96 魔法陣
カレラの具合を見ていたモルティットがテントから出てきた。
「どうだった?」
「んー、特に大きな傷は無いよ。疲労だね、しばらく休めば大丈夫だよ」
「良かった!」
大丈夫なようだ。安心した。と、モルティットが抱きついてきた。
「な、なんで?」
「お礼は?」
チューしようとするのを怒りのマクレイが無言で引きはがした。
「もう!」
こちらも怒りのモルティットとマクレイが睨み合う…。こんな時に何してんの?
それから二人をなだめ、なぜか俺が説教され落ち着いた。不条理だ。
カレラも疲れて寝ているので俺達もそのまま就寝することにした。
翌日、目が覚めてテントから出るとマクレイ達は既に起きているようだ。
カレラが立ち上がりお礼を言ってきた。
「昨夜はありがとうございました。ナオヤさん」
なんか羨望の眼差しで見られてるけど、なんで? マクレイとモルティットが睨んできてる。怖い…。
マチルダが座るよう勧めて話しかけてきた。
「さ、朝ご飯を食べながらカレラさんの話しを聞きましょ?」
「そうだな。ちょっと顔を洗ってくる」
支度をして皆で朝食を取り、少し落ち着いた頃にカレラが話し始めた。
「私達はしばらく前に、ある錬金術師を追っていました。ところで、魔物を召喚する魔法陣をご存知ですか?」
「ああ、三か所見たよ。そのうち一つは小さかったけど」
そう答えると、驚いたカレラは話しを続ける。
「そう、ですか。凄いですね。私達はこの魔法陣をある錬金術師が作っている事を突き止め後を追いましたが、待ち伏せをされ部隊が壊滅状態になり後退しました。そこで助けを求めて私が派遣されました。精霊使いである私は精霊主様の場所がわかりますので……」
「そういう事か…」
カレラが向き直って頭を下げ、
「なにとぞ、お力をお貸しください! お願いします! お願いします!」
懇願してきた。仲間を見ると俺に注目している。うっ、いつもの感じ。
「わかったよ。顔を上げてくれ。俺達に出来る事はするから」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
嬉しそうな顔でお礼を言われた。何故二回言うのか?
「ただ、マチルダは研究員だからどうしようか…」
「私ならかまいませんよ。何かあれば遠くから見ていますからね」
笑顔でマチルダが言ってきた。なるほど、遠くからか…。
「すみません。俺達の都合で…」
「なに言ってんの! 元々は私の為にお節介してるんでしょ?」
むう、当たってるだけに反論できない。マクレイ達を見ると苦笑いしていた。
「でも、さすがは“契約者”様ですね。以前お会いした時より大魔法使い様などお仲間が増えています」
出発の準備中にカレラが話しかけてきた。
「たまたまだよ? あと、敬語はやめてもらっていい? 少し恥ずかしいよ」
「フフ。あの時と同じですね。ナオヤさんは素敵です」
「は?」
笑顔のカレラになんか敬愛されてる。鋭い視線を感じて目を向けるとモルティットが睨んでいた…。怖いから!
それからカレラの案内で目的地へ向け出発した。
何故か、モルティットがカレラの横にいて何か話している。隣のマクレイを見ると苦笑していた。
たまに魔物が出たがマクレイ達が撃退し、やがて日も暮れ野営することになった。
「……」
野営の準備をソイル達にお願いして敷地作りをしていると、カレラは驚いて立ちすくんでいた。
「カレラ、そこにいないで火の元に来たら?」
「ハッ! そ、そうですね!」
ぎこちなく焚き火の元へ来て座って眺めている。
それからフィア達が料理を始めた。カレラはそれを見て目を丸くして聞いてきた。
「あ、あの、ナオヤさん。いつもこのような野営を?」
「ん? そうだよ。変かな?」
答えると、焦ってカレラは首を横に振る。
「ち、違います! あまりに快適すぎて! こんな旅は初めてです!」
するとモルティットが頷いて続けた。
「わかるよ。ナオってあまり常識を知らないからねぇ」
「待て! どういう事だ!? 俺は常識を重んじる男なんだ…」
反論すると隣にいたマチルダが苦笑しながら俺の肩を叩いた。えー!
