97 錬金術師
カレラが先導して町に来た。
最初は俺達だけで行こうとしたが、カレラが案内役を申し出たのでお願いした。
町の門番は誰もおらず、逆に町から避難する人達が出入り口でごった返している。
「これでは入れません。迂回しますか?」
焦っているカレラが聞いてきたが、安心させるために微笑んで答えた。
「いや、ここから行くよ。シルワ!」
木製の壁が開いていき、ロックが通れる幅になった。カレラは目を見開いている。
「さ、行こう!」
驚いているカレラの背中を押しながら中へと入る。
町の中は混乱していた。人々が逃げ惑っていようで、荷物を持って走っている人や手をつないで逃げている人達がいる。
黒い魔物があちこちに見えた。町の冒険者や門番の者達が対応して戦っているようだ。
「たぶん奥の方が怪しいです。こちらへ!」
カレラに思い当たる所があるようだ。急いで案内の先へ行くことにした。
進んで行くと魔物が出てきた。マクレイやモルティット、ロックが撃退しながら先へ急ぐ。
見えた! 裏通りの少し開けたところにやや小さめの魔法陣が見えた。これまで見た物と変わらず薄紫色に淡く発光して、黒い霧を出している。
「ソイル!」
瞬時に魔法陣が砕け、周りにいた魔物を地中に引きずり込む。
「よし! 残っている魔物は少ないから、冒険者達に任せて先へ!」
皆が頷き、町の外に向かう。
途中、地面に手をつきソイルの感知で“転移者狩り”の人達の振動を探す……いた!
「こっちだ!」
先導して町の壁を開き通り抜ける。先を見ると人影が複数いて争っているようだ。
「私の仲間です! 間違いありません!」
「行こう!」
カレラが声を上げ、俺が続けた。
走って近づいて行くと詳しく見えてきた。
背の高い男が小さな魔法陣を次々と出現させ、魔物を出している。それをバガン達が撃退しつつ隙を狙っているようだ。
「アーテル!」
暗闇を被せると背の高い男の動きが止まり、戸惑っている。が、今度は自身の周りに魔法陣を出現させ電撃を放出し始めた。
なんかヤバい! 手あたり次第になってる…。
周りの魔物を全て排除したバガン達もうかつに近づけないようだ。
「ソイル!」
男とガバン達の間に壁を作って電撃を防ぎつつ、男の足を地面に固定した。
「ムーシカ!」
さらに衝撃波で男をぶっ飛ばした! 五メートルぐらいフッ飛んで地面に転がり止まるとピクリとも動かない……。
どうやら気を失ったようだ。ホッ、一安心。
バガン達にやっと追いつく。彼らは転がった男を拘束しはじめているところだった。
こちらに気がついたバガンが笑顔でお辞儀をしてきた。
「おお! さすが“契約者“様だ! 助かった! 礼を言う!」
手を上げて応えて聞く。
「誰も犠牲は無い?」
「ああ、先ほどの電撃で少し痺れた者がいるが、大した事ではない」
質問するとウインクして答えてくれた。ま、まさか男にウインクされるなんて思わなかった…。お茶目さん?
拘束した男を引きずって“転移者狩り”の人達が来た。
その男は痩せの長身で黒を基調とした服を着て、腰に様々な呪い道具のようなものを着けていた。
「この男は我々が預かった。重ねて礼を言う、“契約者”様と仲間達よ」
バガンが握手を求めてきたので応える。
「いや、彼には俺達も少しは関わってるから良かった…」
「そうか。カレラに聞いたぞ、なかなか大仕事をしたそうだな」
「そうでもないけど?」
「ワハハ! お主が“契約者”で良かった。もう、我らでは太刀打ちできないな!」
バガンが俺の背中をバンバン叩く。マクレイ達を見ると微笑んで見守っていた。フィア達も合流したようだ。
町の方も落ち着き始めたようだ。魔物は全て居なくなったのかな?
「バガン、俺達は町を見てから先に行くよ! 気をつけてね!」
「うむ、そうか。また会おう! 皆、元気でな!」
バガンと別れ、町の様子を見に行く。
町に入ると冒険者達が後始末をしているようだ。身近な所にいた冒険者に話を聞くと町にいた魔物は排除したようだ。安心して息を吐き出した。
それから町を出てビスロットの研究所へ向かう事にした。
「ナオヤさん…」
「あれ、どうしたんだカレラ?」
風に黒い髪をなびかせカレラが足を止めた。
「私の案内はここまでです。ご一緒させて頂いてとても楽しかった……」
「あ…そうか、バガン達の仲間だったっけ? こちらこそありがとう!」
と、カレラが抱きついてきた。えぇ?
「お慕いしています。お元気で……」
そう言ってカレラは離れて再び町へ走り始めた。なんで? 全然わからない…。茫然と小さくなっていくカレラの背中を見ていたら後ろから叩かれた。
「痛て!」
振り返ると怒りのモルティットとマクレイがいた…。えぇ?
「なんでナオはそうなの! 無防備すぎ!」
モルティットが怒って言ってきた。
「な、なんで? 何もしてないよ?」
「それ! いつもそう! ちょっとは自覚して!」
激しい攻めに何も言えず。っていうか、何の自覚なんだ? その後、モルティットに説教された。なんか違うぞ。
グッタリして歩いていると、マクレイに肩をポンポン叩かれマチルダが寄って来た。
「フフッ。ナオヤってエルフにモテモテだね」
にやけたマチルダに言われた。
「え? カレラは人族でしょ?」
「あら、知らなかったの? あの娘はエルフ族よ」
マジか…。何で? ちらっと横のマクレイを見ると微笑まれた。どういう意味?
夜が来て野営をしている。
マクレイ達が話している隙を見計らって、少し離れて書類を作っているマチルダの所に行くと俺に気がついて声をかけてきた。
「どうしたの? 珍しいわね」
「ちょっと相談したい事が……」
なるべくマクレイ達から見えない位置に座った。それを見て苦笑いしながらマチルダが言った。
「まあ、大体わかるわよ。あの二人のことでしょ?」
「そう! 一人が問題で…」
「フフ。ま、私に聞いても無理ね。嫌いじゃないでしょ? むしろ好きな方ね」
書類を整理しながらチラ見して言ってくる。
「た、確かに嫌いじゃないけど、やりすぎっていうか、普通に仲間として接したいんだけど…」
「それは無理ね。いいじゃない二人ともで?」
それが難しいから相談してるのに…。俺がいけないのか?
「いや、その、一人を好きだって明言してるのに、何でかなって…」
書類をしまってマチルダがこちらを向いた。
「それだけ覚悟があるって事でしょ? ちゃんと応えなさい」
「えぇ!? そうなの?」
「そうなの!」
笑顔で答えられた。
「でも、あなた達を見てると少し羨ましいわ。それだけ信頼し合ってるから」
「いや、俺も大変なんですけど…」
するとマチルダが笑い始めた。
「アハハハ。ま、がんばって! あなたの欲しい答えは用意してないわよ」
マジか…。確かにモルティットは美人だし、たまにドキドキするけど…。
ああああ! わからん! 一人、苦悩して頭をくしゃくしゃしたら、マチルダに肩を叩かれた。
「フフ。若いわねー」
そう言うと立ち上がり、マクレイ達の所へ温かい飲み物を取りにいった。
残されたのは俺とクルールだけ…。は? クルール?
クルールが正座してニコニコしている。全部聞いている風だ…。とりあえず黙ってもらうよう説得したが、いつまでもニコニコしていた……。




