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永遠の苦しみから解放される為に


『相変わらず口が悪いのぉ、お主のやり方は間違っておる。少し落ち着くんじゃ』


ラグシルドの言葉に鼻で笑いながらジャファールは話し始める。


『神も馬鹿じゃねぇ、これが最後の機会だ。

その為ならお前を殺してでも俺は元に戻る』


『すぐに頭に血が上るのがお前の悪いところじゃのぉ』


『黙れっ!!』


ジャファールの身体が炎に包まれ、まるで噴石のようにラグシルドへと向かっていく。


ツタを何重にも束ねた壁で受け止めたラグシルドだったが、炎の勢いが強くブチブチと音を立てながらツタが焼き切られていく。


『アルス、このままだとまずいことになるぞ!加勢してくれんか!』


痛みに耐えながらなんとか首だけを持ち上げて見ていたアルスに念話で話しかける。


そう言われても俺重症なんだが。

なんとか炎は吐けそうだが、この距離だと避けられてしまうだろう。


まだ人には戻れないし、これでは戦いに加勢するどころか足手まといになるだけだ。


【お困りのようですので、白竜についての詳細を表示します】


いつもの声が頭に響くと、今の姿である白竜について淡々と話し始める。


【癒しの力が使え、ある地方では崇められています。

まだ幼い為使える魔法は少なく、毒や麻痺などの状態異常は癒せても傷を癒す力はまだ使えないようです。光魔法を得意とし、ホーリー、ライトクロー、ライトヒール、ホワイトアウトが使えます】


この場から炎帝竜に致命傷を与えられる程の攻撃は無いのか?


【どれも求める力に該当しません。

ホワイトアウトを使う事でこの場から逃げる事が可能】


逃げると言う答えに全身に力が入る。


逃げる?前にも言ったが俺は絶対に逃げないし諦めない。何故お前は危険から逃げる事ばかりを俺に勧めるんだ。


【貴方は特別なのです。

神、ヴァイアス様は今までの者たちよりも貴方に期待しています。死なせるわけにはいきません】


要するに結局全て神の為か。

なら、なおさら逃げるなんて選択は選べないな。あいつの思い通りになるのは不快だ。


痛む身体を起こし立ち上がったアルスはブレスを放つ為に息を大きく吸い込む。


【逃げるべきです。逃げなさい。

早く、去れ、離脱しなさい。無理です。

神を裏切る行為は辞め、逃げなさい】


いや逃げない。

お前や神の為じゃなく、俺は自分の意志で守りたい人の為に動く。


【逃げなさい、逃げろ!

何故逃げない? 理解不能。

神を失望させないで。逃げて、早く、逃げなさい。逃げろ!

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!】


逃げろと訴え続ける声を無視して炎が吐き出される。

ジャファールは下から向かってくる炎に気づき素早く避けるとギッと睨みつけて牙を剝きだした。


『弱いくせに邪魔すんじゃねぇっ!』


ジャファールはラグシルドから離れると、アルスへと急降下する。

それを止めようとツタが伸びてくるが、炎を纏った身体には届かずあっという間に燃えてしまった。


一か八か、詠唱無しで発動出来た事は無いが光魔法を得意とするなら使えるはずだ。

チャンスは一度、失敗すれば命は無い。


下から見ると、ジャファールの身体がまるで燃え盛る隕石のように急降下して来るのが分かる。


息を整えてから集中する為に目を閉じる。


風を切る音、炎が燃える音、自分の鼓動の音が聞こえる。


ーーーーーー今だっ!


アルスが横に飛び退くと同時に地面から光の槍が飛び出す。

突然の事に目を見開き、慌てて避けようとするジャファールの右胸へと槍が深く突き刺さった。


グガアアアァァァアアッ!!


ジャファールの叫び声が月夜の空に響き渡る。


無詠唱でのライトグングニールが無事に発動出来た事に安堵するアルスは、緊張から解放されその場にへたり込む。


『がっ、この、俺の身体に傷を負わせやがってっ!!』


突き刺さった槍を咥え引き抜くと、ジャファールは今までで見たこともない程恐ろしい形相でアルスを睨みつける。


今までとは違う気迫に身体の底から震えが込み上げ、逃げなければと頭では分かっているが、身体が硬直してしまい言うことを聞かない。


ジャファールがゆっくりとアルスへと近づくが、そこに庇うようにラグシルドが立ち塞がった。


『その傷ではこのまま戦いを続けてもお主に勝ち目はない。ここはお互いに退かぬかのぉ?』


『ハッ、冗談のつもりか?

そいつを帝竜にしちまえば必ずあのお気楽な神はあの空間から出て来る。

そこを狙って神を殺せば、ようやくこの忌まわしい呪縛から解放されるんだぞ。

お前も待ち望んでいただろっ!』


俺を帝竜にする?神を殺せば呪縛から解放される?一体さっきから何の話しをしているのか分からない。


『そうじゃな、だからと言ってこの子を帝竜にしてしまえば今までと変わらん。

この子がどんな道を歩むのかはこの子に任せたいと儂は思っただけじゃよ』


『まだそんな甘い事をーーーー』


その時、ゴゴゴッと大きな地鳴りと共に身体が左右に揺さぶられる程の地震がアルスたちを襲った。


『どうやら時間のようじゃな。

帝竜同士が同じ場所におるとエネルギーが反発し大陸が裂ける。この大陸に住む者を殺めたいのか?』


『そうなる前に決着をつけてやる』


ガルアアアッ!


雄叫びと共に炎がラグシルドへと直撃すると同時に、突然の出来事に動けなかったアルスの背中へとジャファールが回り込む。


振り返る暇もなく、ジャファールの爪が背中の鱗を突き破って肉に深くくい込む。

叫び声を上げるアルスを軽々と空へと連れ去っててしまった。


爪を外そうともがくが、くい込んだ爪はそう簡単に外れず、どんどん高度が上がっていく。


炎を振り落としたラグシルドが下から追いかけて来たが、横から現れた何かがそれを阻止しようと体当たりし、炎を吐き出す。


なっ、あれはフェアルか!?

あいつは俺が心臓を突き刺してとどめを刺したはずだが、何故生きているんだ。


見るとフェアルの心臓にある傷口から轟々と炎が燃え上がっている。

もしかしてこれはジャファールの仕業なのか。


怯えた顔を見てやろうとジャファールはアルスの顔を見てみるが、怯えるどころかラグシルドを心配している事に気づき、ジャファールは苛立ちを覚える。


『人の心配をしている暇なんてあんのか?

見ろよこの高さ、ここから落とされたら頑丈なドラゴンでも潰れちまうかもなあ』


確かにいくら頑丈なドラゴンでもこの高さから落とされれば一溜まりも無い。

今の状況を打破する作戦もなく、ラグシルドが来るまでの時間稼ぎの為にアルスはジャファールへと話しかける。


『どうしてこんな事をする必要がある。』


『命の危険を感じれば強制的に進化が始まる。それを繰り返せば倍の速さで帝竜へと進化できる』


『俺たちは世界の管理なんて物を神に押し付けられ、死にたくても死ねず、何百年いや永遠とも思える時間を苦しみ続けた。

だから、戻る為にお前を犠牲にする。

悪く思わないでくれ』


しばらくの沈黙の後、アルスはとんでも無い事を口にした。


『・・・・分かった。お前たちに協力する』


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