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地下牢で


地下牢へと続く部屋を探していたアルスだったが、屋敷の広さと部屋の多さに苦戦を強いられていた。


やはり闇雲に部屋を探していたら駄目だな。ここの屋敷の使用人なら何か知っているかも知れない。


ふと部屋を開けると、そこは使用人の部屋なのか沢山の制服が並べられていた。


これなら使用人に変装して屋敷に詳しい人から聞き出せそうだ。


誰もいない事を確認してから自分の身体に合う服を見つけて着替えてみる。

服の方は大丈夫そうだが、やはりこの髪色と目の色は目立ってしまう。


何か部屋にないかと色々探っていると、引き出しから眼鏡が出て来た。

ふとある事を思いついたアルスは、空間魔法を使い以前森で拾った灰色の木の実を取り出すとそれを潰してレンズへと擦り付ける。

透明だったレンズは木の実の色に染まり灰色になった。


眼鏡をかけて鏡で見てみても青い目が映らないし、これなら大丈夫そうだ。これで色が付くなら、髪も染められるだろうか。


残りの木の実を潰して髪へと伸ばしてみる。すると髪の色が変わり、黒に近い灰色へと染めることが出来た。


よし、これでどこから見ても屋敷の使用人だ。


「おい、そこで何をしている」


突然呼びかけられ慌てて眼鏡をかけて振り返る。


「あ、すみません。すぐに戻ります」


「フドル様は手を抜く事が一番嫌いだからな。さぼりも程々にして早く持ち場に戻れよ」


「あの、地下牢ってどこでした?食事を運ぶようにと言われたのですが、ここに来たばかりなので忘れてしまって」


「なんだ新人か。地下牢ならこの屋敷を出てすぐのほら、あそこに風舎があるだろ。あの下にあるがーーー」


男が振り向いた時にはアルスの姿はなく、おかしいなぁと首を傾げながら部屋を出て行った。



屋敷を出てすぐにある風車小屋へと来たアルスは扉を開け中を確認する。

中はただの風車小屋で何の変哲も無いように見える。


こんな所に本当にあるのか?まぁ、屋敷の使用人の情報は確かだと思うのだが。


ふと見ると、部屋の端にレバーらしきものがある事に気付いた。

明らかに風車を動かす機械とは別に取り付けられている。これを下ろせば地下への入り口が開かれる仕組みのようだ。


レバーを下ろすと、ガコンという音とともに床の一部が開き、地下へと続く階段が現れた。覗いてみると階段の横には点々と火が灯されており、それが下まで続いているのが見える。


こんな物をわざわざ作ったのか?悪趣味もいいところだ。


そう思いながら階段を降りて行き、薄暗い道を進んで行くと奥に牢屋があるのが見えた。しかし、牢屋の前に人がいる事に気づき小さいドラゴンになると天井へと張り付いて様子を伺う。


「閃光の魔女もこれまでだな。明日には見せしめとして処刑されるんだ、何か言い残す事はあるか」


牢屋の中には女性が囚われていた。長い髪を編み込んで後ろで束ねており、町娘というより騎士に近い格好をしている。


女性は兵士に向かってフッと笑みを浮かべる。


「大きな力はいずれ身を滅ぼす。君たちはいずれ後悔するはずだ」


「ふん、そんな事を言っていられるのも今のうちだ。最後までの時間を楽しむんだな。さて、早く次のやつと交代して美味いものでも食べに行こうぜ」


二人の兵士が楽しげに話しをしながら去っていくのを確認し、その後を付いて行く。

呑気に雑談をする二人は、後ろからアルスが近づいているのも知らず馬鹿笑いしている。気づかれないようゆっくりと忍び寄り、兵士の腰にぶら下がる鍵を盗み出した。


この鍵で牢屋と手錠が外れるはずだ。鍵が無い事が気づかれる前に牢屋へ向かおう。


アルスは人へと戻ると、先程囚われていた女性の牢屋の前へと立ち声をかける。


「決起を図ったのは貴女ですね」


女性は驚いた顔でアルスの方を見る。


「仲間、ではなさそうだ。反乱と呼ばずに決起と言う君は一体・・・」


「私はシュトラール王国のアルステラと申します。帝国に支配された国々を奪還する為に力をお貸し願いたい」


シュトラール王国のアルステラと言えば、行方不明になっている王子の名前ではないか。特徴のある白銀の髪に青い瞳だと聞いていたが、目の前の青年は白銀とは程遠いくすんだ灰色の髪をしている。


怪しむ女性を見てアルスは、眼鏡を外して髪色を一部落として見せる。

ようやく女性は納得したのか身体の力を緩めた。


「ご無事だったのですね。シュトラール王国までもが陥落したと聞いた時はどうなるかと思っていましたが、我々だけでも動かねばと戦っておりました」


「もう一度俺も戦います。また、一緒に戦ってくれませんか?」


アルスの力強い眼光を見て、女性はこくりと頷く。帝国に支配され、その中で苦しい戦いを強いられながらも、彼の瞳は光を失っていなかった。


「はい、シュトラール王国を取り戻しに我々も参りましょう。この私ローベルク・エーレムがお供致します」


アルスは牢屋の鍵を開けエーレムの手錠を外すと、自由の身になったエーレムは安堵の表情を浮かべる。


「無理をいいますが、今夜奇襲を仕掛けたいと思います」


「我々に敬語は要りませんよ王子。

では、私は仲間と連絡を取り、奇襲をかける準備をします」


エーレムと軽く打ち合わせを行う。


流石決起を図っただけはある。敵の人数や屋敷の構造、衛兵の数まで把握していた。さらに屋敷の使用人にまで入り込んでいるらしい。


「我々の仲間は左腕に白色のバンドをはめておりますので、何かあればその者にお伝え下さい」


「分かった。打ち合わせ通りに進めていこう」


まずはエーレムが脱獄した事を気づかせないようにしなけるば。

丁度交代で見回りの兵士が来るようだ。


牢屋の影で待ち伏せしていると、二人の兵士が雑談をしながらゲラゲラと下品な笑い声を響かせて歩いてきた。気づかれないよう兵士が過ぎるのを待つ。


「一番いい時に見張りなんてついてないなぁ。でも、囚われている反逆者の女は結構可愛いらしい」


「俺も初めてなんだよ。ちょっと遊んでもここなら誰も気づかないだろうな。そう言えば、お前鍵持ってるよな?」


「え? お前が持ってるはずだぞ?」


先程見張りをしていた兵士が慌てた様子で走って来た。どうやら鍵が無い事に気がついたらしい。


「悪い、鍵落としたみたいでな。来る時は持っていたから、多分その辺に落ちていると思うんだが・・・」


三人の兵士が鍵を探して戻って来る。

アルスはエーレムに待機するように伝え、三人へと忍び寄る。


「【プラントネット】」


三人の足元から植物が生え始めると、身体を縛り付け始める。

突然の出来事に慌てふためき声を上げた。


「ヒイッ、何だこれは!?」


「誰かーー」


助けを求めるも三人の口元と目を植物が覆い、三人は身動きが取れずその場に倒れ込んだ。


簀巻きのようになった三人を牢屋へと放り込み、仲間が戻るのを牢屋の入り口で待っていた残る一人も捕らえ同じようにグルグル巻きにして放り込む。


モガモガと言葉にならない声を出しながら必死に抜け出そうと頑張っている四人。

それを横目に、エーレムとアルスは牢屋を後にした。


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