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嫌な再会と討伐依頼



目を開けると見渡す限りの白い空間の中にアルス浮かんでいた。


「また、か・・・」


今の姿になった原点とも呼べる場所への来訪に苛立ちを隠せないアルス。

すると、向こうから白い影がゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「あれれ、おかしいな?まだ君はここに来れないはずなんだけど・・・」


相変わらずのん気な口調で話す自称神のヴァイアス。


「お前、俺をこんな姿に変えといてよく俺の前に現れたな」


「んー? 力を追い求めていた君に最高の贈り物を贈ったつもりだけど?」


フワフワと空中を漂いながらあぐらをかく白い影は、思い出したかのように手を打つ。


「そうそう、その力の扱いには気をつけないと駄目だよ? 力に飲み込まれてしまうからね」


「俺はドラゴンにして欲しいなんて頼んで無いぞっ!」


「でも、それが君の求めた力だよ」


俺が求めた力?違う、こんな力が欲しかったんじゃない。

国や人を守る為の力がこの力だというのなら、こんな力はいらない。


「今すぐ俺を元に戻せっ!【ライトーー」


詠唱をし終える前に、白い影は素早い動きでアルスの間合いへと移動し、その動きに反応出来ず胸元を掴まれ地面へと引き倒される。


「っ!」


振りほどこうと白い影を掴もうとしたが、スッと霧のように掴むことが出来ない。


アルスを嘲笑うかのようにほくそ笑む白い影はグイッとアルスへと顔を近づけると、囁くように声を出す。


「君は甘いね。守る為には敵を殺さないといけない。殺すには相手よりも強くないとね?

それに完璧に人化出来るのは限られたドラゴンだけなんだからそこは感謝して欲しいな」


ーーシー、ーーシローー


白い空間の中に優しい声が響く。


「さて、君を呼んでいるみたいだ。

君は僕の監視下に置かれていることを忘れないようにね」


「ま、て・・・」


白い空間が歪み崩れ落ちていく。

何も出来ずにアルスは歪みとともに消えていくのだった。


「前はあと一歩のところでダメになっちゃったから、君には期待しているよ。

ふぁ〜、もうひと眠りするかな」


白い空間に一人取り残された神は大きな欠伸をして、またふわふわと漂いながら眠りへと付くのだった。




ハッと目を開けるとレイナが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「良かったっ!」


ギュッとレイナに抱きしめられる。


どうしたらいいのか分からずそのまま固まるアルス。それを見かねてミネリアが声をかけた。


「お取込みのところ悪いけど、みんな見てるよ?」


周りを見るとニヤニヤと沢山の人が二人を見ていることに気がつき、慌てて起き上がる。


「さぁ、新人シロのSランク祝いと行こうか!」


ぐいぐいとマントを引っ張られ、ギルドの中へと強引に連れて行かれるアルスと、慌ててそれを追いかけるレイナ。

ギルドの新たな仲間として歓迎されるのだった。




ようやく歓迎会から出られたのは午後になってからだった。

そこから依頼を探したがSランクの依頼は魔物討伐や護衛依頼などばかりで、簡単な薬草探しやお手伝いの依頼はCランクやDランクばかりに集中している。


高ランクの者が簡単な依頼を独占しないように自分のランクから一ランク下の依頼は受ける事が出来るが、二つや三つランクが開く依頼は受ける事が出来ないようになっているらしく、アルスはどうしたものかと考え込む。


魔物狩りを受けてもいいが、危険な場所にレイナを連れて行くわけにはいかないな。


ギルドで待つようにとレイナに伝えるが、ほっぺを膨らませどこにも行かせないと言わんばかりにローブを強く握りしめる。

さっきの事があったので余計に心配なのだろう。


「ほらレイナちゃん、美味しいお菓子があるよ?」


「レイナちゃんは何が飲みたい? お兄さんが頼んであげるからさ」


ギルドの人たちがジュースやお菓子でレイナを誘うが断固として動こうとしない。

見かねたシーラがレイナに声をかける。


「シロさんは強いから大丈夫ですよ。だからお姉さんとここで待ってましょう」


シーラが優しく声をかけるが、レイナは首を横に振ると、声を震わせながらアルスに訴える。


「シロがこのままいなくなっちゃうかもしれないもん・・・・」


頼れる人もなく一人で彷徨っていたレイナにとって、今はアルスしか頼れる者はない。

また一人になるという恐怖とアルスを失うという恐怖がレイナの中にあるのだろう。


アルスは魔法の詠唱を始める。


「光よ、我の求める姿となれ【アニマ・クラフト】」


光が集まり出し、形が少しずつ出来上がっていく。

フサフサとした毛並みの淡く光る狼が光の中から現れると、尻尾を振ってアルスに寄りかかった。


ギルドの人たちは高度な魔法に目を丸くし、驚きの声を上がる。


アニマ・クラフトはその人の魔力によって作り出せる生き物が違う。本当は鳥を作り出すはずだったが、レイナを守れるだけの力がないと思い狼にしたのだが、少し注目を集めてしまったか。


「夜には戻るから、それまでレイナを守ってくれ。頼んだぞ」


狼はこくりと頷くとレイナの横へと移動し、レイナを守るように伏せる。

レイナは暖かくふかふかの感触に安心し、狼へと身体を寄せた。


「俺はレイナを一人にしてどこにも行かない。大丈夫、何かあればそいつが守ってくれるし、すぐに駆けつけるからな」


「約束だからね!」


アルスは頷き、レイナの頭をひと撫でして魔物討伐の依頼の紙を見てみる。


商人の護衛依頼に遠出の魔物討伐、希少な鉱石や薬草の採取か。早くて危険の少ない依頼はーーーー

ふと目に止まったのは蛇の絵が描かれた依頼だった。


ーフォレストサーペントの討伐ー

Aランク

場所・この街の近くにある生命の森。

目撃者が多数おり、被害が出る前に早急に討伐して欲しい。

報酬・5万ジール


これなら夜になる前に帰って来られるはずだ。

依頼の紙を女性がいるカウンターへと持っていく。


「討伐依頼ですね。えっと、フォレストサーペントの牙二本と尻尾を持ち帰って討伐したと見なします。

討伐出来なかった時は報酬の半分を支払って頂くことになりますので注意して下さい」


「こいつの生息地はもっと北ではなかったか?」


「ええ、一体しか目撃されていないので縄張りを追い出されて来たのかもしれません。

丁度この辺りですね」


地図を広げて場所を教えてくれるシーラ。

ん、ここは俺がいた森じゃないのか?生命の森と言う名前がついていたんだな。

俺がいた時はそれっぽい奴に会った事はないが岩陰にでも隠れていたのだろうか。


アルスは早速フォレストサーペントの討伐へと向かった。



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