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騒がしい朝


窓から差し込む朝日とともにピチュン、チチチと朝が来たことを喜ぶ鳥のさえずりが聞こえ、シェンはゆっくりと目を覚ました。


「おや、目が覚めたようだね。君たちが倒れていたところを偶然見つけてここまで運んだんだ。さ、喉が渇いているだろうからこれを」


水の入った瓶を手に取ると、クアイはゆっくりとコップに水を注ぎシェンへと渡した。


喉が乾いていたシェンはそれを一気に飲み干す。 冷たい水が喉を通り一気に目が覚めたシェンは、ゴーレムに襲われた所をアルスに助けてもらった事を思い出した。


「そうだ、私たちシロに助けてもらったんです。シロはいますか?」


「あぁ、彼は用事があるからって街を出たよ。今回は、僕がいなかったせいで危険な目に合わせてしまってすまなかった」


頭を下げるクアイに慌ててシェンは頭を上げて下さいと言う。


「私たちが悪いんです! 危険だと分かっていて森に入っちゃったから。本当にありがとうございました」


「まぁ、今は無理せずゆっくりと休むといいよ。何かあったら僕は隣の部屋にいるからね」


そう言って部屋を後にしたクアイは、隣の部屋に戻ると椅子へと腰掛け、毎日の習慣でもある紅茶を飲もうと茶葉を入れる。


しばらくしてお湯が沸きカップへと注いでいくと、甘く芳しい香りが立ち上りそれを口へと運ぶ。紅茶の香りが口に広がりホッと一息ついた時だった。


ドタドタと慌てて走ってくる音が隠し通路の奥から聞こえ、アルスが忘れ物でもしたのかなと呑気に考えていると、勢いよく扉が開かれ入って来た二人を見たクアイは、紅茶を噴き出しそうになってしまった。


入って来たのはアルスではなく、隣の大陸にある街のギルドマスターのミネリアと、こげ茶色の髪の少年だった。


アルスと鉢合わせになってしまったのではないかと冷や汗をかきながら、ここに来た理由を尋ねる。


「手紙でもなく、わざわざお越し下さったのには理由がありそうですね」


「まあね、ちなみにこいつはついて来たいって泣きつくから連れて来ただけだけどね」


「な、嘘をつかないで下さいよ! 泣きついてなんかないです!」


泣きついてないと言い張るロベルトだが、それを無視して後ろでまとめてある金色の髪を揺らしながらミネリアは話を続ける。


「最近帝国の大将二人が行方不明らしい。大将の一人であるベレーノの騎竜は見つかったけど、セルノラ及びその騎竜も消息不明でさ。ベレーノが拠点としていた街から帝国軍が撤退しているのも気になるけどね」


「仲間割れか、反乱軍の仕業か。いずれにしても帝国を叩くチャンスだと各国が動き出し、僕のギルドにも応援を要請しに来たってところかな?」


「まぁ、そう言う事。帝国も無視出来ないんだけど一番厄介なのが緑帝竜と炎帝竜の争いかな」


クアイは帝竜の争いと聞いて眉をひそめる。


今まで帝竜が争ったなんて記述には無い。

世界のエネルギーの管理をしている者同士が争いを起こせば、エネルギーは乱れ世界の理が崩れる危険がある事を帝竜たちは知っているはずだ。


考え込むクアイを面白そうにニヤニヤと笑っているミネリア。それを呆れて見ていたロベルトはため息を吐く。


「そこでだ、最近目撃された白銀のドラゴンが鍵になるのさ。その争いを死ぬ思いで見ていた人によると、まるで緑帝竜が白銀のドラゴンを守っている様だったらしいんだけど、温厚な緑帝竜が戦うってのは何かあると私は見てるんだけどね」


白銀のドラゴンと聞いてロベルトは、街で戦いを挑んだものの手も足も出ずにやられた事を思い出した。


「あ、そいつ知ってますよ! 確か緑帝竜と一緒に街にも来てて、しかも名前持ちでーーーー」


ミネリアがそれを聞いて固まったと思ったら、いきなりロベルトの頭へと重い一撃を食らわせた。


鈍い音と共に床に倒れ込みジタバタと暴れるロベルトを哀れに思っていると、ミネリアは声を荒げる。


「何でもっと早く言わないんだこの馬鹿! 争う前に止められたかも知れないし、それにお前の能力は聞いていたけど、人化も見破れる何て初耳だ。で、名前持ちだって?」


コクコクと涙目で頷き、殴られたところを撫りながら話し始める。


「は、はい。名前は所々文字がバグってて読めない所もありましたけど、確か【アルス】と読めたと思います」


その名前が出され、ミネリアとクアイは驚きのあまり目を見開きミネリアは前のめりになってロベルトへと問う。


「アルス・・・だって? その名前は今帝国が探しているシュトラール王国の王子の名前じゃないか。何故その名前を・・・」


「何かの間違いではないですか?」


クアイも信じられず首を傾げる。

確かに先ほど会ったのは間違いなくアルス王子だった。ドラゴンが化けていたとしても人の匂いまでは真似出来ないはずだ。


「その人に化けていたドラゴンは王子の特徴とも言える銀の髪と青い瞳でしたか?」


「え、いや、顔は見えませんでした。全身黒のローブでフードを深く被っていたので」


黒のローブにフードと聞き、どこかで見たようなとしばらく考えていたミネリアは、ある人物を思い出し、あーーっ!! と声を荒げた。


「今すぐネーベルフォレストに向かうぞ!」


「あっ、待って下さいよ! 話し合いはどうするんですか!?」


そんなものは後回しだと言いながら走って行くミネリアを、ロベルトは慌てて追いかけて行った。


ようやく静かになったと胸を撫で下ろすと、冷めた紅茶を片手に椅子へと座る。


「アルス王子、貴方は一体何者何ですか? 今見ていたのは貴方に化けたドラゴンか、それとも本物なのか」


静かになった部屋に少しだけ寂しさを感じながら、クアイは紅茶を楽しむのだった。


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