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希望は絶望となる

ここから本編です。


しばらくして目を開けると、真っ白な空間に浮かんでおり、目の前には白い人影があぐらをかいて座っていた。


「やあ、初めまして。僕の名前はヴァイアス、この世界の神とでも言っておこうかな」


男とも女とも分からない中性的な声でヴァイアスと名乗る白い影はアルスに近づいて来るとグイッと顔を覗き込む。


「君、力が欲しい?大抵の事では傷つかない、飢えもない、誰よりも強い力を」


「強い、力?」


話に食いついたアルスを見て、嬉しそうに飛び跳ねる白い影。


「そう!特別大サービスでね!

あ、僕の監視下に置く事になるけどいいよね!」


「え、ちょっ、まだ何もーーーー」


「あ、言い忘れていたけど、人のーーーー」


最後の声が聞こえないまま、また眩しい光に包まれてアルスは意識を失った。


「姿じゃなくなるけどいいよねってあれれ、最後まで聞いていたかな?

ふふふ、楽しみだな。彼はどう仕上がるのかなっと」


これから始まる展開を想像しながらほくそ笑み、またあぐらをかいてその時を待つのだった。




しばらくしてようやく目が慣れ、辺りを見渡せるようになった。頭が痛い、ここは何処だろうか、確か城にいたはずだが。


立ち上がり辺りを見回すが、何か違和感を感じる。いつもよりも何倍も高い所から見ていることに気がついた。

それだけではない、二足で歩くより四足の方が安定し、人には無い部分が動かせるのだ。


どうなっている。

確か、ヴァイアスと名乗る白い人影に・・・・


自分の手を見た時、一気に血の気が引いた。そこにあったのは、獣のような鋭い爪のある手だった。

慌てて近くにあった水溜りを覗き込むと、水面に映った自分の姿に頭が真っ白になる。


ーーーーなんだよこれ、なんだよっ!?


怒りがフツフツと込み上げてきて、ありったけの声で天に向かって叫ぶ。


ヴァイアスっ!!なぜ俺の姿が【ドラゴン】になっているっ!!


「グォォオオオ!!」


しかし、言葉は出て来ず、出てきたのは獣のような雄叫びだった。


すると、どこからか声が聞こえてきた。


「力使ったから寝かせて欲しいんだけど。それに前と大差無いからいいんじゃない?」


その言葉にまた怒りが込み上げる。


大差無い?この恐ろしい姿と前の姿が同じだと言っているのか?ふざけるなっ!!


「ガアアアアアアッ!!」


天に向かって吼えると、口から炎が吐き出された。

熱くも痛くもないが、心がどうにかなってしまう程ズキズキと痛む。


「お、早速使いこなせてるね。せっかくの人生楽しみなよ。いや、竜生かな?

ふぁ〜、もう僕は寝るよ。また会う日を楽しみにしているからね」


説明もなく、そのまま声はぷつりと途絶えた。


くそっ!こんな姿で生きるくらいなら・・・・


首元に自分の鋭い爪を突き立てようとしたが、なぜか手前で止まってしまう。


動かない、どうして・・・このっ、動け!動けよ!


【この行動は制限されました】


機械のような感情の無い声が頭に響く。


・・・・・ふざけるな。


【この行動は制限されました】


黙れ。


【この行動は制限されました】


ああああああっ!!


辺り構わず木を薙ぎ倒し、爪で引き裂く。

そうしなければこの怒りでどうにかなりそうだった。


しばらく暴れていると、どこからか声が聞こえてきた。


『どうした若いの、見ない顔だのぉ。どこから来たんじゃ?』


しかし、制止する事なく木々を引き裂き、薙ぎ倒す。


『やれやれ、そんなに暴れると動物たちが怖がって逃げてしまうわい』


息を大きく吸い込み吹き出すと、青い粉が暴れているアルスを包み込む。


なんだ、こ、れ・・・・


強い眠気に襲われ、アルスそのまま意識を手放していった。


やれやれ、ようやく落ち着いたか。それにしても・・・・。


暴れていたドラゴンの姿は見た事もないくらいに美しかった。

幼竜の特徴である獣のような体毛が光に照らされ白銀に輝き、普通のドラゴンのような膜の翼ではなく、鳥のような羽毛の白い翼と、成竜と変わらないどんな物も引き裂ける鋭い爪と立派な角。


