プロローグ
初小説です。
ドラゴンが全てを奪っていく。
国は炎に包まれ、人々の悲痛な叫び声が止まる事なく響き、その声を聞くたびに心が押し潰されそうになる。
魔法の結界もほとんど壊され、残るのはこの城のみになってしまった。
「シュトラール王国の為にっ!!」
兵士たちが武器を振り上げ次々とドラゴンに向かって行くが、塵を飛ばすかのようにドラゴンは尻尾で兵士を薙ぎ倒す。
平穏だったシュトラール王国を襲ったのはガブルヘイム帝国と呼ばれる、全てを支配しようとする国だ。
数百というドラゴンが空を飛び回る中、国王はグッと力強く握り拳を作る。
国王の目の前には、白銀の髪に青い瞳が特徴の息子の姿があった。
「アルス、早く逃げなさい。今ならお前だけでも逃す事が出来る。さあ、早く」
傷だらけの国王がアルスを逃がそうと説得するが、アルスは首を横に振る。
「嫌だ、俺だけ逃げるわけにはいかない。最後まで戦う」
「だがーー」
ガアァアアアッ!!
大きな咆哮と共に結界がバキバキと音を立てて壊れ、瓦礫を飛ばしてドラゴンと兵士が城へと次々に侵入すると、灰色のドラゴンの背に乗る男が二人を見下ろして声を上げた。
「我が名はバルク・ライオット。
このシュトラール王国は敗北し、我らガブルヘイム帝国のモノとなるのだ。大人しく降伏したほうが賢いと思うが、どうだ国王?」
「貴様らに従うつもりはない!ライトーー」
国王は魔法を詠唱しようとするが、ドラゴンの爪が国王を捕らえ、そのまま壁へと叩きつけられる。
「それが答えか、残念だ。では国王の首を土産に勝利を宣言するとーーー」
「【アースニードル】!」
アルスの魔法により、地面から無数の岩の棘が灰色のドラゴンを串刺しにしようと現れる。
が、それを軽々と避けドラゴンは低く唸り声を上げる。
「これはこれはアルス王子。ウォルガト、少し遊んでやれ、殺さない程度にな」
ウォルガトと呼ばれた灰色のドラゴンは主人の命令により躊躇無く鋭い爪をアルスに振り下ろす。
しかし、アルスを守るように現れた石の壁により、爪ははじき飛ばされた。
この場で強力な魔法の壁を創る事が出来るのはただ一人。
今にも倒れてしまいそうな一国の王が頭から血を流して立っていた。
「死に損ないが、もう魔力も無いくせによ。そいつを取り押さえとけ、これから面白い物を見せてやる」
兵士が国王を取り押さえ足で踏みつける。
「な、にを・・・」
アルスを守る壁が消えた途端、ドラゴンの尾に薙ぎ払われ床へと投げ出されるアルス。
肺から全ての空気が押し出され、全身が痛みに襲われる。
「う、うぅ」
ズシン、ズシンと音を立てて灰色のドラゴンが迫ってくるが、まだ動く事が出来ずただ痛みに耐える声だけが漏れる。
ついにアルスの目の前までドラゴンの牙が迫り、生温かい息とともに血の臭いが顔に吹き掛かる。
「さて、死にたくないなら泣き叫び命乞いしろ。そうすれば逃がしてやってもいいぞ?」
しかし、アルスは命乞いすることなく鼻でフッとライオットをあざ笑った。
その反応にライオットは眉間にシワを寄せ、青筋を立てる。
「何が可笑しい」
普通は絶望や恐怖に歪んだ顔をするはずなのに笑っているアルスに気味が悪く感じる。
「【ウィングカット】」
次の瞬間、ライオットの横を強風が通り過ぎ、ボトリと何かが落ちる音がした。
「あ?」
左腕の感覚が無く、血が勢いよく流れ出るのを認識して初めて激痛が頭の中を駆け巡った。
「アガァアアアっ!!」
主の危機に灰色のドラゴンは主を傷つけたアルスに対してグオオオオオッ!!と大地が響くような咆哮を上げ、鋭い爪でアルスを吹き飛ばし、叩きつけ、引き裂く。
ボロボロになったアルスの止めに、炎を放つ為、息を吸い込む。
「よ、よせっ、ウォルガト!」
主人が止めるのも聞かず灰色のドラゴンは炎を吐く為に息を吸い込み続ける。
この機会を逃すまいと開いた口を目掛けてアルスは魔法を唱えた。
「【バーニングフレア】っ!」
燃え盛る炎の塊がドラゴンの口の中に向かって放たれる。
グギャアアァアッ!!
