依頼の内容は
茂みから大柄な猫の獣人族が現れると、その後ろからぞろぞろと十人程の獣人が集まってきた。
それぞれの手には剣や斧、槍、弓が構えられ、アルスに狙いを定めている。
「大きな音を聞いて来てみれば、我々の大切な森の木々をこのようにるだけでなく、仲間まで手をかけるとはっ!」
「血の気が多いな。先に矢を放つよりも話し合いから始めるべきだと思うが?
それに、襲われていたのを助けただけだ。疑うならこの三人が目覚めた時に聞けばいい」
顔を見合わせてどうするか話し合っている獣人たちの後ろから、すらりとした男性の獣人が現れた。
その毛並みは淡黄色に黒の斑点模様が並び、目から口にかけて黒い筋模様が入っており、まるでチーターのような容姿をしている。
「また君たちは先に手を出したのか。いつも言っているだろう、まずは相手の話を聞いてから行動するようにとね」
どうやらこの獣人がこのグループをまとめている人物のようだ。話が通じる相手で良かった。
「うちの者がいきなり矢を放って悪かったね、僕は近くの街のギルドマスターをしている『クアイ』といいます。その三人とも面識があるんだけど、一体何があったか聞かせてくれるかな」
アルスはギルドで三人が笑い者にされていたのを助けた事、ガルフがそれを根に持ち三人を騙して魔物に襲わせようとした事、その魔物と先ほどまで戦っていた事を全て伝えた。
「そんな事があったのか。もし君がいなかったら、今頃三人は魔物に食べられていただろう。三人を助けてくれてありがとう。ほら、君たちも言うことがあるよね」
「・・・何も聞かずに矢を放ってしまって本当にすまなかった」
獣人たちは次々に深く頭を下げ、先ほどの行いを反省した。
「そうそうガルフなんだけど、直接的に関わった証拠が無いなら罰することは難しいだろうね。でも、今後はこのような事が起きないように監視しておくよ」
やはり証拠が無ければ駄目なのか。
あのミーシャと言う獣人を連れて来たとしてもガルフが認めなければ意味がない。
泣き寝入りとなってしまうが、ギルドマスターがそう言うなら任せるしかないな。
「さあ、早く三人を運ばないと暗くなればなるほど森の中は危険になるからね」
アルスたちは暗くなる前に街へと戻る事にした。魔物などに出会わないように鼻が利く獣人を先頭に森の中を進んで行く。
すると、後ろに歩いていた獣人たちがコソコソと小さな声で話し始めた。
「しかし今回のヴォルフ王直々の依頼には驚いたよな。帝国絡みの依頼だとは聞いていたが、まさか『シュトラールの王子を見つけよ』なんて言われるとはなあ」
「どうするのかねぇ・・・まさか帝国と手を組む気なのか?」
「さあな、詳しい話はクアイさんしか知らない。でも帝国が探し回って見つからないんじゃあもう無駄だと俺は思うがな」
後ろの獣人の話によると、ヴォルフ王が動き出したらしい。
俺を見つけるようにと依頼している目的は、帝国と対立するか、それとも傘下に入るかのどちらかだろう。
ヴォルフ王が手を貸してくれるなら、シュトラール奪還もそう難しくないだろうが、もし帝国と手を組んだとしたら長居は出来ない。
何にしても今は情報が無さすぎる。
一番聞きたいのはヴォルフ王がどちらに手を貸すのかだが、それにはクアイから聞き出す必要がありそうだ。




