次なる目的地
薄暗い廊下にアルスの歩く足音だけが響き、出口がある向こうからは陽が当たらないからか、ひんやりとした空気が奥から流れ込んできている。
薄暗いといっても、廊下の横には弱々しく光を放つ水晶が、壁の窪みに収められており、それが点々と続いて廊下を不気味に照らしていた。
早くこの場所を抜けたいと思いながら、アルスは今後について考えていた。
ヴォルフ王がレムレス復活を怖れている以上、シュトラール奪還の為の同盟は組めそうにない。
残っているのは最初に目覚めた場所にある国か、この大陸にある砂漠の国、もしくは陥落した同盟国。どの国も一筋縄ではいかないだろう。
なら、いっそこのままドラゴンの姿で乗り込んでーーーーって何を考えているんだ俺は。
ふと何かを感じて耳をすますと、奥の方から足音と話し声がこちらに近づいて来るのが分かり、アルスは立ち止まった。
罠?いや、クアイさんの知り合いか?どっちにしても見つかると面倒だ。
辺りを見回すも隠れる所はなく、曲がり角の奥からどんどん近づいてくる足音にひとり焦るアルス。
まずいまずいまずい! 隠れる場所が本当に無いぞ。戻っている時間も無いし、横の水晶の置かれている窪みなんて小さすぎて入れないし・・・小さい?
今の姿だと到底入れないが、あのチビドラゴンならもしかしたらギリギリ入れるか?
【可能です。姿を変えますか?】
突然の声にビクッとなってしまった。
いつもそうだがこの声は突然話し始めるので驚いてしまう。あの姿は嫌だが緊急事態だし仕方がない。
急いで始めてくれと答えると、身体はみるみると小さくなり、ふわふわの毛に覆われたドラゴンの姿へと変わった。
脱ぎ散らかされた服を空間魔法で仕舞い込むと、水晶の置かれた窪みへと身体をよじって入り込んだ。
「久しぶりにこの道使うけど、相変わらず薄暗いし寒気がするし私ここ嫌いなんだよね」
「ミネリアさんあまり早く歩かないで下さいよ。何で俺がこんな事に・・・」
ミネリア? 確かラグシルの街のギルドマスターだったはずだ。こんな所で出くわすなんて思わなかった。
それにあの声は、俺の正体を見破ったこげ茶色の髪の少年じゃないのか?
「あんた男なんだから私の前を歩いてエスコートくらいしたらどうなんだい?全く、近頃の男は弱々しくて駄目だね」
「ミネリアさんほど男らしい女性はいませんよ」
ガンッ! と頭を殴られ痛ってぇっ!? と立ち止まった少年が暴力反対と言おうと、ふと横を見るとミネリアは腕を組んでうーむと考え込んでいた。
「どうしたんですか? ミネリアさんが考えるなんて珍しいですね」
また殴られると思いサッと頭を守るが、拳は飛んで来ず、ぶつぶつと独り言をいいながら考えるミネリアを見てホッとする少年。
「さっきまで聞こえていた足音が聞こえなくなったと思ってさ。音の距離からこの角で鉢合わせすると思ったんだけど・・・」
「ち、ちょっと怖い事を言わないで下さいよ! からかってるんですか!」
やはりミネリアは鋭いな。まぁ、このままここに隠れていれば見つかる事は無いだろう。それよりも目の前で立ち止まってないで早く行ってくれ。
水晶の裏でドキドキしているアルスがいる事など知らない二人は、お互いに居るか居ないかと議論し始めた。
「あんたの能力を使えば正体が分かんじゃない? 頼りにしてるよ、えっと名前何だったっけ?」
「ロベルトです! いつになったら覚えてくれるんですか! それにもしいなかったら、お、お化けかも・・・」
「怖がりだなぁ。もしお化けがいたとしても私がいるんだから大丈夫、ほら早くしなよ」
渋々ロベルトは【アナーリジ】と唱え辺りを見渡してみる。
【ア?¥@*%テラ19$*シュ10*%ル
弱995@&¥力478*#%3&¥53*
$*#%r4683iーーーー読み込み失敗】
「読み込み失敗って事は・・・」
ロベルトの顔色がみるみる内に真っ青になるのを見てバレたと思ったアルスだったが、ロベルトはお化けえぇぇぇっ!! と叫び声を上げながらミネリアを置いて逃げてしまった。
「か弱い女の子を置いて行くんじゃない! 待てこらっ!」
ミネリアは逃げて行ったロベルトを追いかけて行ってしまった。
やれやれ、ようやくうるさい嵐が過ぎ去っていったな。さてと、砂漠の国レオーネに行ってみるか。あそこも中立を貫いてきた国だが、交渉次第では何とか同盟を結べるかもしれない。
アルスは深呼吸してから砂漠の国を目指す為、人気の無い森を目指して静かに歩いて行った。




