隙間にはまったチビドラゴン
これはまずいな。分かってはいたが、こんなにきっちりとはまってしまうとは思わなかった。
アルスが窪みから出ようとしたところ、身体がつっかえてしまい、何とか抜け出そうと試行錯誤したが、結局頭だけが窪みから出た状態から身動きが取れなくなってしまった。
このまま人に戻ろうとしたが、今の状態では使用出来ませんと言われてしまい、途方に暮れていると、廊下の奥からミネリアとロベルトの声が聞こえて来た。二人とも急いでいるのかドタドタと大きな足音が近づいて来る。
もう戻って来たのか! くそ、前が無理なら後ろにと思ったが身体が完全にはまって前にも後ろにも行けない。
爪で引っ掻いてみたが傷しか出来ないし、もう見つからないように置物のようにじっとしているしかなさそうだ。
そうこうしているうちに、ついにミネリアが金色の髪をなびかせながら走って来た。
が、相当慌てていたようでアルスには見向きもせず走り去って行った。
気づかずに行ってくれたか。この状態で見つからないとは、それほど急ぐ用事が出来たのだろうか。
自分の事を探しているとは思いもしないアルスがそんな事を考えていると、ようやく後からロベルトが息を切らして走って来るのが見えた。
「ミネリアさん待って下さいよっ! もう、人の話聞かないし、ここにどうやって来たかも忘れて・・・ん、何これ? 」
壁の窪みにはめ込まれた水晶の横に、白くてもふもふしたものが挟まっている事に気がついたロベルトは、近づいて確認して見る。
「来た時はこんなのあったかな。ってかこれぬいぐるみ? 結構リアルだな、それもドラゴンのぬいぐるみなんて珍しいし。落としたのを誰かがここに置いたのかな」
そうそう、だからこのまま放っておいてお前はミネリアを追って早くここから去ってくれ。
静かにロベルトがいなくなるのを待っていたアルスだったが、何を思ったのかロベルトはアルスを引っ張り出そうと試みグイグイと強く引っ張り始めた。
「な、これめっちゃ挟まってるじゃん!」
ぐいぐいと引っ張られ、なんとか痛さを堪えていたアルスだったが、ロベルトの強引な救出で引っ張り出されると同時に、「ギャウッ!」と声が出てしまった。
「おわっ!?」
ロベルトが驚いて手を離した隙に、アルスは地面に四脚をつくと、全速力で出口とは反対方向へと向かう。
出口には先ほどミネリアが走って行ったので、前と後ろで挟み撃ちを避ける為だ。
「逃すか【アースチェーン】!」
無数の石の鎖がアルスへと襲いかかるが、右往左往と小さい身体を活かして華麗に避けて行く。
「くそっ、素早い奴だなぁ。これなら逃げられないだろ」
無数の鎖がアルスの進路を塞ぎ、逃げる隙間もない程埋め尽くされてしまった。
「さぁさぁどうするおチビさん。さて、こいつは俺に相応しい下僕になるかステータスチェックだ」
まずい、【ホワイトアウト】!
アルスを中心に強烈な光が辺りを覆い尽くし、直視したロベルトは目を抑えて転げ回る。
「くそ、目があぁぁ! って、バルスしてんじゃねぇよ!」
そんな魔法知るかと思いながら、ロベルトの横を走り抜けようとしたその時、ロベルトを探して戻って来たミネリアと鉢合わせしてしまった。
驚いて一瞬立ち止まりかけたアルスだったが、ミネリアにも目潰しを行おうと構えたその時、それよりも早くミネリアの手が伸び、アルスは掴み上げられる。
「キュンッ!」
ジタバタと暴れるアルスを器用に捕まえ、ミネリアはこいつをどうするんだ? と問うと、ロベルトは目をこすりながら答える。
「そうですね、僕の下僕にして成長したら僕の騎竜にと思っていますけど、いけませんか?」
呆れたミネリアは溜息をつき、ロベルトを警告する。
「ロベルト、ドラゴンを騎竜になんてするのは口が裂けても言うんじゃない。帝国と同じ事をしたとなれば、反逆罪で最悪の場合は打ち首だ。だからこいつは逃してやるんだ、いいね?」
打ち首と聞いて唾をゴクリと飲み込んだロベルトは、逃していいとコクコクと頷いた。
ようやくミネリアから解放されたアルスは、大慌てで出口へと向かって走って行く。
ようやくロベルトの目が見えるようになった頃には、アルスの姿は見えなくなっていた。
「さ、休んでる暇はないよ。あのちびっこいのは放っておいてシロを探しにネーベルフォレストへ向かう」
「はいはい、僕はネーベルフォレストに行ったことがないので、ミネリアさんがテレポート先の風景を思い浮かべて下さい」
ミネリアは目を閉じると、ロベルトは詠唱を始める。
「【我の求めし場合へと誘え、テレポート】」
二人は光に包まれると、あっという間に光と共に消えてしまった。




