戦いの行方は
「あれから一日経っているからもう死んでると思っていたけど。それとも別人?」
そう言うといきなりアルスへ攻撃を仕掛けるベレーノだったが、瞬時に攻撃を結界で受け止めるアルスを見て、昨日と同じ人物だと確信しニヤリと笑う。
「この森の薬草じゃ解毒薬は作れないのに生きていたなんて驚いたよ。でも僕に構ってて良いのかな?」
見るとクレマディウスが森へ棘を無差別に放っていた。
急いで土魔法の壁を作るが全てを防ぐ事が出来ず、攻撃を避けきれなかった数人が毒で倒れてしまう。
ハピュたちを心配する暇もなく、ベレーノがアルスに攻撃を続ける。
一つ一つの攻撃は重くないが素早い。
一旦距離を取ろうにもすぐに攻め込まれてしまうだろう。
「ほらほらどうした? あいつらを助けに来たんだろ?早くしないと僕の部下とクレマディウスが殺しちゃうよ」
ベレーノが言う通り早く決着をつけないと毒で倒れたウォルタナやハピュたちが危ない。
「【光よ、我の求める姿となれ、アニマ・クラフト】」
そう唱えると光に包まれた三匹の狼が現れ、ベレーノへ唸り声を上げると、ハピュたちの元へ二匹が走って行き、一匹はアルスの元に残った。
「へぇ、三匹も出せるなんて珍しいね。是非帝国軍に引き入れたい戦力だよ」
「生憎だがそちらに付く気はない」
帝国軍のドラゴンと兵士がアルスを取り囲み一斉に攻撃を仕掛ける。
「来いっ!」
攻撃を避けながらアルスは狼の背中へと乗り一気に加速すると、剣に光魔法を纏わせ次々にドラゴンの首元へと斬りつけていく。
血を吐いて倒れるドラゴンに押しつぶされたり投げ出される兵士を見てベレーノは溜息を吐く。
「全くお前らは役に立たないな。
クレマディウス、さっさと終わらせてバカどもに手本を見せてやれ」
二匹の狼に足止めされていたクレマディウスは、飛びかかって来た一匹を尻尾で薙ぎ払いもう一匹へとぶつけると、倒れているウォルタナへと牙を突き立てる。
しかし、ウォルタナの身体は煙のように消えてしまい、残っていたハピュたちもいつの間にか居なくなっていた。
「グルゥ?」
シュエットが霧を使って幻影を作り、その間にウォルタナとハピュたちは霧を使って逃れたようだ。
すると霧の中からまた槍や矢がクレマディウスの身体目掛けて飛んでくるが、全て尻尾で弾き飛ばされてしまった。
クレマディウスは目を血走らせ耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げると、霧の中へと突き進んで行く。
「おいっ!どこへ行くんだ!」
「他を気にしている暇は無いぞ」
狼と交互に攻撃を仕掛け、狼の攻撃で体制を崩したところにアルスの一撃が放たれる。
ベレーノはその攻撃を受け止めるが、攻撃の重さに顔を引きつらせ汗を流す。
「どうした、ドラゴンがいないと怖くて戦えないのか?」
挑発に乗ったベレーノはアルスへと攻撃を続け、どんどん霧の中へと入って行く。
ベレーノが気付いた時には辺り一面が霧で覆われ、さっきまで近くにいた兵士もドラゴンもいない事にまんまと誘い出された事に顔を歪める。
すると、ベレーノを取り囲むように数十人のアルスが現れ、剣を構えるとベレーノへと走り出す。
どれが本物か困惑するベレーノの腕を剣が掠める。
「くそっ、どれが本物だ」
見破ることが出来ず傷が増えるベレーノは焦り始め、ついに剣が吹き飛ばされた。
すかさずアルスはベレーノを蹴り倒し首に剣を突きつける。
「お前なら解毒薬を持っているだろ」
「・・・あぁ、持ってるよ。
でも残念だけど解毒薬はこれ一つだけしかない。他の奴の分なんか用意してないよ」
もし部下が誤って毒で倒れてもこいつは見殺しにするつもりだったのか。
動けないベレーノから解毒薬を奪うと、アルスは次の質問をする。
「シュトラール王国を襲い王子を捕らえようとする理由は何だ?」
黙ったままのベレーノの首に剣を突きつけるが、顔色一つ変えることもなくアルスを睨みつける。
情報を聞き出すのはやはり難しいか。
仕方がない、こいつをここで殺しておかないとまた罪もない人々を襲うだろう。
アルスが剣を振り上げた時だった。
何かに気づいたベレーノはニヤリと笑みを浮かべ口を開く。
「一つお前に言っといてやるよ。
クレマディウスは毒のせいであまり鼻が効かないが、唯一反応する匂いがある。
それはーーー僕の血の匂いだ」
バキバキッ!
