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暴かれた正体


テレポートでネーベルフォレストへとやって来たミネリアとロベルト。

ロベルトの目の前には霧が立ち込めており、数メートル先も見えないほど視界を覆い尽くしていた。


しかし、帝国の襲撃を受けたにしては木々がなぎ倒されているところもあるが、ほとんど被害がなかったように見える。これもこの霧のおかげなのだろう。


「ミネリアさん一つ聞きたいんですが、これどうやって中に入るんですか?」


「実は、この森の前までは来たことあるんだけど、中に入った事はなくてさ。噂では、森に入っても霧に阻まれてすぐに同じところに戻されるらしい。あんたの力でどうにかならない?」


流石のロベルトもこれにはお手上げ状態で、途方に暮れていると、ミネリアは森へ向かって大声で叫び始めた。


「私はラグシルの街のギルドマスター、ミネリアと言う者だ! レイナと言うハピュの子をある奴が送り届けたはずだが、そいつを探している!」


しかし、しんと静まり返った霧の中からはなんの気配も無い。

どうしようかと悩んでいると、霧の外を偵察していたハピュ族の男が声をかけてきた。


「レイナは無事ですよ。送り届けてくれた大恩人は旅立たれ、どこへ行ったかは我らも知りません。我らも帝国の襲撃を受け対応に追われているのでね」


大恩人と言う言葉にミネリアは引っかかりを覚える。


少女を送り届けただけで大恩人と呼ぶのはおかしくないか? いや、子は宝というしハピュ族は子どもを大切にする種族なのかもしれない。


「ここの長と少し話をさせてもらいたい。別に中でなくてもここで話を聞かせてもらって構わないんだけどね」


「そうですか、族長様にお伝えしてきますので少しお待ち下さい」


そう言うとハピュ族の男は霧の立ち込める森の中へと消えていった。


「ミネリアさん、調べてどうするつもりなんですか? 王子とドラゴンがどう関係するのかは気になりますけど、そこまでして追うのは何か理由が?」


「ロベルトは聞いたことがないのか。ラグシルの街に伝わるおとぎ話」


ミネリアはハピュ族の男を待つ間、ロベルトにおとぎ話を聞かせる。


『はるか昔、ある村に心優しい青年が住んでいました。村のみんなからの評判も良く、誰よりも働き者でよく村人から頼られていました。


しかし、ある時突然青年は姿を消してしまいいくら探しても見つけることが出来ず、そして青年が姿を消して十年、村が魔物に襲われた時、一匹の緑のドラゴンが現れ村を救ったのです。


