライトヒールで状態異常を回復させるが、ダメージが大きかったのかすぐには回復されなかった。


何とかうっすらと周りが見え始めた時、後ろから声が聞こえ慌てて振り返る。


「あ・・・ま・・・ど・・って・・・」


誰かが目の前にいるみたいだが、ぼやけてよく見えない。それに言葉も聞き取りにくく何を話しているのかさえ分からない。


「すまない、目と耳が爆発でやられて分からない。兎に角ここから早く逃げるんだ」


一瞬戸惑った様子を見せた人影だったが、逃げることなく何故かアルスの左手を取り何かを巻いていく。

どうやらジャファールにやられた傷に気づき手当しているようだ。


「大丈夫だから、早くここからみんなを連れて逃げるんだ。俺と一緒にいると巻き込んでしまう」


自分も危険だというのに首を振り強くアルスを引っ張る。

一緒に逃げようとしているみたいだが、ヨタヨタと平衡感覚が戻っていないまま歩くアルスの姿を見て、補助するようにアルスの手を自分の肩に回して一緒に歩き出す。


少しずつだが、耳も目も良くなっていき周りが見え始める。広い中庭と、その周りを取り囲むような豪勢な屋敷。

ここはフドルの屋敷じゃないか。

じゃあ隣にいるのはもしかしてーーーー


「しっかり、もう少しですアルス様っ」


美しい赤髪をなびかせら額に汗を滲ませるギルティが、アルスを安全な屋敷の中へ運び込もうと必死にアルスを支えていた。

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