灰色のドラゴンの口へと炎の塊が撃ち込まれ、口の中だけではなく肺まで焼き尽くす。
炎の勢いは止まらず、遠くから見ている者にもその熱が伝わるほどだ。
口から煙を吐き出しながら灰色のドラゴンはその巨体を壁に打ち付けながら暴れる。
暴れる灰色のドラゴンの背から投げ出されたライオットを他の兵士が助けに入り、回復魔法を急いで唱える。傷が塞がり血は止まったが腕が戻るほど回復魔法は万能ではない。無くなった腕を見てライオットは顔を歪めた。
しばらく暴れていた灰色のドラゴンは、血を口から噴き出しながら最後の力でアルスへと襲いかかる。
まだ、まだ戦える。手足もまだ動くし魔力もまだ少し残っている。
この国の人々の笑顔を、平穏を奪われる訳にはいかないっ!
「【ライトグングニール】!」
魔力が底を尽き口から血が流れると同時に、光の槍がアルスの目の前に現れると、それを手に取り灰色のドラゴンに向かって勢いよく投げつけた。
アルスの投げた槍は風を切りながら大砲を凌ぐ強度もある灰色のドラゴンの身体を突き抜けると、鮮血が辺りに飛び散る。
灰色のドラゴンは声を上げる事なくその場にドシンと倒れこみ絶命した。
魔力を使い果たしたことにより足に力が入らず、アルスはドサッと倒れてしまった。
もう立つ気力もなく、ただ黒い煙とドラゴンに覆われた空を見上げる。
それを唖然と見つめる兵士達を正気に戻したのはライオットの怒鳴り声だった。
「ふざけるなっ!ウォルガトはおれが服従させた野生の下級ドラゴンだぞ!?人が育てた奴とは比べ物にならない強さを持っている!
それをこんな死に損ないのガキが容易く殺しちまうなんてあり得ないっ!」
下級ドラゴンを倒すには剣術と魔法に優れた兵士が合わせて五人必要だと言われているほど手強い相手だ。
魔力もとうに尽き果てているはずの少年がドラゴンを殺すほどの魔法を発揮するとはこの場の誰もが考えなかっただろう。
「ーーーバケモノだ」
一人の兵士がポツリと言葉をこぼす。
次々とその場にいた兵士達が声を上げる。
「こんな事あるはずない、こいつはバケモノだ!!」
「人の皮を被った魔物がっ!」
「早く殺せっ!」
兵士達は声を荒げ一斉にアルスへと襲いかかる。その顔は怒りや恐怖が読み取れる。
ここまでしても進軍するというのか。
どうすればいい、力を見せつけているにも関わらず兵士達は止まらない。
動くことが出来ないアルスの首へと剣が振り下ろされたその時、一匹の紅色のドラゴンが尻尾で兵士達を弾き飛ばす。
「王子は生かしておけと言っていたはずだが?」
紅色のドラゴンの背に乗る男が鋭い眼光で兵士達を睨みつけると、ゴクリと兵士達は唾を飲み込み冷や汗が流れ落ちた。
「も、申し訳ございません、アギルド様」
紅色のドラゴンの背に乗るアギルドと呼ばれる竜騎士が睨みつける。
「目的を見失うな。我々の目的は王子の捕獲だ。他はどうでもいい」
捕獲と聞いてアルスの表情が強張る。
国王も国を攻めてきた目的がアルスであった事に驚愕する。
紅色のドラゴンが大地を踏みしめながら一歩、また一歩と近づいてくる。
ここまで、なのか?
このままでは何もかも全て奪われてしまう。
いや、まだだ。この命が尽きようともこいつらを食い止めてやる。
もう一度、魔法を発動させようと時だった。紅色のドラゴンがアルスの行動に気づき、長い尻尾を素早くアルスの身体へと巻きつけギリギリと締め上げる。
『ソレ以上魔力を使えバ死ぬ。お前ニ死なれては困ルのだ。ソノまま気絶シてイロ』
ギリギリと身体が絞められ意識が遠退いていく。歯を食いしばり、意識を保とうとするが、少しずつ視界が暗くなっていく。
だめだ、ここで意識を失うわけには・・・。
抵抗も虚しく、ついに視界は黒く染まっていった。
次回はまだ未定です。