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潜入


アルスは霧の中を飛び、ベレーノと戦った場所へと降りた。

血や戦いの後がまだ残っていたが、ふとある事に気がつく。

ベレーノとドラゴンが居なくなっていたのだ。


おかしい、ここのはずだが見当たらない。獣が食べたにしては周りが綺麗すぎるしそれほど時間は経っていないはずだ。

まさか生きていたのか?


よく見ると何かが引き摺られたような後が森の外へと続いており、アルスはそれを追って進んで行く。


だが、しばらく進むと後が途切れてしまい追うことが出来なくなってしまった。


こうなると追いかける事は難しいが、ハピュたちの為にも息の根を止めておかなければ、また同じ事が起こるかもしれない。


何とか後を追えないかと考えていると、フワッと花のような甘い匂いが辺りに漂っている事に気がついた。


この甘い匂いは一体何処からしているんだ?来た時は何も匂いはしなかったはずだが。


【進化により嗅覚が強化されました。その他にも、炎の球や風の球などが使えるようになっています】


喜んでいいものなのか・・・・。

でも嗅覚が強化されたのならベレーノを追うことが出来るかもしれない。


地面に残っている血の匂いを嗅ぎ、そして空へ向かって鼻を高く上げながらもう一度匂いを嗅ぐ。


甘い匂いの中に微かにベレーノたちの匂いが混じっており、空へと続いている。


この匂いを辿って行けば奴らの居場所が分かるはずだ。今度こそ息の根を止めてやる。


アルスはグルルと一声鳴くと、空を飛びながら匂いを辿って行った。







しばらくして、ベレーノたちが拠点にしていると思われる港町が見えて来た。

ベレーノたちの匂いと同時にあの甘い匂いも強くなっている。


恐らく町は帝国軍が徘徊している。

ベレーノを追うには中へと入らなければならないが、兜やフードを被ってては中に入れないだろう。

手配書で顔はバレているし、忍び込むしかなさそうだ。


アルスは夜になるのを待ってから港町へと向かう。フードを深く被り、闇に紛れながらベレーノの匂いがする大きな建物へと忍び込んだ。


中は兵士が至る所で怪しい者がいないか見張っており、扉の前で二人の兵士が話し合っていた。


「聞いたか、ベレーノ様率いる軍が全て敗れたらしい。ベレーノ様も酷い怪我をして運ばれて来たそうだ」


「俺も聞いたよ。

運んで来たのがセルノラ様の騎竜だったんだよな。今は地下で話し合っているみたいだけど・・・」


セルノラ、ベレーノと同じ三大将の一人だ。

その騎竜がベレーノを運んできたのか。

騎竜がいるという事はその主人もいる。ベレーノとセルノラ、そして騎竜に帝国軍。

これだけの数を相手に出来るだろうか。


アルスは不安になりながらも、ベレーノが運ばれた場所へと進む。



ようやくベレーノたちのいる地下へと辿り着いたアルスは物陰から聞き耳をたてる。

ドラゴンの鳴き声や唸り声が聞こえてくる中、ベレーノの慌てたような声が聞こえてきた。


「ま、待てっ!俺が、居なくなったら困るのはお前ら、だぞ!」


「自分が言ったことも忘れるなんてダメ」


ベレーノが誰かと話しをしているようだ。

ゆっくりと物陰から顔を出し声の聞こえる方を見た時だった。


ベレーノの叫び声が聞こえ、それと同時にバキバキと嫌な音が地下に響く。

ベレーノが薄緑色のドラゴンに食べられた瞬間を目の当たりにしたアルスは気分が悪くなり壁へと寄り掛かかる。


口から血を垂らしながら舌舐めずりをするドラゴンを撫でながらセルノラは笑みを浮かべて笑う。


「アハハハ! いい子ね私の可愛いフェアル。

ベレーノ、弱い奴は要らないって言ってたよね? だから要らないよね?

あ、クレマディウスは私のコレクションに入れとくから安心して、って死んでるから言っても意味ないかぁアハハハ」


仲間を殺して笑っているセルノラを見たアルスは城が陥落した時以来の恐怖を覚えた。


狂ってる。仲間を殺して何故笑っていられるんだ。


今回は体勢を立て直して出直した方がいいと考えたアルスがその場を後にしようとした時だった。 鎖で繋がれていたクレマディウスが狂ったように咆哮を上げセルノラへと棘を飛ばす。


しかし、セルノラの騎竜フェアルが翼を広げ羽ばたくと突風が発生し棘が全て飛ばされた。


「ふーん、逆らうんだ。

じゃあ逆らう子はいらないや。

フェアル、片付けといて。あたしは先に上がってるからね〜」


コクリと頷いたフェアルはクレマディウスの首へと噛み付くと、鎧と鱗が砕け散る音の後バキッと嫌な音が響き、力無く首が地面に垂れる。


息絶えたクレマディウスを隅へと放り投げると、誇らしげな表情を見せるフェアルがスンスンと鼻を鳴らして辺りを見回し始めた。


気づかれたか。

仕方がない、攻撃を仕掛けてその隙にここから出よう。


「【ウィングカット】」


自分への攻撃に気づいたフェアルが素早く飛びのき、アルスの放った攻撃が首元を掠める。


『敵ィ?敵なラ倒そう』


その場に伏せたと思った瞬間、フェアルの身体に電気が走りだし、辺り構わず稲妻が襲う。


「【リフレクション】っ!」


慌てて結界を張るもその威力で壁へと叩きつけられてしまった。


一撃喰らっただけでこの威力か、次は喰らいたくないな。


壁や他の騎竜にも稲妻が当たったのか焦げた臭いが辺りに漂う。


「【大地の力、その力で封じ込めよ。ロックグラスプ】」


地面から岩がせり上がると、フェアルを岩の中へと閉じ込める。


『暗いのイヤー』


岩が稲妻とともに吹き飛ばされ結界を張ったアルスへと稲妻が直撃する。

結界が消えたところに追い打ちをするように次の稲妻と岩がアルスへと襲いかかった。


避けきれないっ!


剣を取り出して稲妻を弾き飛ばし直撃は免れたものの、そこに壁が崩れ下敷きになってしまったアルスは身動きが取れなくなってしまった。


魔法の詠唱を飛ばすことなく唱えたのに、簡単に吹き飛ばされしまった自分の不甲斐なさに嫌気がする。


【生命力の低下を確認しました。

強制的に低魔力の姿へ切り替えます】


またか、今度は一体何を・・・・


自分の身体が小さくなっていくのが分かり、両手で持ち上げる事が出来そうなほど小さなドラゴンへと姿を変えた。


これなら隙間を抜けて外に出られるかもしれない。心配したが今回は大丈夫そうだ。


どうなるかと心配していたアルスだったが小さくなっただけだったので安心していた時だった。

突然かぷっと尻尾を咥えられそのまま宙吊りにされてしまった。


あぶっ、こら離せ!


「きゅうっ!」


出てきたのは言葉ではなく可愛らしい鳴き声だった。

どうやらこの姿では念話が使えないようだ。


『ン?匂いチガうけど・・・取っタよ!』


ぶんぶんと振り回され目を回すアルスを気にすることなくフェアルは尻尾を振りながら主人の元へと連れて行ってしまった。


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