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抜け出す為に

長らくお待たせ致しました。

時間が掛かっても、完結までは止めませんので、これからも宜しくお願いいたします。



「よし、言っとくが手荒に扱うなよ。大事な商品だからな。それに幼体だからといって侮ると痛い目にあうぞ」


檻の隙間から鉄の棒が差し込まれると、アルスの首へと勢いよく降ろされ押さえつけられる。


「ギャウッ」


手荒に扱うなと言う割には結構手荒だなと思っているうちに、硬くて冷たい鉄の首輪がはめられた。


しばらくは大人しくしておくか。

ずっと檻の中に閉じ込められ暇だと思っていたが、自分を捕まえた青年ラントが何度も現れては見つめて来たり、気晴らしにと甲板まで連れ出された時は当然見つかってこっぴどく怒られたりと、あまりゆっくりしていられなかった。



ようやく静かになり、心地よくうとうとしていたアルスだったが、突然被されていた布が剥がされ眩しい光に目を細めながら周りを見渡す。

大小異なる檻が並べられた中には、魔獣や魔物が目をギラギラさせながら唸り声を上げていた。船から商品を降ろす途中のようだ。


「よし、連れて行け」


ジャラジャラと鎖を引っ張られながら、もう大陸に着いた事だしそろそろここから逃げようかと考えていると、一瞬だったが懐かしい香りにアルスは立ち止まる。


「ほら、早くしないとまた僕が怒られるんだから」


ラントに強引に引っ張られ渋々歩き出すアルスだったが、懐かしい香りが徐々に近づくにつれ鼓動が早まる。


この匂いは覚えている。城の中で育てられていた草花の匂い、これはギルティが世話をしていた草花と同じ匂いだ。


もしがこの船に捕らえられているならこんな事をしている場合じゃない。

早く助け出して俺がこの姿にされてから国はどうなったのか、今国はどうなっているのか聞きたい事は沢山ある。


ようやく来客室という部屋の前まで来たアルスは耳を動かして中の様子を伺う。


「こんな小汚い所に我を待たせるとは全く。

いい商品が入ったというから直々に我が出向いて来たのだ。期待して良いのだろうな?」


「はい、フドル様もちろんで御座います。結婚する前のプレゼントとして奥様になられるギルティ様もお気に召すことでしょう」


ギルティが奥様?冗談じゃない、何処の誰だ!


「フヴゥ! ガルル!」


「おい! やめろって、あ!」


扉を突き破ぶると、手前にはレニアが座っており、奥のソファーに髭を蓄え小太りな男がどっしりと座っているのが見えた。


飛びかかろうとするも、助けに入った男3人に押さえつけられてしまい身動きが出来ず、そのまま鳥かごのような檻の中へと入れられてしまった。


「ラントっ! 必ず檻に入れてから連れてこいと言っただろうがこの馬鹿!」


「すみません!」


謝るラントに目もくれず、フドルは髭を撫でながらアルスを見つめると、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ほう、ドラゴンの子どもか。それもまた珍しい白い身体に青い目とは。これは帝国でも簡単には手に入らない代物だ」


「人工孵化されていない野生のドラゴンで御座いますので扱いには十分お気をつけ下さい」


「ドラゴンの扱いには慣れておる。それにしても素晴らしい毛並みに角の反り具合。これは将来期待出来るだろう」


フドルは懐から大金がはち切れんばかりに入っている袋を取り出すと、テーブルへと2つ並べる。


「今回もいい買い物が出来た。またいいのが入ったら頼むぞ。それと、その扉の修理だ」


懐から袋を取り出しレニアへと投げ、アルスが入った籠を機嫌よく持ち上げると早々に部屋から出て行った。


やはりフドルの身体からは草花の匂いがしている。何があったから分からないが、こいつについていればギルティに会えるだろう。それにギルティをこんな奴と結婚させるわけにはいかない。


船を降りたフドルは、外で待機させていた部下たちを引き連れ馬車へと乗り込む。


ギルティ、待っていてくれ、すぐ助けに行く。


揺られる馬車の中でアルスはギュッと拳を握った。



屋敷へと帰って来たフドルは、早速奥の部屋の扉を開ける。

中には相当の価値があるであろう壺などが並べられ、その他にもドラゴンの爪や牙が飾られおり、アルスはごくりと唾を飲み込む。


その部屋からさらに奥へと進むと、先ほどまでとは違う雰囲気の清潔感のある部屋へと出た。

部屋の所々には城で育てていた草花が花瓶の中へと活けられている。


「ほら、お前にやろう。いずれはこいつに乗り我と世界を旅にでようではないか。まだ躾するには少々早い、しばらくはここで育てるが良い」


夕焼け色に染まった部屋の窓際に座る女性は見向きもせず、ただ格子のある窓を感情のない表情で見つめ続ける。


「まだ奴の事を思っているのか? 無駄だぞ、奴は国を捨て逃げたのだ。ここで我と暮らせば悪いようにはせんし、ここは安全だ。こいつはここに置いておく、餌は使用人に任せよ」


