少女との出会い
久しぶりに良く眠れた気がする。
ガブルヘイムと争いをしている時はほとんど寝る時間も休む暇もなく戦い続けていたからな。
伸びをし、翼を広げると翼から小さな羽根が数枚落ちる。
この身体は飢えることが無いらしく、人の時のように食べることでエネルギーを補う役割を世界に漂う魔力を吸収することで補われているようだ。
別に食べることが出来ない訳ではないらしく、洞窟近くにあった果物をパクリと口へと放り込む。
まずは父上の安否の確認だが、この姿では会う事が出来ない。
念話を使ったとしてもドラゴンに息子ですと言われても信じないだろうし、国に壊滅的な被害を及ぼしたのはドラゴンだ。あの凶暴な姿を見ている国民たちには恐怖でしかないだろう。
どうしようかと考えていると、森の奥から声が聞こえてくる。
ーーーーガゥ、ーーーーっ!
耳をすませてみると、獣の声と誰かが叫ぶ声が聞こえる。
アルスは急ぎ足で、声の聞こえる方へと向かう。
「来ないでっ!」
狼の魔物に襲われているのは、十歳くらいのハピュ族の少女だった。
ハピュ族とは、普段は人の姿だが鳥へ姿を変える事ができ、比較的温厚で戦いを好まない種族だ。 少女はまだ完全に変身出来ないようで、翼や頭の飾り羽だけがひょっこりと出ている。
少女は翼を大きく広げながら頭の飾り羽をピンッと立てて威嚇しているが、片方の翼が折れているのか、顔をしかめすぐに翼を閉じてしまった。
魔物はジリジリと間合いを詰めて今にも飛びかかろうと牙を剥きだす。
今の姿だと余計に怖がらせるだけだろうが、見捨てるより助ける方がいい。
分かりやすく足音を立てながら魔物に近づくと、魔物たちはアルスに気づき、まるでこの獲物は自分たちのだと言わんばかりに唸り声を上げる。少女もアルスに気づき、唖然と見つめる。
魔物は一斉にアルスへ襲いかかり噛み付いたが、キャインッと情けない声を出して後ずさる。他の魔物も弱々しい声を出して次々に身体から離れた。
そりゃあそうだ。この獣みたいな毛に覆われていて分からないが、毛の中は鋼鉄のように硬い皮膚がある。牙が折れなかっただけ運が良かったな。
懲りずに飛びかかってきた魔物を尻尾で強く弾き飛ばし睨みつけると、唸り声を上げていた魔物が一匹、また一匹と逃げていき、ついに茂みの奥へと消えて行った。
さて、話しかけるか、それともこの場を去るか。 話しかけたところでこの少女をどうする事も出来ないので、出来ることならこの場から早く去りたいのが本音だ。
それに両親もこの子を捜しているだろうし見つかると面倒だ。
アルスがどうするか考えていると、少女ペタンと座り込み弱々しくアルスに話しかける。
「あ、えっと、ありがとうドラゴンさん、だよね?」
・・・・・・・・・・・。
もしかして、俺に話しかけているのか?いやいや、魔物から獲物を横取りしに来たとか考えないのだろうか。
面倒な事になる前にさっさと逃げる方がいいな。
くるりと背を向けて歩き出すアルスに、少女は慌てて立ち上がろうとしたが、顔をしかめてまた座り込んでしまった。
よく見ると、翼以外にも腕や足に怪我をしているようだ。
・・・・はぁ、この少女を見捨てることは出来ない。
とりあえず、洞窟へ連れて帰ろうと思うが、少女は歩けそうにないな。さて、どうやって連れて帰ろうか。
色々と考えた結果、背中に乗せるという結論が出た。
掴むのはまだ力加減が難しく、少女を握り潰す可能があるので却下。咥えて運ぶなんて論外だ。
「グルウゥ」
少女の近くに尻尾を持っていき、掴まるように促す。
念話を使わないのは念話を使えるドラゴンは数が少なく、人々から恐れらているからだ。
少女を怖がらせたく無いので話さない方がいいだろう。
「あ、ふさふさだ」
少女はアルスの尻尾をフサフサと触りながらその触り心地にうっとりしている。
違う、そうじゃない。
仕方がなく、尻尾で少女を優しく持ち上げ背中に乗せると、翼を閉じて左右に少女が落ちないようにする。
少女は戸惑っていたが危害を加えるつもりがないと分かると、またふかふかの毛並みの感触を撫でて楽しんでいた。
アルスは少女が落ちないようにゆっくりと洞窟へと歩いて行った。
明日投稿します。