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夜の散歩


少し遅くなってしまったが大丈夫だろうか。


「あ、おかえりシロ!たくさんでた?」


う、確かトイレに行ったと思っているんだっだ。複雑な気持ちだが、元気そうで良かった。


レイナは羽根の上にちょこんと座って嬉しそうに待っていた。


レイナは俺を普通のドラゴンだと思っているようだ。いきなり人化してしまったらレイナは俺を怖れてしまうかも知れないが、人化しなければ回復魔法が使えない。

うーむ・・・・よし、寝るまで待つか。

レイナが寝ている間に人化して治療し、またドラゴンに戻れば大丈夫だろう。


日が沈み、辺りが暗くなり始めたので、枯れ枝を少し多めに入れて洞窟内を暖める。そして帰る途中に取ってきた果物をレイナに差し出した。


「うわぁ、おいしそう!食べていいの?」


頷くと、レイナは嬉しそうに果物を食べ始めた。

よほどお腹が空いていたのか、自分が怪我をしているのも忘れて夢中で果物を頬張っている。


果物だけだと流石に物足りないな。

明日は果物以外の食べ物を探してみるか。


しばらくしてお腹がふくれたのか幸せそうな顔をしてスヤスヤと眠ってしまった。


よし、ぐっすり寝ているな。無理もない、この歳で大変だっただろう。今はゆっくりと休んでくれ。


アルスは人化し空間魔法を使いマントを羽織ると、回復魔法を唱える。


「【ヒーリング】」


レイナの身体が優しい光に包まれると、みるみるうちに傷が跡形もなく消え、折れた翼も元へと戻った。


後はドラゴンに戻ってーーーー


「お父さん、お母さん・・・」


立ち上がろうとした時、レイナがマントの裾を掴んで消えそうな声で両親を呼ぶ。


大丈夫、ちゃんと送り届けるから安心してくれ。


そう思いながら頭を撫でると、レイナが少しだけ目を開けこちらを見る。


「だ、れ・・・?」


ぼやけていて誰がいるのか分からなかったが、白銀の毛と青い目を見て多分シロがいるのだと思い、レイナはまたゆっくりと眠りに落ちて行った。


・・・・びっくりした。

また眠ってくれて良かった。ばれてないよな?早くドラゴンに戻った方がいいか。


レイナから離れようとしたが、マントの袖を掴まれている事に気付く。ゆっくりと引っ張ってみるが、放す気配がない。

仕方なく起こさないようにマントを脱いで裸で外に出る。


普通なら捕まってもおかしくない行動だが、こんな深い森の中を通るやつはいないので大丈夫だろう。


おもむろに空を見上げると、満月が他の星よりも自分は一番綺麗だとばかりに輝いていた。


よく考えれば空を飛んだ事は一度もない。日の出まではまだまだ時間があるし練習してみるか、っとその前に。


【光よ、彼の者を守る結界となれ。リフレクション】


洞窟へ結界を作り、魔物が入れないようにした後、ドラゴンへ戻る。


翼で空気を叩きつけるように上から下へと羽ばたくと、草や葉を巻き上げながら夜の空へと飛び立つ。


安定して飛ぶのは難しいな、早く慣れないと。


漆黒の空に対立するようにゆっくりと飛ぶ白銀のドラゴンは自分がどれ程目立っているか分からずにその存在を主張して飛び立っていった。



やはりこの辺りの地形は見たことがない場所だ。街で正確な地図があればいいのだが、そんな高価な物が簡単に手に入るだろうか。


そんな事を考えながら人の住む村の上空を通過しようと思った時だった。いきなり下から放たれた魔法を慌てて避ける。


こんな真夜中に魔法を放つ奴がいるとは思いもしなかったアルスは急いでその場を離脱しようとするが、下から次から次と風魔法が襲いかかってくる。


必死に避けようとしたもののまだ飛ぶことに慣れていないアルスの翼に風魔法が当たり、バランスを崩して森の中へと落ちてしまった。




ガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえ、アルスは目を覚ます。


まずいな、気を失っている間に敵が近くまで来てしまったみたいだ。今から逃げようにも、また風魔法の追撃が来るかも知れないし空へ逃げる事は出来ない。


大きく息を整えていつでも炎が吹けるように準備をする。


茂みから現れたのはこげ茶色の髪と瞳の少年だった。

手には剣が握られており、ギラギラと獲物を品定めするかのように目を動かし、そして少年はニヤリと笑みを浮かべている。


まさかこんな小さな子が撃ち落そうとしていたとは。

もしこれが俺以外のドラゴンだったら、少年どころか村全てを焼き尽くされてもおかしくない行動だ。少年はそれを考えていない。


「えっと確か、【アナーリジ】だっけ?・・・・何だこれ?バグって読めないし、何で名前があるんだこいつ。アル、ス?」


少年の言葉にアルスは動揺し、数歩下がる。少年は気づかずに首を傾げながらブツブツと独り言を話している。


俺の名を言い当てられた。

【アナーリジ】なんて魔法は聞いた事もない魔法だ。兎に角こいつと関わらない方がいいかも知れない。何か嫌な予感がする。


翼を広げて木の葉を巻き上げながら一気に飛び上がる。


「あ!逃げんなっ!【アースチェーン】っ!」


石が鎖のようになると、逃げる暇も無く飛んでいたアルスの足にがっちりと絡みつく。


こんな中級魔法まで使えるのかっ!?子どもだと思っていたら痛い目をみるな。


口から炎を吐き出し、石の鎖を焼き尽くすとそれを見た少年は驚いていたが、嬉しそうに笑みを浮かべ歓喜の声をあげた。


「さすがファンタジーの世界!あんな平凡な日常よりも何百倍も楽しめるこの世界に転生した俺はまさにラノベの主人公っ!」


・・・こいつ頭大丈夫か?

それに ふぁんたじー や らのべ など、聞いた事がない言葉だ。この辺りの言葉だろうか。


「よし、次は【ウィングトルネード】!」


身構えて風魔法をやり過ごそうとしたが、さっきのとは違い、優しいそよ風がアルスの体に当たる。

魔力が足りなくなり、先程のような威力は出せなくなったようだ。


「うー気持ち悪い、もう魔力が無いのか。どうせなら魔力無制限とか女の子にモテモテのチートが欲しかったな」


やはり聞いた事がない言葉がちらほらと聞こえるが、それよりも今が逃げる絶好の機会だ。


そのまま空高く羽ばたき、下を見下ろすと、少年が大声で叫んでいるが無視して、アルスは月明かりが照らす中優雅な空の散歩へと戻るのだった。

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