騎竜フェアルとその主人
港町を出てようやく岩山へと到着したアルスは、岩陰へと隠れると、ドラゴンへ姿を変える。
どこに隠れても人の姿だと匂いでバレてしまうので、同じドラゴンの匂いなら分からないだろうと思ったからだ。
フェアルも後を追って岩山へと到着し、アルスを探す為に空に向かって鼻を高く上げながら匂いを嗅ぐ。
『 別の匂いニ紛れタ。
何処に消えタ、絶対ニ見つけル』
崖下を歩くフェアルに気づかれないように上へと回り込む。
相手の方が身体が大きく力もある分、正面から戦えば不利なのはこっちだ。
フェアルの死角になる真上に移動すれば気づかれる事なく近づけるかもしれない。
フェアルが地面の匂いを嗅いでいるタイミングを見計らって頭をめがけて飛び降りる。
フェアルが気づいて見上げると同時に、一気に頭へと鞭のようにしなる尻尾を叩きつけた。
バキバキッと鱗が砕け散ると同時に悲鳴が響き、血しぶきが飛び散る。
フェアルは何が起こったのか分からず、とにかく敵を遠ざけようと稲妻を放つが、対象が岩陰に隠れてしまい上手く当てる事ができない。
アルスは稲妻が消えた隙に炎を吐き、相手が怯んだところに一気に懐へと飛び込むと、口を大きく開いてフェアルの首元へと力一杯食らいついた。
ガアアアアアア!!
暴れるフェアルに食らいついていたが、次の稲妻を放つ為に力を入れたのが分かり、アルスは飛び退くとまた岩陰へと隠れる。
あの雷の攻撃は厄介だな。
あれをどうにかしないと致命的な攻撃を仕掛けられない。
確か進化した時に詠唱無しでも使える魔法があったはずだ。
火魔法をイメージしてみると、自分の周りに次々と炎の球が生成されていき、十個ほどの炎の球を生成する事が出来た。
狙いを定めて放つと、数発は避けられるも次々と炎の球がフェアルへと直撃し、次の雷を放つために蓄電していた力が消え去ってしまった。
この隙を逃すまいとアルスはフェアルへと素早く近づくと、渾身の力を込めて先ほど噛み付いた場所へと喰らい付く。
先ほどより深く牙が喰い込み、力一杯引き千切ると辺り一面に血が飛び散りフェアルは目を血走らせながらアルスに喰らい付こうと口を開けた。
今だっ!
その瞬間、炎の球が口の中へと放り込まれ、雄叫びをあげて煙を吐きながら後ろへと仰け反り仰向けに倒れた。
荒い息遣いでフェアルへと近づくと心臓めがけて力強く爪を突き立てとどめを刺した時だった。
女性の悲鳴が聞こえ、ふと見上げるとそこには血相を変えたセルノラと引き連れてきた兵士たちが立ち尽くしていた。
「嘘、よね?フェアル、ほら、起きて戦うのよ! まだ戦えるでしょ!」
しかしセルノラの声に反応することはなく、仰向けのまま動かない。
「セルノラ様危険です!ここは一旦引きましょう」
「あぁ、フェアル、私の可愛いフェアルが・・・はは、アハハハ!」
突然笑い出したセルノラに兵士達はどうして良いのか分からず困惑する。
「フェアルが死んだなら私の魔法も元に戻ったはず。なら、フェアルの代わりにあの子を騎竜にするわ」
「しかしアギルド様は野生のドラゴンを騎竜にする時は報告をと・・・・」
セルノラに一睨みされた兵士はそれ以上言うことは出来ず、冷や汗を流しながら引き下がっていった。
セルノラが詠唱すると、持っていた武器レイピアに雷が纏われ、月明かりに照らされていた岩山をより明るく照らし出す。
あれはフェアルと同じ雷の魔法か。
なるほど、炎しか吐けないはずの中級ドラゴンが雷や風魔法が使えるのは竜騎士が魔法を与えていたからなのか。
いや、関心している場合ではない。
騎竜を失ったとはいえ、大将であるセルノラ自身の力は未知数だ。
気を引き締めセルノラがどう出るのか反応を伺っていると、セルノラの姿が一瞬で消えて足元に現れた。
なっ!?
突然の出来事に反応する事が出来なかったアルスに、バチバチッと大きな音を立てて電撃が走る。
「グガッ!!」
このままだとまずいと地面を転がり空へと飛び上がると、セルノラの動きを封じるために炎を吐く。
セルノラが見えなくなるほど炎は燃え広がり辺りを覆い尽くした。
次の攻撃を仕掛けるためにセルノラを探すが見当たらない。
「ここよ」
右の翼に激痛が走り、体勢を崩してそのまま地面へと墜落していくアルスを蹴り飛ばし、セルノラは岩上へと着地した。
体勢を立て直す事が出来ず、地面へと叩きつけられてしまったアルスは、意識が朦朧とする中ゆっくりと起き上がる。
翼からは血が流れ、焦げた後が痛々しく身体のあちこちに見える。
「ふーん、まだ起き上がれるなんて、フェアルを倒しただけの事はあるみたいね。
でも、その翼じゃあもう逃げられないでしょ」
確かにこれでは逃げる事が出来ないが、逃げようとは思わない。
ここで逃げればレイナたちが襲われるのは目に見えている。
もう、あの時のように助けられずに終わるのは御免だ。
次の攻撃に身構えた時、けたたましい咆哮が聞こえ、それは現れた。