「あー、もしもし?聞こえてる緑帝竜ー?」


緑帝竜と呼ばれ、辺りを見渡すが姿が見えない。

だが、この声には聞き覚えがある。

自由気ままで他人任せのどうしようもなく呑気なこの世界の神の声。


『貴方か。で、何の用かのぉ?わしは忙しいんじゃが』


「簡単な用事なんだけどね、その子の面倒を見て欲しいんだ。火帝竜は荒っぽいし、水帝竜は海の中だから、君にしか頼めないんだよね。で、どうだった?」


この神の気まぐれには愛想がつく。

異世界からこっちの世界への人の召喚を試みたが、異世界の神にこっぴどく怒られてしまったり、力の加減を間違えて魔物を大量に増やしてしまったりと本当に神なのかと思ってしまう。


『どうって、早速暴れてたがのぉ。木々を薙ぎ倒し、引き裂き、動物たちも恐れて逃げてしまったわい』


「お、暴れる程気に入ってくれるなんて嬉しいなぁ。さっきも咆哮を上げて喜んでいたしね」


(いやいや、絶対に喜んでいなかったがのぉ。そんな事をしている暇があるならわしらに任せている世界の管理をして欲しいものじゃ)


「まぁ、何でもいいけど。

兎に角、大変だと思うけどよろしく!」


『よろしく!って、いやいや面倒ごとはごめんじゃよ。わしも忙しいのじゃぞ。

・・・聞いておるのか?』


しかし、声が返ってこない。


こりゃ、押し付けて逃げたのぉ。

はぁ〜、面倒ごとに巻き込まれそうじゃ。


ため息を吐きやれやれと首を振った。




ポカポカとした暖かさの中、目が覚める。

いつの間に眠ってしまっていたのだろうか?まだ頭がぼんやりとしている。


『気がついたかのぉ?』


声のする方に振り向くと、そこには自分よりも巨大な緑色のドラゴンがいた。

二本の大きな角の他に額に立派な一本の角。全身に木々や草花が咲いており、まるで動く森のようだ。


このドラゴンを本で見たことがある。確か、生物の頂点に君臨する炎帝竜、水帝竜、緑帝竜の中の一体、緑帝竜ラグシルド。


世界のバランスの調整や管理を任されている存在で、緑帝竜は自然のエネルギー、炎帝竜は炎のエネルギー、水帝竜は水のエネルギーをそれぞれ管理している。


『わしの名はラグシルド、念話を使って直接お主に語りかけておる。

お主も使えるはずじゃ、名前を教えてくれるかのぉ?』


『・・・・・アルス、だ』


アルスもまた、念話を使ってラグシルドに語りかける。


なるほど、これが念話か。心の中で相手に話す感じだろうか。


『お主大変な奴に目をつけられてしまったのぉ。わしなんか毎回同じ姿で転生させられて世界の管理をさせられておるんじゃ、全く竜使いが荒い』


『転生か・・・。転生を繰り返し生き続けているなら、同じ姿で使命を果たし続ける事に飽きないのか?』


ラグシルドは首を傾げ、しばらく考える。


ラグシルドはそんな事を考えた事が無かった。ただこの世界の管理を任され、世界のバランスを調整し、与えられた使命を果たす日々に飽きる事なんて無かった。


『そうじゃな、時々人間の街へ行き美味しいものを食べたり、増えすぎた魔物の間引きを行ったり、自然を育てたりと結構楽しんでおるよ。まあ、わしが管理を怠れば世界のバランスが崩れるから、やるやらないの問題ではないの』


緑帝竜は昔から人々と深く関わってきた。

自然の恵みを分け隔てなく与え、豊かな生活が出来るように木々や動物を増やしてきた。人々にとって崇めるほどの存在がラグシルドだ。


『お主も帝竜となる力を持っておる。いずれわしらと同じように使命を受けて世界の管理を任されるようになるかものぉ』


その言葉を聞いたアルスは不快な表情を見せる。


俺は崇められるなんて御免だ。

なぜなりたくもない姿になって、その姿を崇められなければならない?それに使命だと?勝手に決められて、はいそうですかと簡単に首を縦に振れない。


『悪いがしばらく一人にしてくれ。まだ頭が混乱していて整理出来ない』


『そうじゃな、急にこんな事を話されても混乱するだけだったのぉ。何かあればここに来るといい』


アルスは尻尾を一振りすると、森の中へと歩いて行った。



森の中を歩いていると、洞窟を見つけた。

中は意外と広く、これなら雨風はしのげるだろう。

地面に横になると、土の匂いと冷たさを感じ顔をしかめる。


ふかふかのベッドが恋しい。それにシュトラールは無事だろうか?いや、もし無事だとしてもこの姿では帰る事も出来ない。俺はこれからどうすれば・・・・


考えているうち一気に眠気に襲われ、アルスはそのままゆっくりと目を閉じた。


次は明日の夜に投稿します。

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