ドラゴンは自分の名をラグシルドと名乗り、村人は驚きの声を上げました。その名は村からいなくなった青年の名だったからです。


緑帝竜は人々に恵みを与え、いつしか村は街と呼ばれるほど大きくなり、親しみを込めてラグシルの街と呼ぶようになりました。

今でも街の近くの森に緑帝竜が見守っていると言い伝えらています』


「消えた青年と同じ名のドラゴンが現れた。今回も同じだとミネリアさんは考えているんですね。だからそれを確かめる為にここに来たってことですか」


「まぁね。もし王子がドラゴンになれるとしたら、その力で帝国を潰せるかもしれないと思ってね。中立を貫くヴォルフ王よりも説得しやすそうだしさ」


ようやく森の中から先ほどのハピュ族の男が現れた。


「族長様から許可がおりましたので、中へ案内いたします。迷わないようにしっかりと私について来てください」


ミネリアとロベルトはお互いに頷くと、ハピュ族の男の後を追って霧深い森の中へと入って言った。


数メートル先も見えないほどの霧の森の中をハピュ族の男は迷う事なく進んで行く。

ここで迷うと出られなくなる可能性があるので二人は見失わないように必死について行くと、しばらくして霧が少しづつ晴れていき、目の前に村の門が見えた。


門番と話をして中へと通されると、ハピュ族の子どもたちが仲良く遊んでいるのが見え、その中にはレイナの姿があった。


「おーい! 無事で良かったレイーーー」


歩み寄ろうとしたミネリアの姿を見たハピュ族の子どもたちとレイナは、驚いたのか建物の影へと隠れてしまった。


「すみません、みんな人族をあまり見たことがないので」


他のハピュ族の子どもたちが逃げるのは分かるが、レイナが逃げた事にミネリアは動揺してしまう。


「街で会った時何か悪い事をしたっけ? それとも忘れられたかな」


「あ、原因僕かも知れません。街で色々あったので。それとも本当にミネリアさんが怖いのかもって、冗談ですよ! 冗談! だからその拳しまって下さいっ」


握り拳をわなわなと震わせながらも、ここで殴ると余計に子どもたちを怖がらせると思い耐えるミネリア。


「さ、どうぞ中へ。族長様がお待ちになっております」


立派な建物の中へと案内され廊下を抜けると一つの部屋の前で止まった。

扉を叩いて中へ入るとそこは畳の居間で、真ん中には日本風のテーブルと座布団が置かれており、風格のあるハピュ族の長ウォルタナが出迎えた。


ロベルトは土足で上がろうとするミネリアを慌てて止め、靴を脱いで畳へと上がりウォルタナと同じように座布団へと座らる。


本題を切り出そうとするが、まずはお茶と茶菓子をと勧められ、断る理由もないと二人はお茶を頂く。


畳の香りと注がれたお茶のいい香りが漂ってくる。そして茶菓子は砕かれたくるみがまぶされた水羊羹がとても美味しそうだ。


ロベルトは久しぶりに日本に来たような気持ちになり懐かしみを覚えながら茶菓子とお茶を頂くが、ミネリアは初めてのようで足を組んで座ったりキョロキョロと周りを見回して落ち着きがない。それに茶菓子を手で掴んで口へと運んでいる。


