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月夜に舞う紅色


燃えるような深紅の鱗に四本の角のドラゴンがセルノラの前に立ち塞がると、アルスだけに聞こえるように念話を使う。


『見とけ、炎ってのはなあこうやって使うんだ』


翼を羽ばたかせると、炎の嵐が吹き荒れ岩山を焼き尽くす勢いで燃え広がる。

セルノラを助けようとしていた兵士たちはその熱風で近づく事さえままならない。


「なめるな!」


セルノラはレイピアを前に掲げ雷を纏わせると炎の中を突き進んで来た。


『中々根性あるじゃねえか。だがどこまで保つかな』


炎の中を突き進んで来たセルノラは雷で炎をかき消すとドラゴンの身体へと勢いよく斬りかかった。


ガギィンッ!


しかし、ドラゴンの身体を斬るどころか傷一つさえ付けることが出来ていない。


「嘘、対ドラゴン用に作られた武器が全く通じないなんて・・・・」


考えている暇もなく、ドラゴンはまた炎をセルノラへと吐く。

先程よりも炎の勢いはさらに増し、レイピアは鉄を熱した時のように真っ赤になり始め、ついにバキッと大きな音を上げて折れてしまった。


「うがぁっ!」


炎に包まれたセルノラが炎を消そうと転げ回る中、ドラゴンがフッと息を吐くと、小さな炎がゆらゆらとセルノラへと飛んで行き、吸い込まれて行った。


「なによこれっ!?

あつ、身体が熱い!?熱いいいいいっ!!」


『その炎は罪が重ければ重いほど燃え広がり身体を焼き尽くす。

まぁ、自分の行いを悔いながら死にな』


アアアアアアッ!!と言う断末魔が響き渡り、炎がセルノラの身体を焼き尽くすと灰となって消えてしまった。


「て、撤退っ!逃げろおおお!」


「俺たちが敵う相手じゃない!」


兵士たちは顔を青ざめさせ逃げ惑うが、ドラゴンはそれを追うと、まるでおもちゃでも壊すかのように次々と兵士を吹き飛ばす。

容易く兵士や騎竜を引き裂くその姿は返り血で染まりさらに赤々としている。


最後の一人を踏み潰したドラゴンは顔の血を舐めながらアルスの方へと振り返る。


アルスは次は自分の番だと身構えると、それを見たドラゴンは牙を見せてニヤリと笑う。


このドラゴンは最上級ドラゴンと同じ地位か、それ以上の存在だ。

セルノラにも勝てなかった俺がどうこう出来る相手ではない。


だが、翼を怪我している今飛ぶ事は出来ない。なるべく足止め出来る魔法を使って、奴が動けない隙にここを離れるのがいいだろう。


アルスは炎を吐き、ドラゴンが止まっている間に人に戻ると、ライトグングニールと詠唱し光に包まれた槍を手に取る。


帝国軍が居ない今ならこの魔法を使って攻撃が出来る。これなら硬いドラゴンの鱗でも貫く事が出来るはずた。


アルスは息を整えてから槍を大きく振りかぶ力一杯炎の中へと放った。


ブォンッ!と風を切りながら槍はドラゴンのいた場所へと飛んで行き、それに続いてアルスはライトグングニールを詠唱出来るだけ詠唱しドラゴンへと浴びせる。


ようやく炎の消えた後には地面や岩に突き刺さっている槍しかなく、ドラゴンの姿は見当たらない。


『ほぉ、まだ人に戻れるならそんなに進化はしてねぇのか。だったら俺が手伝ってやろう』


ドラゴンがフッと息を吐き、先ほどと同じ炎が現れると、次第に色が変わり黒い炎へと変わった。


セルノラが燃えた時の光景を思い出したアルスはリフレクションと唱え結界を展開するが、黒い炎は結界に弾かれる事なくすり抜ける。


すり抜けると思わなかったアルスは避ける事も出来ず、黒い炎は身体へと吸い込まれてしまった。


熱さは感じなかったが、自分の中に嫌な魔力が流れると同時に、自分の意思に反してドラゴンの姿へと変わってしまった。


な、勝手にドラゴンになったのか?

この姿では詠唱出来ない、早く人に戻らないと。


人へ戻ろうとしたが、何故か人に戻れず何度試してみても戻れない事にアルスは混乱する。


『じゃあ次だ』


ドラゴンが足を打ち鳴らすと地面に亀裂が入り、こちらに向かって割れ始めた。

空へと逃げようとしたが翼を痛めている為、飛ぶのが少し遅く亀裂へと呑み込まれてしまう。


このままではまずいと壁へ爪を突き立て、何とか落ちる事は免れたアルスは、痛む翼を羽ばたかせて地上へと舞い戻った。


が、そこへドラゴンが背後から飛び掛ると前足でアルスを踏みつけ、体重をかけて抑え込む。

抜け出そうと試みるが、ドラゴンの体重は重く容易に抜け出すことが出来ない。


『進化を繰り返していれば俺のように強くなる。そうすれば帝国なんて国ごと破壊しちまえるんだぜ? まぁ俺は面倒だからしないがな』


帝国と聞いてアルスの表情が一気に変わる。


『俺を知っていると言う事はあの神と繋がっているのか』


『ん? そうかまだ名乗っていなかったか、俺は【炎帝竜ジャファール】だ。

神とはまぁ話せば長いが因縁があると言うやつだな』


炎帝竜が何をしに来たのか問おうとした時、ジャファールが鋭い牙の生えた口を大きく開きアルスの翼へと喰らい付いた。


ガアアアアアアッ!!


ミチミチと嫌な音が響きそして翼が引き千切られ血飛沫が飛ぶ。

暴れるアルスを押さえつけ続けてもう片方の翼へと喰らい付こうと口を開ける。


『そこまでじゃ!』


地面から木の根が生えジャファールへと襲いかかる。

ジャファールは舌打ちをしながら飛び退くと低く唸りながら声のした方を睨みつけた。


『大人しく森にでも引き篭もってればいいのによ。俺の邪魔をするなじじい』


ジャファールが睨みつけている方へと目を向けると、そこには深い緑色の身体に三つの角が特徴のドラゴン、緑帝竜ラグシルドが岩の上から見下ろしていた。


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