霧の中の村
夜のうちにレイナを乗せて空を飛び、朝日が昇ると下へと降り人化して歩く。
そして二日後、ようやくネーベルフォレストへと辿り着く事が出来た。
森は霧に囲まれ、奥に進むに連れ霧の壁が空高くまでそびえ立ち、まるで来るものを拒んでいるように見える。
そして、ギルドで聞いていたように木々が薙ぎ倒されていたり、爪痕が残っていたりと、帝国軍が攻めて来た跡が生々しく残っていた
が、帝国軍の姿は無くアルスは不審に思う。
森の奥へ入った気配も無ければ、外にいる気配も無い。これだけ戦いの爪痕を残して一体どこへ行ったんだ。撤退したのだろうか。
レイナはそんな事を気にする様子もなく、アルスを森の奥へと案内していく。
しばらく霧の中を歩いていると、ズシン、ズシンと大きな足音が聞こえ、アルスはレイナを自分の後ろへと下げ、身をかがめるように声をかける。
霧の中から現れたのは、背中には乗るための鞍があり、鎧には帝国の紋章が施されている。間違いなく帝国軍のドラゴンだ。
主人を探しているのかドラゴンはキョロキョロと周りを見回しながら去って行った。
撤退をしていないにしては静かすぎるし、危ない森の中をドラゴンに乗らずにいるのもおかしい。
ギャルアアアッ!
何だ!?さっきのドラゴンの声か?
何かに襲われたような声が聞こえ、強い風がゴッと吹き、目の前にいたのは鳥の頭に獣の体、背中には立派な翼、見上げるほどもある魔物が二人を見下ろしていた。口には先ほどのドラゴンのものであろう血がくちばしや爪を赤く染めていた。
「族長様!」
レイナが声を上げる。
族長?ハピュ族は鳥に姿を変えることは知っていたが、これは鳥なのだろうか?顔は確かに鳥だが身体は獣のようだし翼は背中に生えており、四脚が地面にどっしりと構えられている。
族長様と呼ばれる獣は、くるりと宙返りをし、男の姿へと変わる。いくつもの戦を潜り抜けて来たようなたくましい身体をしている。
「レイナではないか、無事で良かった。お前たちが貴重な薬草を探しに行ったきり帰ってこないから心配していたのだぞ。してその者は?」
「シロだよ。わたしをここまで送ってくれたの」
「そうだったか、我は族長のウォルタナと申す。レイナをここまで送ってくれて感謝する」
礼儀正しく深々と頭を下げるウォルタナ。
「そうだ、お父さんもお母さんももう帰って来てるかなぁ」
「いやーーー」
帰っていないと言おうとしたが、アルスの表情を見て察したウォルタナは口をつぐむ。
「・・・そうか。後は戻ってから聞こう。ついて来なさい」
アルスとレイナはウォルタナの後について行った。
「帝国が攻めて来たと聞いていたが、攻めて来たにしては静かすぎて驚いた」
「この霧のお陰で森深くまでは攻めて来られなかったようだ。一時撤退したとはいえ、まだ兵士やドラゴンがこの霧を抜けようとしている。それを片付けていたのだ」
「帝国軍はここに何をしに?」
「この霧を生み出しているのは我らの守護獣様なのだ。霧の力を使えば国が攻め入られることはない。そこに帝国軍は目を付けたようだ」
なるほど、国の防衛の為に守護獣を必要として攻めて来たのか。
だが、何か引っかかる。俺を未だに捕らえようとしているのは何故だ?
行方不明扱いで生死は不明の俺を代用として霧の力を手に入れようとするのは分かるが、俺を切り捨てても良いはずだ。帝国軍の狙いは俺の結界魔法ではないのか?
ウォルタナの後をついて行くうちに周りの霧が晴れて行くのが分かった。
どうやら森の中心部には霧が全く無く、中心部を囲うように霧の壁が作られているようだ。
帝国軍のドラゴンがこの霧を飛び越えて来るのは難しいだろう。
「族長様が戻られたぞ!」
「レイナちゃんも一緒よ、無事で良かった」
鳥の姿の者や人の姿の者など様々なハピュたちが集まる。しかし、ローブを着てフードを覆ったアルスをみて不審に思う者もいるようだ。
「皆の者、色々と聞きたいことはあるはずだが、まずはレイナを休ませるのが先だ。この者は心配ない、レイナをここまで送り届けてくれた恩人だ。丁重にもてなすのだ」
レイナはシロと一緒に居たいと言っていたが、ウォルタナにまずは休むようにと言われ渋々とハピュの女性に連れられて行った。
「それで、シュナとヨビは?レイナちゃんと一緒じゃなかったのですか?」
「俺が駆けつけた時には二人とも亡くなっていた。助けられなくて申し訳ない」
亡くなったと言う言葉に、泣き崩れ落ちる者や下を向く者が後を絶たない。
「レイナは両親が亡くなっている事を知らない。これから時間は掛かるだろうが乗り越えて行けるよう皆で助けて行くのだ」
「レイナちゃんだけでも助かって良かった。旅の方、ありがとう、本当にありがとう。良ければ名前を教えてくれないか」
アルスは一瞬迷ったがレイナが付けた名を名乗る。
「シロと申します。急いでいますので私はこれで」
「恩人をそのまま返すわけにはいかない。シロ殿、どうか礼をさせて欲しい」
「そうです、どうか礼を」
「お疲れでしょう、さあこちらへ」
これだけ言われて断るのは失礼だと思い、渋々アルスはハピュたちについて行った。
もう少し溜めますので遅くなります。




