ハピュたちとの別れ
村へ着くとウォルタナやハピュたちが広間で看病されているところだった。
そこにシュエットとレイナの姿もあり、こちらに気づいたシュエットはアルスへと声をかける。
「無事で良かった。
貴方のおかげで森もハピュたちも救われたわ、本当にありがとう」
「いや、まだハピュたちの傷の手当てと解毒が残っています」
「でも解毒薬を作る薬草を手に入れるにしても、ここから離れた場所まで取りに行っている時間は無いわ」
「大丈夫です。俺の力を使えば解毒薬が無くても解毒出来ます」
そう言うとハピュたちへと近づく。
ぐったりして意識がなく苦しそうに息をしている。手遅れになる前に早く解毒しなければ。
ハピュたちに手をかざして光が纏うようにイメージみる。
が、光が纏う様子もなく苦しむハピュたちを見れば解毒されていない事が見て取れる。
アルスは首を傾げ何度も試してみるが、光に包まれ解毒される様子もなくアルスは困惑する。
【この魔法は人の姿では使う事は出来ません】
それを聞いたアルスは唖然とする。
あの神の事だから裏があると思っていたが、まさかこんな嫌がらせをして来るなんて思いもしなかった。
今頃俺がどうするのか高みの見物でもしているに違いない。
アルスは迷ったが自分にどんな事が起こり今に至るのかをシュエットに全て話し、ドラゴンにならなければ解毒出来ない事を伝える。
アルスの話に驚く事もなく落ち着いた様子で話を聞いていたシュエットはやはりと頷く。
「貴方に触った時から感じていた力の正体がようやく分かったわ。
それで貴方の力だけど、ハピュたちにとってドラゴンは帝国軍を思い出させてしまう。
私が説明してもパニックを起こしかねないわ」
「そうですね・・・・では広場に集めて霧で覆い隠して下さい。それならハピュたちを恐がらせず解毒出来るはずです」
しばらく考えていたシュエットだったが、決断したのかゆっくりと口を開く。
「・・・・そうね。
動けるハピュたちは急いで毒に倒れた者を広場に運んで頂戴」
ハピュたちは何をするのかと戸惑いを見せたが、シュエットに促され毒に倒れたハピュたちを広場へと運び始める。
「みんな助かる?」
心配そうに見つめるレイナを安心させようと、アルスはレイナと同じ目線になるようにかがみ込み声をかける。
「心配しなくても大丈夫だ」
アルスの力強い言葉にレイナは安心したのか、口元を緩め笑顔を見せた。
ようやく広場へと運び終わり、シュエットは説明を始める。
「今から始めるこの魔法はちょっと特殊だからみんなに見せる事が出来ないけど、心配しなくても大丈夫よ。すぐにみんな元気になるわ」
ハピュたちはそんな事が出来るのかと半信半疑だが、この力に頼るしか方法は無く祈るような思いで手を合わせる。
「では、始めるわね」
広場に集められたハピュたちとアルスの周りを霧が包み込む。
中は見えやすいように中央には霧がなく、ドーム型のように作られた。
これなら姿を見られる事もないし大丈夫だろう。
アルスの姿がドラゴンへと変わり、ゆっくりと倒れているハピュたちへと近づくとライトヒールを使う。
ハピュたちが光に包まれていき、苦しそうな表情を見せていたハピュたちは次第に落ち着いた表情を見せ始める。
【注意、ライトヒールは魔力を多く使う為、連続して使うとしばらく人化出来なくなります】
はぁ!?
前もだったが後から説明するなよっ!
どうするんだ、このままだと人に戻れないしいつハピュたちが目を覚ましてもーーーー
「ガアアアア!!」
目を覚ましたウォルタナはアルスの姿を見て帝国軍のドラゴンだと思い、いきなり襲い掛る。
『ちょっ、待って!』
不意を突かれたアルスは逃げる事も出来ず、二匹は勢いよく霧の外へと飛び出してしまった。
霧の中からいきなりドラゴンが飛び出してきた事でハピュたちは悲鳴を上げ、恐怖や怒りをあらわにする。
「きゃああっ!?ドラゴンよ!!」
「早く避難しろ!戦える者は村を守れ!!」
広場はパニックになり逃げ惑う者や武器を手に取り構える者が見える。
「落ち着きなさい!あのドラゴンは私たちを傷つけたりしないわ!」
「そうだよ!シロは優しいドラゴンさんだから!」
しかし、シュエットの声もレイナの声も混乱したハピュたちには届かない。
このままだと危険と判断したアルスは空へと逃げるように飛ぶ。
ウォルタナも追いかけようとしたが、回復していないのか飛ぶ事は出来ないようだ。
丁度いい、このままここを出るか。
レイナは悲しむかもしれないがハピュたちが居るし大丈夫だろう。
別れの挨拶も出来なかったのは残念だ。
「シロ待ってっ!行っちゃだめ!
まだシロにお礼もしてない!」
レイナは飛び去るアルスに必死に声を出して叫ぶが、ついに霧の中へと飛び去っていった。