アルスをテーブルの上へと置くと、フドルは部屋を出て行った。


「貴方も連れてこられたのですね。私と同じここに閉じ込められ、逃げることさえできない籠の中の鳥」


日の光を受けた赤髪をなびかせてギルティが振り向く。以前のように優しげな声で語りかけてくるギルティだが、その顔は悲しげな表情を浮かべていた。


ギルティ、無事で良かった。大丈夫だ、今すぐここから連れ出してやるからな。


ガチャガチャと鎖を外そうとした時だった。ギルティの表情が一気に凍りついたのが分かった。


今の俺の姿は国を攻めて来たドラゴンを思い出してしまうのかもしれない。


アルスは鎖を離し籠の中に伏せてみせる。

すると、身体を強張らせてアルスを見つめていたギルティが力を抜いたのが分かった。


早くこの場所から連れ出してあげたいが、この場所から連れ出すにしてもここは帝国の領土になっている。

気づかれれば帝国の竜騎士に追われ、数で襲われれば俺もひとたまりもない。


「不思議、今私を見て動きを止めたように見えました。もしかして、私が怖がったから?」


不思議そうに見つめてくるギルティをアルスは静かに見つめ返し、クルルと喉を鳴らす。


アルスを改めて見たギルティは、ドラゴンの容姿に目を見開く。


白銀の身体に目を惹く青い瞳。

いつも優しい笑顔を見せ、王子であるにも関わらず私に話しかけて下さり、そしてあの日突然姿を消してしまったあの方に似ている。


「アル、ステラ様・・・?」


ーーーえ


言い当てられた事に動揺したアルスは後ろへと下がり籠に身体をぶつける。


こんな姿なのに、俺だと何故?

いや、この白銀の身体に青い目の特徴は俺に被って見えるのかもしれない。


呆然と立ち尽くすアルスを見たギルティは、一歩また一歩とアルスへと近づぎ、籠の中へとゆっくりと手を伸ばす。


どうしたらいいのか分からないアルスだったが、 ギルティの差し出す手へとゆっくりと近づき、驚かさないようにとそっと頭を差し出した時だった。


「ギルティ様、フドル様との夕食のお時間で御座います」


突然入って来た使用人にギルティは驚いて籠から手を引くと、何事も無かったかのように使用人へと返事をする。


「今も気分が優れないので、お食事はいつものように部屋へお願いします」


「ですが、明日は婚礼の日。その前夜祭としてフドル様が盛大に祝いたいと申しておりまして・・・」


使用人の女性は、手の震えを抑えるためにスカートをギュッと握りしめながら小さな声で話す。


「貴女を連れて来ないと、フドル様が私の娘を殺すと言ってきました。お願い、お願いです、私を、家族を助けると思って従って下さい」


てっきり使用人も帝国から連れて来ているのだと思っていたが、どうやらこの支配した国の民も使用人として働かせているようだ。それも強制的にとは、無視できない行いだ。


ゆっくりと女性に近づき、手を握りしめたギルティは優しく微笑みかけた。


「貴女も、なのですね。・・・分かりました、支度しますので少し待って下さい」


髪をくしで整え、身だしなみを整えたギルティはアルスの前へと近づき、では行って来ますねと声を掛けると扉を出て行ってしまった。


俺も動き出さないと明日ギルティはフドルと夫婦になってしまう。

ギルティが帰って来てから脱出する事も可能だが、俺がドラゴンになってしまった事はギルティには知られたくないし、逃げたのが知れればあの使用人も危険だ。

誰かを犠牲にして逃げ出すなんてしたくない。


籠の中でぐるぐると回りながら何かいい方法がないかと考えていると、廊下から使用人の話し声が聞こえて来た。


「あの女の反逆者は牢の中に入れられているらしいが、バカな奴だよな。大人しくしておけば捕まらなかったものを」


「明日の余興として見せしめの処刑を行うらしい。結婚式に処刑を行うなんて悪趣味じゃないか」


「しっ、誰が聞いているか分からない。そろそろ仕事に戻ろう」


使用人の声は聞こえなくなり、足音も遠のいていった。


反逆者か。帝国に支配された国に不満を持つ者がまだいるなら、交渉次第で何とかなるかも知れない。


アルスは檻から脱出する為に身体をねじ込み首輪を外す。首輪は簡単に外れ、逆にアルスは心配になる。


よくこれで制御出来ると思ったな。後はこの檻をゆっくり抜ければいいだけだ。


隙間から出ようと何度か身体をねじっていると、身体が徐々に外へと押し出されていき、スポンっと抜け出す事に成功した。


抜けたが、無理矢理すぎて身体が痛い。

前夜祭が始まる前に牢屋を見つけないと。


ヒリヒリと痛む身体をさすりながら、アルスは地下牢へと続く部屋を探しに行くのだった。


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