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空腹を満たす場所へ


しばらく浜辺を歩いていると、森の方から叫び声が聞こえた後、勢いよく何かが砂浜へと飛び出して来た。


先頭を走るのは獣の耳と尻尾を持つ獣人の男、そして後ろから同じく獣人である二人の女が走って来る。


その後ろからは耳が長く、人が乗れる程の大きさの魔獣がよだれを垂らしながら追いかけていた。


「もう! 私たちじゃラビットファングは討伐出来ないって言ったのに、あんたが大丈夫だって突っ走ってこの有様じゃないバカ!」


「だって相手が強ければ襲って来ないって依頼書には書いていたんだよ!」


「じゃあ何で私たち襲われてんのよ!」


「弱いから襲われているですの!」


魔獣から逃げる三人はアルスに気づくと、慌てて危険を知らせようと声を張り上げる。


「そこの人! 危ないから逃げて!」


魔獣はギュウウウ! と鳴き声を上げ、砂を撒き散らしながら飛び跳ねて三人を追いかける。


あれはラビットファングと言う魔獣で、確かCランクの魔獣だったはずだ。

相手が強ければ逃げ出す臆病な性格だが、相手が弱いと分かると襲いかかる習性を持っている。

よほどこの三人が弱く見えたのだろう。


三人はアルスの横を抜けて逃げ続けるが、アルスは逃げずに立ち止まっている。


「あの方、恐怖で動けないみたいですの。

仕方がないですわ、レーゲン貴方の犠牲は無駄にはしないですの」


「へ?」


耳の垂れた獣人がレーゲンの前へと立ち塞がると、ニコッと笑顔を見せ勢いよく蹴り飛ばす。


「覚えてろカルムうぅぅぅ!!」


ドシャッとアルスの前に落ちたレーゲンは、アルスと魔獣を交互に見ると泣きそうな顔を見せる。


「俺の犠牲で人が助かるなら、この命、この命を、この・・・・やっぱ無理だあああああああ!」


泣き崩れるレーゲンにやれやれとアルスはため息を吐き、よだれを垂らし大口を開ける魔獣へと歩み寄る。


「お、おい! 俺じゃあどうする事も出来ないぞ! 食べられても知らないからな!」


レーゲンはそう言うと、そそくさと後ろへ走り去って行く。


魔獣は後脚で砂を掻き、耳をピンと立てながらいつでも襲えるように体勢を整える。


ちょっと脅してやれば簡単に追い払えるだろうが、目の前にある食料を逃すわけにはいかない。

ラビットファングの肉は臭みが強くおいしいとは言えないが、背に腹はかえられない。


「グルル・・・」


何かを感じ取ったのか、魔獣は今まで立てていた耳を垂らし後ずさりし始める。


相手が逃げぬうちにと、剣を空間魔法で取り出して構える。

さっきまでとは違い、魔獣は耳を垂らしたままブルブルと震え、大慌てで逃げて行く。


それを逃すまいと土魔法の壁で逃げ道を塞ぎ、後退してきた魔獣の首へと斬撃を繰り出した。


魔獣は首から血しぶきを上げ、砂浜へと倒れ込むと、ピクピクと痙攣して動かなくなった。


それをぽかんと口を開けて見ていた三人だったが、ハッと我に返ると歓喜の声を上げる。


「凄いな! どうやったらあんなにかっこ良く戦えるんだ?」


「それに比べて、あんたはどうやったらあんな無様な姿を晒せるのかしらね〜」


「ですの」


「はあ!? カルムもシェンも逃げてたろうが!」


漫才ごっこを始める三人の隣で、アルスは黙々と魔獣の解体を始めようとしていると、それを見た三人は申し訳なさそうにアルスへと歩み寄る。


今さら、これは俺たちの獲物だなんて言われるのだろうかと考えていたが、命を救われたので何かお礼がしたいと三人は言いだしてきた。


別に大した事はしていないから構わないと言うが、三人はしつこく迫ってくるので、渋々街でご馳走して貰うという事で収まった。


三人は早々とラビットファングの毛皮を剥ぎ取ると、袋の中へと押し込む。

戦いはあれだが、獲物を捌く技術はあるようだ。


「助かりましたけど、ラビットファングを貰っちゃって良かったんですか?」


「ラビットファングは臭みが強い、それなら街で食べ物をご馳走して貰った方がいい」


「そうそう、今回の依頼も毛皮狙いの依頼だしな。そういえば、何でシロの兄貴はあんな何もない砂浜に?」


「顔を隠しているのもそうですが、匂いも気になりますの。嗅いだことのあるような無いような・・・・」


「どこで聞いたかは忘れたけど、顔を隠さないといけない宗教があるって聞いた事がある、って何してるの!」


アルスに近づいて匂いをクンクンと嗅いでいるカルムを、シェンがこっちに来なさいと強引に引っ張って行った。


シェンが勘違いしてくれたおかげで、何とか乗り切る事ができ胸をなでおろす。


いつの間にかレーゲンと呼ばれる獣人の男にシロの兄貴と呼ばれ、この騒がしいチームと一緒に街まで行動する事になったアルスは、三人からこの場所について聞き出しながら街へと向かう事にした。


レーゲンが言うには、ここはシュトラール王国のあるフィーネ大陸から海を挟んだ隣にあるベスティエ大陸らしい。


この大陸は確か獣人が多く住む場所で、帝国とも他の国とも同盟を結ぶ事なく中立しており、大陸の中心にこの国の王ヴォルフ・ル・ラベルトが納める国がある。


「お、見えてきた。あれが森の中の街フォレスタだ」


レーゲンが指差す方向を見ると、森に囲まれた大きな街が現れた。

街の至る所に大きな木が多い茂り、街と言うより森のように見える。


「お腹すいたですの、早く行きましょう」


カルムを先頭にアルスたちは街の門へと歩いて行った。


途中魔獣が現れたが、全てアルスのひと睨みで逃げていき、ますます三人はアルスのように強くなりたいと憧れるのだった。


ようやく街へとたどり着き中へと入る時、門番が少し不思議そうに見ていたが、シェンと同じように宗教だと思われたようで、止められることなく入る事が出来た。


賑やかな街の中を抜けてギルドに到着すると、何故か三人の表情は険しく、中に入るのを嫌がっているようだった。


「どうした、中に入らないのか?」


「いや、一緒に入ったらシロの兄貴に嫌な思いをさせる。今回の報酬をパパッと貰って来るから兄貴はここで待っててくれ」


レーゲンはそう言うと俯くシェンとカルムを連れて中へと入っていった。


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