「ミネリア殿とロベルト殿だったな。茶菓子は口に合っただろうか?」


「はい、お茶の苦味と茶菓子の甘さが合わさってとても美味しいです」


「それは良かった。あと一人来るので待ってもらいたい」


「あと一人?」


トントンと扉が叩かれ、透き通るような金の髪をなびかせたシュエットが部屋へと入って来ると、にこりと笑顔を二人へと見せウォルタナの横へと座った。


ふと横を見ると、シュエットに目が釘付けのロベルトがニヤニヤとしていたのでミネリアは肘打ちを入れる。


「貴方がここに来たのはシロの事らしいわね。私たちが話せる事は無いと言ってもいい。どこに言ったのかも私たちは知らないわ」


シュエットは隠し通すつもりみたいだが、そう簡単にミネリアが諦めるはずはない。


「単刀直入に言う。シロがシュトラールの王子だって事は知ってるよ。ドラゴンに姿を変えられるのもね」


シュエットから笑みが消え、ウォルタナは驚きのあまり目を見開き表情が強張る。


「そういえばレイナが私を見て逃げたんだけど、あの子にも話さないように言っているのかい?」


「いいえ、レイナちゃんがこのままあの子について行けば危険だと判断して少し記憶を消したの。あの子なら後を追う可能性が十分にあったから」


「だから僕とミネリアさんを見ても気付かずに逃げたのですね。でも、記憶を消すなんて貴女は一体何者なんですか?」


「あら、挨拶がまだだったかしら? 私はこの森とハピュ族を護る守護獣、シュエットよ」


ロベルトは確認の為にステータスを見てみる。


ーー守護獣・シュエットーー

ネーベルフォレストとハピュ族を守る守護獣。霧を使い敵を惑わせる力を持つ。争いを好まないハピュ族の為に霧で外との関係を遮断した。

ミストウィング、ミストイレーズ、ブリーズ、コンフィシオンなどが使える。


「ミネリアさん、ステータスを確認しましたが本当みたいです」


「じゃあお互い腹を割って話し合おうか。私たちが欲しい情報は王子の行方についてだ」


難しい顔をして考えているウォルタナを見て、シュエットが今まで何があったのか話し始めた。


アルスがレイナを送り届け、その後帝国軍の大将ベレーノと戦いハピュ族を助けてくれた事を話す。


「今いる場合は分からないけど、アルス王子の魔力は知ってるから連絡出来るわ。今から本人に直接聞いてみましょうか?」


「え、今出来るんですか!?」


もちろんとシュエットは霧を作り出すと、円を描くように霧をどんどん丸く集めて行く。そして淡い光を放つ丸い水晶が現れると、水晶に話し始めた。


「シロちゃん聞こえてる?」


「シロちゃん!? その呼び方はやめて下さいってその声はシュエットさん? え、どうやって・・・」


ふと見ると目の前に水晶が浮かび上がっており、そこから声が聞こえていた。


「おい! 今どこにいるんだ! お前を探してこっちはネーベルフォレストまで来たんだぞ!」


「ミネリアさん!? え、ネーベルフォレスト? さっきまでクアイさんの所にいたはずじゃ・・・」


「何で知ってるんだ?」


このままではまずいと黙り込むアルスだったが、ミネリアの次の言葉で黙っている訳にはいかなくなってしまう。


「あんたがシュトラール王国の王子だと言う事は知ってる。私たちはあんたと手を組んでこの戦争を終わらせたい。まだ陛下には話してないけど、私が説得するから力を貸してくれないか」


また勝手なことをとアルスはため息を吐く。


「帝国が追っている俺に協力を仰ぐなんてどうかしてますよ。それに国王がそんな危ない橋を渡るとは思えませんね」


確かに王子が生きていてドラゴンの力が使えると国王に話したところで、優先されるのは国民の命。本当か嘘かも分からない話に耳を傾けさえもしないだろう。

だが、ようやく尻尾を掴んだんだ。ここで引き下がるわけにはいかない。


「じゃあ一人で帝国と戦うつもりかい? まあ危険な賭けでもあるが、戦力を手に入れる可能性があるんだよ?」


「ミネリアさんの言う通りですよ。その力があれば戦争を止められるし、戦うなら数は多い方がいいと僕は思います」


戦力になる? 今まで帝国の脅威から逃げていた国が今更戦ったところで、無駄に命を散らすだけにしかならないだろ。

帝国と戦うのではなく、自分たちの国を守ってくれる盾として俺の力が欲しいだけだ。


ロベルトの言葉についにアルスは怒りをあらわにする。


「好き勝手言うんじゃねぇよ。俺がどんな思いでこんな姿になったと思っているっ!」


周りが一気に静まり返る。


アルスはハッと我に帰ると感情的になり過ぎたと思い、落ち着くために深呼吸する。


「もし戦う意思があるなら、3日後に俺はシュトラール王国を奪還に向かいますので、そこで落ち合いましょう」


「3日後!? 国王を説得したとしても時間がないじゃないのさ!」


「そこにいる少年の力でも使えば十分間に合うんじゃないですか。俺はもう行きますので」


そう言うと、アルスは腕を振り上げ目の前の水晶を叩き割った。

粉々に砕け散った水晶は霧に戻るとスッと消えてしまった。


「あら、通信が切れちゃったみたいね」


「あーっ! なんだよ! ・・・仕方がないロベルト、王室に乗り込んで直接交渉だ」


「えー!? 王室に乗り込むんですか! もし説得できなかったら二人とも打ち首ですよ!」


「その時はその時だ。守護獣シュエットに族長ウォルタナ殿、世話になったな」


ロベルトは虚ろな目で、この人に着いていると命がいくつあっても足りないとブツブツと文句を言いながらミネリアと共に光に包まれて消えて行った。


「守護獣様、やはり我々も協力しましょう。我々が今いるのはアルス殿が身体を張ってまでこの森を守ってくれたおかげです。いつまでも閉じ篭っている訳には・・・」


「私に許可を得る必要はないわ。ハピュ族を動かすのは貴方よ」


ウォルタナは驚いたようだったが、こくりと頷くとシュエットを残して部屋を後にした。


「・・・やはりこうなってしまうのね。あの子が闇となるか光となるかは運命次第。私も動く時が来たのかもしれない」


そう言い残すと、シュエットは霧となって消えていった。



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