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踊って頂けませんか?


あれから部屋に戻り、ギルティが帰って来ないかと待っていたが、戻っては来なかった。多分明日の式の準備のリハーサルなどをさせられているのだろう。


不安だが、ギルティが部屋に戻って来なくて正直良かったと思ってしまう。

気づいているのかはわからないが、ギルティが俺を呼んだ時の目が頭から離れない。絶望の中に一筋の光が射したかのように俺を見ていた。


突然ガチャリと扉が開き、ギルティが戻って来たのだと思い、ビクリと飛び上がってしまう。


しかし、入って来たのは鉄の器を持った使用人だった。よく見ると、器の中には血が滴る新鮮そうな生肉が丸ごと入っている。


生、肉・・・


使用人は棒の先に生肉を乗せると、恐る恐る檻の中へと入れ食べろと言わんばかりに生肉を上下に動かす。


流石に食べるのは無理だと、興味がないフリをしてそっぽを向いていると、使用人は食べない事に溜息を吐き、生肉を檻の中に落として部屋を出て行ってしまった。


アルスは生肉を避けて檻から出る。

当分使用人は部屋に来ないだろう。もうすぐ前夜祭が始まるはず。エーレムが言うには、各国の貴族も呼ばれて来るらしいので、それなりの格好をして紛れなければならない。


この部屋に戻って来る前に、右腕に白のバンドをした使用人を見つけ事情を話すと、フドルに追い出された領主が服を集めるのが趣味だったらしく、使われていない部屋に大量に放置されていた。それを借りて前夜祭に乗り込む事にした。


貴族が好みそうな少し派手な服だが、会場に紛れ込めればそれでいい。

アルスは準備を済ませ、会場へと急いだ。



各国から呼ばれたのだろうか、大勢の人々が会場へと入って行く。一般人の他に貴族も来ているようだが、皆顔を隠すようにそれぞれに用意した仮面を着けている。


事前にエーレムの仲間から聞いていたので、アルスも獣人の町で買った仮面を付けて会場へと侵入していた。

目立つかもしれないと思っていたが、他にも派手な仮面をつけた人が多く、これなら心配はいらないようだ。


中は豪勢な食事がテーブルに並べられおり、普段お目にかかれない料理が揃っていた。

大きく肉汁がしたたるステーキ、今にも動き出しそうなほど新鮮な魚、ふわふわのシフォンケーキなどのデザートが揃っている。


「お集まりの皆様、明日はフドル様とギルティ様の結婚式に御座います。本日は前夜祭としまして、存分にお楽しみ下さいませ」


盛大な音楽と共に前夜祭が始まった。


「どうだ? 盛大に祝う為に貴族どもも参加するこのパーティーは素晴らしいだろう?」


「そうで御座いますね・・・」


ギルティは俯きながら、感情のない声で答える。

それを見たフドルは不満そうな表情を見せ、ギルティに声を掛けた。


「今夜だけなら他の者といても許そう。早くあの国や王子の事など忘れるが良い。これからは不便なく暮らせるのだからな」


フドルがこのような事を言うなんてと驚いたが、ギルティは一礼してから席を外し、人混みを避けながら中庭の見えるテラスへと足を運ぶ。ガヤガヤと煩い中よりはマシだと思ったからだ。


風に当たりながら空を見上げると、王国にいた事を思い出してしまい涙を浮かべる。


「もう、お会い出来ないのでしょうか。もうあの日のように楽しくお話しをしながら、花を愛でたり、貴方の寝顔を見る事は無いのでしょうか」


テラスから中庭を眺めていると、後ろから男性の声で話しかけられ驚いて振り返る。


そこには仮面を被ったすらりとした青年が立っていた。

服は青をベースとした鮮やかな色合いに、狼を思わせる仮面は、頭をすっぽりと覆い隠し、鼻先まで隠れている。

声からしてまだ若そうだが、何処かの貴族の息子だろうか。


青年はギルティの隣へと移動しもう一度声を掛ける。


「フドル様との先程の話 会話を聞いておりまして、もし宜しければ今夜私と踊って頂けませんか?」


面白半分で言っているのだろうと思い、断ろうと話を切り出す。


「私、ダンスはーー」


真っ直ぐ見つめて来る青年と目が合う。仮面の奥から覗かせる青く吸い込まれそうな瞳に、ギルティは息を飲む。


私、今日は疲れているみたい。ドラゴンも、この人もアルステラ様に見えてしまうなんて。


「どうされましたか?」


「いえ、何でもありません。ダンスはほとんど経験がなくて、踊れるかどうか・・・」


青年は微笑むとギルティの手を取り、人混みを縫うようにずんずん中へと入って行く。


「あ、あのっ」


引っ張られるままに来てしまったギルティは、気づけばみんなが踊っている中央に立っている事に顔を赤く染める。


「わ、私本当にダンスなんてーー」


「大丈夫、私に任せればいいですから」


音楽と共にダンスが始まった。

どうにでもなれと思いながら、青年のペースに合わせてぎこちなくトタトタとついて回る。


先程より顔が近くドキドキしてしまう。


「上手上手、ちゃんと踊れてる」


「それは貴方が先導して下さるからですよ・・・?」


前にも言った事のある台詞だった様な気がする。一体何処で言った言葉だっただろう。

考え事に気が行ってしまい、足がもつれ後ろへと倒れそうになる。


青年は咄嗟に腰に手を回してギルティを受け止めた。


そうだ、前にもあった。踊った事が無いと言った私の手を取って、中庭で一緒に練習して下さった。その時も下手な私は足がもつれて倒れそうになり、貴方が助けてくれましたよね。


青年はギルティを引き寄せて耳打ちする。


「ここから会場が少し荒れると思うから、君はあの使用人とここを出るんだ」


音楽が終わり、会場が拍手に包まれる中、ギルティはまだ青年の手を離す事が出来ずにいた。

このまま離してしまえば、また会えなくなってしまうと思ったらだ。


「大丈夫、今度は必ず戻るから」


ギルティの頭をひと撫ですると、パッと手を離し人混みの中へと消えて行ってしまった。


「ーーー約束ですよ、アルステラ様」


人混みへ消えて行ったアルスを見送り、ギルティは言われた通り使用人の元へと歩み寄る。


使用人は小声でギルティに話しかけた。


「お待ちしておりました。フドルには疲れて休んでいると伝えておりますのでご安心下さい」


「これから何をなされるのです?」


「ちょっとした余興ですよ。ここにいては巻き込まれる可能性がありますのでこちらへどうぞ」


ギルティは言われるがまま、使用人の後をついて行った。

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