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追いかけて来る者



ようやく落ち着き始めたギルティは、どのようにして今の状況になったのかを話してくれた。


俺が消えた後、国王である父上は帝国に連れ去られ、城にいた者たちは各地の労働力としてバラバラに連れ出されてしまったらしい。


ギルティも無理やりこの場所に連れて来られたようだ。最初は使用人として働かされていたようだが、次第にフドルに好意を持たれるようになり、勝手に結婚の話が進んでいったらしい。


不思議に思っていたが、帝国が父上を人質にして脅して来ないのは、最悪俺が死んでいた場合の保険のつもりなのだろう。


以前ネーベルフォレストで戦ったベレーノが言っていた。国を包み込む程の結界を創り出す力とライトグングニールが必要だと。

ライトグングニールはシュトラール王家に代々継承されてきた魔法。


父上も使えるが、継承を行うとその力は弱くなってしまう。継承者、つまり俺が次に継承を行うと父上は完全に使えなくなり、俺が死んだ場合はまた父上に力が戻る仕組みだ。


もし俺が死んだとしても父上を生かしておけば計画に支障は無い。帝国がそこまで知っていて動いているなら、内通者がいたのかも知れない。


「早くこの争いを終わらせて、皆んなで帰ろう」


アルスは握りこぶしを強く握りしめながら、無理に笑顔を作る。こうでもしないと弱音を吐いてしまいそうだった。


「はい、アルス様。戻りましたら庭いっぱいに彩り豊かな花々をお植えいたします。そこで皆さまとおやつを頂きましょう」


ギルティも辛い思いをしていたはずだが、全くそんな素振りを見せず笑顔を作る。


俺が消え、何処で何をしていたのか知りたいであろうギルティから質問は来ない。

俺が話すのを待っているのだろうか、それとも聞くのは悪いと思っているのか。


アルスは自分から話を切り出す事にした。

ドラゴンに姿が変わってしまった事は隠し、ラグシルの街から始まり、ハピュの少女をネーベルフォレストへ送り届け、途中帝国の大将とも戦いながら、気がつけばベスティエ大陸へと流され、獣人族の街を抜けてようやくここまで来たのだと伝えた。


静かに話を聞いているギルティの目を直接見る事が出来ない。ギルティに全て見透かされてしまうのではないかと思い怖かった。


「アルス様?」


いつの間にか涙が頬を伝って流れていた。

今まで言えなかった事や、いままで押し殺して来た感情が全部混ざってしまい、ついに心から漏れ出してしまった。


ギルティを心配させまいと慌てて涙を拭い笑顔を作って見せる。これ以上ギルティを心配させる訳にはいかない。


「少し疲れてるようだ。明日は早い、そろそろーーー」


立ち上がろうとしたその時、ギルティにギュッと抱きしめられる。


「アルス様はいつもそうです。どんな事があっても心配させないようにと何も話して下さらない。陛下のようにいきませんが、少しくらい私を頼って下さい」


ギルティの温かさや鼓動が伝わって来る。

こんな事されたら、何もかも全て吐いてしまいそうになる。そうすればどんなに楽になるだろうか。


ギルティを信じられない訳ではない。

だが、ドラゴンになってしまった俺を見たギルティの恐怖に顔を引きつった姿が頭によぎってしまう。


「ギルティ、待たせてばかりですまない。今は話せないが、必ず話せる日が来ると思う」


ギルティはコクリと頷いてアルスへと微笑む。


「はい、お待ちしています」


ギルティはふと思い出したかのようにテーブルの上へと目線を向ける。


「そうでした、あのドラゴンの子どもを逃がしてあげないと」


その言葉にアルスはドキリとした。

ギルティが檻を覗き込むが、当然ドラゴンは檻の中には居ない。

その本人は今目の前にいるアルスなのだから居ないのは当然である。


「あ、あのドラゴンならギルティが来る前に逃してくれたみたいだ」


「そうですか。あのドラゴンも仲間の元へ帰れるといいのですが・・・」


何故か寂しげな表情を見せるギルティ。


「ちゃんと帰っているはずだ。だからーー」


その時だった。頭の中に感情のない声が響く。


【強いエネルギーが此方へと向かって来ています。エネルギー計測・・・・計測が終わりました。エネルギーの正体は炎帝竜と思われます】


こんな時にまさか追ってきたのか?

だとするとこの場所で争う訳にはいかない。


「ギルティも疲れているだろうし、今日はゆっくり休んでくれ」


「アルス様もゆっくりお休みくださいね」


アルスは頷くと、ギルティの部屋を後にし急いで海岸へと向かう。

あそこならここから遠く被害を最小限に抑えられるはず。

人の足では遅いので、屋敷を出てから人目につかない場所でドラゴンへと姿を変える。


前に戦った時は最後どうなったのか気絶してしまい、気がついた時には海岸に打ち上げられていたので、どうやって逃げ切ったのかは覚えていない。


今回もうまく撒くことが出来るか正直なところ不安でしかないが、ギルティたちのいるあの場所には行かせる訳にはいかない。


ようやく海岸へと辿り着いたアルスは人へと戻ると、【ライトグングニール】を手に持ちいつでも迎え打てる体制を整える。


その時、遠くに赤々と燃える炎がこっちへと飛んで来ているのが分かった。


前はラグシルドも一緒だったので心強かったが、今回は誰も助けには来ない。

話し合いでどうにか出来るほどの相手ではない事は確かだ。


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