「ほら、出来たよ! 今日はちょっと少ないけど」
マクレイが料理を運んできた。立ち上がって手伝う。フィアも両手に運んで持ってきている。
それから賑やかに食事をしてクルールと遊んでから寝て、翌日は朝から出発した。
しばらく進むと魔物の数が多くなってきた。不思議に思いカレラに聞くと、
「この先に魔物を生み出す魔法陣があるのです。先に叩かないと不利になりますので」
との事で魔法陣を潰す事になった。
前に進むと魔物の数が増え、今ではロックも前衛に出て撃退している。フィアは後方でマチルダの護衛をしている。
「見えました! あれです!」
カレラが叫んで指をさす。見えた! あの独特の魔法陣は知っている!
「ソイル!」
すると、魔法陣が一瞬の内にバラバラになり、近くの魔物達を地中に引きずり込んでいく。ありがとうソイル。
他に何かないかと確認するが感知にはかからないので安心した。
「凄い……」
カレラが呟いていると、
「ほら、ボケっとしてないで、先に進むよ!」
ドヤ顔のマクレイがカレラの肩に手を置き、促した。なんで自慢げなのマクレイさん?
それから日が傾くまで進み野営した。
翌日、移動していると岩場の多い地形に変わってきた。
「もうすぐです。そこで仲間と合流して例の錬金術師を追います」
先導しているカレラが語りかけてきた。頷いて了解する。
しばらく歩いて行くと前方に人影が見えてきた。こちらを認識したようで手を振っている。
やがて近くにくると三人の黒のローブを羽織った一団がいた。
「久しぶりだな“契約者”よ!」
“転移者狩り”の頭領、バガンが出てきて挨拶してきた。
「お久しぶり! 大変みたいで…」
「ワハハ。気にせんでもいい! カレラ、無理させたな!」
「いえ、とても素晴らしい時間でした」
バガンがカレラを労うと、カレラは俺を見てはにかんで答えた。するとモルティットが睨んでくる……。
いつのまに好意が芽生えたの? 不思議すぎる…。
笑いながらバガンがカレラの肩を叩き、鋭い目でこちらを見た。
「カレラから事情を聴いていると思うが、この先の町に目標の錬金術師が潜伏している。奴が町を出た所で一気にケリをつける予定だ。すでに見張りをつけているが動きがあるかもしれん。集合場所へ移動するぞ」
そう言うと先に歩き始めた。
「…バガンっていつもあんな感じ?」
「ええ。自分に厳しい人なんです」
カレラが苦笑いで答えるとバガンの後についていく。俺達もそれに従って歩き始めた。
程なく集合場所に集まると、斥候の一人が戻って来たみたいで報告している。
俺達も話しを聞きに近くへ寄った。
「むぅ。そうか! マズいな…」
報告を聞いたバガンが目を閉じ顎に手を当てて考えている。何かあったのかな?
やがて目を開いたバガンが俺達に向かって話してきた。
「すまんが、緊急事態が起きた。奴は町に魔法陣を設置したようで、パニックになっていると報告を受けた。そこで“契約者”様には町に行ってもらい魔法陣を破壊してもらえないだろうか? その後、我々と合流して奴を討つ。奴はこのパニックに乗じて逃げるつもりでいるに違いない。我々は外側から見張って奴の足止めをする。いかがかな?」
「わかった。犠牲者が多く出ない内になんとかしないと!」
「助かる! ありがたき申し出。では行動に移ろう!」
了承するとバガンが感謝してきた。しかしなんて奴だ! 無関係な人を巻き込むなんて許せない!
「じゃ、俺達は早速行くから! マチルダはフィアと一緒にバガン達と共に行動してほしい!」
「わかったわ。気をつけてね!」「任せてくだサい!」
マチルダとフィアがそれぞれ言い、俺達から離れる。マクレイ達を見渡してから町へ移動した。
できれば犠牲者が出なければいいけど。気持ちが焦る。