枝を折る音が聞こえた瞬間、アルスは横へと飛び退く。
空から降ってきたのは不気味な紫色の鱗のドラゴン、クレマディウスだった。
ベレーノを守るように覆い被さりアルスへと炎を吐く。
「【リフレクション】っ!」
結界を作り炎を受け止めたが炎が消えたと同時にクレマディウスが突進し、そのまま吹き飛ばされる。
「形成逆転だ。クレマディウス、本気でやれ」
体制を立て直そうとしたアルスに飛びかかるクレマディウス。
「【リフレクション】!」
急いで結界魔法を唱えるが、バキバキと結界が壊されるとクレマディウスの鋭い爪がアルスの肩へと突き刺さり激痛で顔をしかめる。
「ほらほら、毒が回る前にその解毒薬を飲めよ。その代わりハピュどもは死ぬけどね」
爪を引き抜こうと力を入れるがビクともせず、少しずつ体重を掛けられ傷口から血が流れ出る。
「そうだ、僕は今気分がいいから、さっきの質問の答えを聞かせてやるよ。
シュトラール王子の結界魔法は他と違って国一つ覆い尽くす程の大きさまで広げる事が出来る。その力が欲しいというのもあるけど、もう一つの魔法、ライトグングニールが一番の狙いだ」
シュトラール王家だけが使えるライトグングニールは、戦争が起きる前に父上から受け継いだ魔法だ。
その力はどんな物でも打ち砕き、貫く威力があるが、何故帝国軍はこの力を欲しているのか分からない。
「さて、そろそろ終わりにしよう。
すぐにハピュどもも後を追わせてやるけど、その前に恐怖に歪む顔を見せてくれ」
「アイシクーーっが!?」
首元を押さえつけられ息が出来なくなったアルスの兜へと爪を引っ掛けるクレマディウス。
その時、狼がクレマディウスの顔へと飛びかかり驚いて押さえつけられていた力が弛んだ。
その隙を逃さずアルスは渾身の力でクレマディウスの首へと光魔法で強化した剣を突き立て横に引き裂いた。
「ガフッグァ!?」
口から血を吹き、ベレーノを乗せたまま後ろへと反り返る。
「【プラントネット】」
「ばっ、よせっ!」
逃げようとするベレーノに地面から生えてきた草が絡まりクレマディウスの背中へと縛りつけられ、必死にもがくがそのまま下敷きになってしまった。
クレマディウスの全体重がベレーノへとかかり肺の中の空気が全て押し出され骨が砕け口から血を吐く。
ピクピクと首から血を流し痙攣するクレマディウスに挟まれ、ベレーノは息絶えた。
アルスも毒により動く事が出来ず、狼へと身を預けるように倒れ込む。
「【ヒーリング】」
傷が癒えていくが、身体の毒は取り除けない。
解毒薬はこの一つしかなく、数名のハピュたちにウォルタナの解毒となると全く足りない量だ。
俺はこの身体で何とか持ったが、ハピュたちはそれほど長く持たないだろう。今から薬草なんて取りに行っている時間はない。
アルスが迷っているといつもの声が頭に響いてきた。
【天竜または白竜へと進化可能です。
白竜の力を使えば解毒可能。白竜へ進化しますか?】
・・・・解毒出来るのか?
【白竜に進化することで【ライトヒール】が獲得できます。この力は詠唱する必要は無く、状態異常や傷を癒すという効果があります】
神に誘導されている気しかしないが、今はこれしか救う手立てがない。
アルスは渋々声の通りにする事にした。
【進化が許可されました。白竜へと進化します】
身体がドラゴンへと変わり暖かい光に包まれる。
【白竜へと進化しました】
自分ではどこがどう変わったのかよく見えないが、ふさふさの毛は胸元、背中、尻尾にしかなく、ドラゴンらしい鱗が身体を覆っていた。
試しに自分にライトヒールを使ってみると、身体が光に包まれ気怠さが無くなった。
本当に毒は消えたみたいだ。
アルスは人に戻ると毒で倒れているハピュたちの元へと急いで向かった。




