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戻れるならば

遅くなりました。


森へと逃げて来たアルスとラグシルド。

アルスはレイナを休ませる為にゆっくりと木に寄りかからせる。


まだ気を失っているのを心配そうに見つめるアルスを見てラグシルドが声をかける。


「安心せい、その子は大丈夫そうじゃ。安静にしていれば目を覚ますだろう。

しかし、しばらくは街に行けんのぉ。もっと美味しいものを食べておけば良かった」


がっかりしているラグシルドにアルスはあるものを投げ渡す。

袋を開けると、中には赤や黄色などの色とりどりの飴玉が入っていた。


「お礼がこんなもので悪いな。本当はもっと色々ご馳走したかったんだが」


「いいや、大事にいただくよ。

それでアルスよ、お前はこれからどうするんじゃ。その子を送り届けて、国へ戻ってどうする」


「国を取り戻し、父上を助ける。この長く続く戦争に終止符を打ち、また平和な日々を過ごしたいんだ」


ラグシルドの顔が哀れみの表情を見せる。何故そんな顔をしているのか分からない。


「・・・言い難いが、お主は人としての寿命を無くしておる。もう人として生きる事は出来無いんじゃよ」


その言葉はアルスにとって余りにも大きな衝撃だった。


心の何処かでは分かっていたのかも知れない。でも自分はまだ人として生きられる、何とかなると思い込ませて考えないようにしていた。

口の中が乾き、鼓動が速くなっていくのが分かる。


国へ戻ってもドラゴンは寿命が長く、年をとるのに人の数倍も掛かる。姿の全く変わらない俺を見て人々は恐怖するだろう。あいつは人では無いのだと。


あぁ、だったら何故俺を人化出来るようにしたんだ。人へ変わらなければ、国へ戻ってまた変わらない日々を過ごせるなんて希望は持たなかった。


辺り構わず何かに当りたいのを必死に堪え、アルスはドラゴンへ姿を変え、レイナを背中に乗せる。


「もしその子を送り届けた後、行く場所がないなら、わしのところへおいで。これからの生き方も、力の使い方も教えてやろう」


アルスは振り返ることも声を出すこともなく空へ飛び立って行く。ラグシルドはアルスが見えなくなるまで見送った後、独り言を呟く。


「繰り返すこの運命を今度こそ終わらせて欲しいものじゃのぉ」




もうすぐ日が暮れる。

昨日の夜あまり眠れていなかったレイナは起きる事なく、アルスの柔らかい毛に埋もれてスヤスヤと眠っていた。


辺りを見渡すが、街や村は見当たらない。

レイナももうすぐ目を覚ましそうだし、このまま飛び続けるわけにはいかない。

この辺りの岩場は身を隠すのに丁度いい。魔物の気配も無いし少しここで休憩しよう。


安全を確認して地面に降りると、地面に毛布を置いてからレイナをそこに降ろし、アルスは人化する。


いちいちローブを脱いだり着たりと面倒だな。こう、空間魔法をうまく使って着脱出来るように・・・・


身体に服を瞬間移動させるイメージで空間魔法を使うと、シュッと瞬時に服が身に付けられる。


お、上手く出来た。これなら人からドラゴンになる時でもわざわざ脱ぐ必要はないな。


レイナが見える範囲で木を集め、火魔法で火をつける。

レイナの横に座り込むと焚き火を見ながらアルスは考え込む。


ラグシルドの言っている事も分かる。俺が国へ戻ったとしてもガブルヘイム帝国に勝てるかは分からない。

ラグシルドに力の使い方を教えてもらっている間にガブルヘイム帝国はますます勢力を拡大するだろう。

今の力で止める事が出来るだろうか。


【力を必要とされるなら進化する事で今の何倍もの力が得られるでしょう。人で立ち向かい勝利する確率は5%未満です。進化するにはーー】


もういい黙ってろ。今は何も聞きたくない。


途中で話を止めたアルスは無言で焚き火を見つめ、大きく息を吐いた。


考えても仕方がないな。今俺が出来る事は、レイナを送り届けて国を取り戻す事だ。


しばらくして、レイナが目をこすりながら目を覚ました。


「起きたか。お腹空いただろ?」


こくりとレイナが頷くと、アルスは暖かいミルクに甘いパンを浸したものを渡す。

暖かく濃厚なミルクの中に、パンが溶けて優しい甘さが広がる。

レイナはそれを食べながらアルスに話しかける。


「シロはまたあの森に帰っちゃうの?わたしもっとシロと一緒にいたい」


「・・・気持ちは嬉しいが、俺はやらないといけない事があるんだ」


「それが終わったら一緒にいてくれる?」


質問にどう答えたらいいのか分からず、アルスは優しい笑みを浮かべ、レイナの頭を優しく撫でるだけだった。


また遅くなります。

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