負けられぬ戦い
ギルドに若い男が息を切らして入って来る。
「お前ら聞いたか?スドと新人が決闘するらしいぞ!ギルドの練習場でやるから行こうぜ!」
決闘という言葉にギルド内が騒つくが、レイナはこの騒ぎにアルスが絡んでいる事もつゆ知らず、ギルドのお姉さんが出してくれたジュースを飲んでいた。
それを見つけた酒くさい男が声をかける。
「嬢ちゃん、にいちゃんが今から戦うみたいだぞ。見に行かねーのか?」
戦うという言葉を聞いてレイナは血の気が引く。
「どこでっ!?」
「このギルドの裏にある施設だがーー」
椅子から飛び降りると、男を押し退けて練習場へと向かって行った。
練習場には人だかりが出来ており、どちらが勝つか賭けをしている者や、食べ物を売る者など、まるでお祭りか見世物のようになっている。
誰かが盛り上がるように話を大きくしたのだろう。
「お集まりの皆様、これよりスドと、シロの決闘を行います!」
わーっと盛り上がる会場は、拍手の音や声援が響き渡る。
「その剣術を認められ貴族の護衛を任された事もあるスド!」
人混みをかき分けて現れたのは体格の良い中年の男性だ。その腰には綺麗な模様が彫られた剣が鞘に納められている。
「スドが負ければ、シロはSランクとなりますが、シロが負ければそのフードを脱いでもらう事になります!」
「はあ!?」
フードを脱ぐなんて言ってなかったぞ!?
それに負けたらAランクという約束だったはずだ。
視線を感じて振り返るとミネリアがニヤニヤと笑っていた。
負ければ素顔をさらすことになり、勝てばSランクでミネリアの思うツボだ。
くそ、まんまとはめられてしまった。
これで絶対に負けることは出来なくなった。
手配書が出ている以上、顔を見られたらすぐに気付かれる。
そうなれば行方不明だった王子が見つかったと騒ぎになり、帝国が動くことは間違いないだろう。
それだけは避けなければならない。
抗議するが相手にされず、司会者は続けてアルスの紹介をする。
「対するは漆黒のマントを身に纏った期待の新人、シロ! 彼は一体どんな戦い方を見せるのか!」
頑張れよという声援が聞こえる中、クスクスと声援の中に笑い声が混じって聞こえてくるがアルスは気にせずスドの前へと歩く。
お互いに向き合い不正をしない事を誓うと、シーラがルール説明の為に前に出る。
「ルールは一対一でどちらかが負けを認めるまでです。あと魔法は禁止とし、木刀で戦うこととします。これを破れば即負けとなりますので注意して下さい」
魔法は禁止か。足止めや魔法弾など遠距離戦は得意なんだけど近距離戦は少し苦手だ。
「それでは始めっ!」
戦いが始まったと同時にスドが剣を構えて飛びかかってきた。
警戒して距離を保つだろうと思っていたアルスは慌てて飛び退くと、ギリギリに木刀が掠めていった。
もっとやれと観客が声を張り上げる。
この距離まで攻められたら不利だ。
追撃を木刀で弾きながら距離を離そうとするが、スドは距離を離されまいと食いついてくる。
「ほらどうした、マスターからお前の事は聞いているぞ?まだまだこんなもんじゃないだろ」
「剣術よりも魔術のほうが得意なんでね」
スドの攻め込むタイミングに合わせて後ろへと下がり、攻撃を受け流してから一気にスドへと攻め込む。
スドもアルスの攻撃をギリギリで交わしながらアルスの隙を探す。
「シロっ!」
ようやく練習場にたどり着いたレイナは人混みをかき分けながら大声を出す。
レイナに呼ばれた方を見てしまい慌ててスドの方を意識するが、その姿が見当たらない。
まずい、見失ったっ!
死角からいきなりスドが現れ、そのまま腹に蹴りの一撃を繰り出そうとするが、それを木刀で受け止め弾き飛ばす。
「お、これに反応するか。
そんないい腕を持っているのにギルドに入って無かったなんて勿体無い」
「これから存分に振るう事になりそうだがな」
「ほお、もう俺に勝つつもりとは気が早い」
白熱したバトルに観客は大盛り上がりを見せるが、レイナは気が気でなかった。
少しずつアルスが押され始め、スドは余裕の素振りを見せる。
「どうした、攻撃が遅くなってきたぜ?」
くそ、やはり魔法が使えない分不利だ。もっと強く、早く、攻撃を仕掛けなければ。負ける訳にはいかないっ。
アルスの攻撃が先ほどよりも早くなっていき、スドは焦りを感じる。
観客は スドが有利だと思われていたが、アルスの攻撃がスドを掠めるようになり一団と盛り上がりを見せる。
アルスの攻撃に対応していたスドだったが、ついにスドの剣が弾き飛ばされた。
よし、行けるっ!
そのまま踏みつけ、アルスの鋭い一撃がスドの心臓ギリギリで止まる。
「・・・俺の負けだ」
スドが敗北の宣言をすると歓声とともに拍手が起こるが、唖然とその光景を見つめる者もいた。
木刀を降ろしスドから退くと、レイナがアルスへと駆け寄り抱きつく。
どうしたらいいのか分からないアルスはレイナの頭を撫で、一言悪かったと謝った。
「さて、スドが負けを認めたのでこの決闘はシロの勝利となります!」
「Sランクの俺が負けを認めさせられるなんてな。久しぶりに楽しい試合をさせて貰った」
握手を求められ、それに応じようとしたが、いきなり意識が無くなってしまい、アルスはその場に倒れてしまった。




