94 パラシュート
村長は在宅していたので、そのまま挨拶をして昨日のようにテーブルを囲んだところで質問した。
「この浮遊大陸から帝都以外に地上に降りられる所ってありますか?」
「なるほど、そういう事ですか。ツタ掃除のお礼に答えましょう。この村から南に行くと小さな村があります。そこで聞けばお力になって貰えるでしょう。後で一筆入れときますので、今日はここにお泊まりください」
「ありがとうございます。俺達にできる事があれば言ってください」
村長の返答にお礼を言うと何故かバツの悪そうな顔をしている。仲間を見ると皆、肩をすくめた。
「実は…あなた方が去った後、村の衆に怒られましてな。どうも皆、話しがしたいらしくて……」
「ああ、なるほど、俺達で良ければかまいませんよ」
そう言って仲間を見るとマクレイ以外は微笑んで了解しているようだ。がんばってよ、美人さん!
それから村長と話し合って、集会場で立食パーティー的な感じで交流を温める形になった。
嫌がるマクレイを引っ張って集会場へ向かう。
すると会場には興味津々の村人が待ち構えていた。みんな目がキラキラしている…。マクレイの顔が青くなってきた。
バーティーが始まり村人達が一斉に群がってきた。なんか翼の集団が来る!
最初は少し遠巻きにして話しかけてくるので、気さくに応じてると警戒心も無くなったのかフレンドリーに接してきた。
仲間を見るとモルティットとフィアは場慣れしているのか堂々としている。マチルダは逆に質問攻めにしているようだ。ロックは無口なりにも興味のある有翼人の人だがりができている。マクレイは……あれ? 誰も近寄らない…。なんか両手に料理を持ちながら凄んでオーラが出ている。
しょうがないので話しをしている村人に断って、マクレイの元まで行く。
「マクレイ! そんな顔してると皆、怖がるよ?」
「フン! アタシはそれでいいよ!」
不貞腐れてるのかソッポを向いていた。こういうのも、かわいいなぁ。
「もう少し愛想よくしたら?」
「無理! こういう場はキライなのさ!」
今度は睨んできた。プッ、面白い。
「じゃあ、一緒にいるよ」
「いいから! ほっといて!」
ますますイライラしてきたようだ。なんでかなぁ。
「そんな目でみないで! なによ! ブツブツ…」
すっかりへそを曲げたマクレイがブツブツ言ってる。手を伸ばして顔をこちらに向けさせる。
「な、何?」
「どんな顔をしてもマクレイはキレイだよ! それに俺がいるじゃん」
すると目を逸らして顔が真っ赤になった。ちなみに俺も真っ赤だ。恥ずかし! 胸元のクルールはキャーキャー言ってる。
と、いきなり後ろから抱きしめられた! 首を巡らすとモルティットが抱きついてきていた。
「ちょっと! マクレイディアだけズルい!」
「なんで! ズルいも無いだろ! 俺はマクレイが好きなの!」
「それ! 私に酷くないの?」
モルティットを無理やり引きはがそうとするが、思いのほか力が強い! 助けて!
三人で騒いでいると後ろから大声があがる。
「もウ! どうしていツも同じことをするのでスか!!」
フィアが両手を上げて怒ってきた! それを受けて俺達の動きが止まった。会場も一瞬静まり返る…。
「「「ご、ごめんなさい!」」」
三人揃って謝ると、間をおいて会場中が爆笑の渦になった…。いや、凄く恥ずかしいんですけど!
その後はフィアに説教された。マチルダはフィアの行動に感激しているようで、しきりにメモを取っていた。
これが切っ掛けになったかわからないが、緊張が取れたマクレイは村人達と話しをするようになったようだ。良かった。
そして賑やかな夜が更けていく…。
翌日、笑顔の有翼人達に送られて村を離れ歩き始めた。
村長からの紹介状も預かってあるので、一安心かな。
教わった小道を南に歩き、数日移動した所で村が見えて来た。
村人は普通の人族のようで素朴な感じだ。相手が気がついたところで挨拶をして村長に取り次いでもらう。
村長に挨拶して紹介状を渡し事情を説明すると、快く応じてくれた。
「そうでしたか、でしたら紹介しましょう。帝都以外に商いをする者も多いですからなぁ。私どもの村に来てよく買われるので大丈夫ですよ。さ、こちらへ」
そう言いながら近くにある家へ案内された。買うって何を?
「ここですよ。おーい! ノートリア! いるかーー?」
「ああ! 勝手に入ってくれ!」
ドアの前で村長が呼ぶと中から大きな声で返事がきた。忙しいのかわからないが、随分野太い声だな。
ロックを入り口に待たせて皆で中に入って行くと、広い室内には長く巻かれた布が所狭しと並べてあり、ロープ類や細かな器具が箱に入っているのが見えた。まるで工場のような雰囲気だ。
と、奥からガタイの良いおっさんが出てきて挨拶してきた。
「ようこそ! 俺はノートリアってんだ。お客だろ?」
「ああ。村長に紹介されて来たんだ。あ、ナオヤって言います」
それから村長が簡単に説明してそのまま帰って行った。
顎に手を当てて聞いていたノートリアは俺達を見て語り始める。
「よし! だいたいわかった。それでお前達全員が下に降りたいってことだな。使い方を後でレクチャーしてやる。この人数だと料金もそれなりだがいいか?」
「たぶんね。それってどういう道具なんだ?」
値段よりどういう物で降りるのかが興味あるので聞いてみると、手を振りながら
「ま、それは後で説明するぞ。腹は減ってないか? これから飯にするがいいか?」
「もうペコペコだよ。良ければ手伝うけど?」
するとノートリアは目を見開いた。なんだ? マズかった?
「なんだと! ありがたい! 俺が作ると肉を焼くだけだからな! ワハハハ! その分、料金を引かせてもらうぜ!」
嬉しそうにノートリアは俺の肩をバンバン叩いた。痛いよ。
それからフィアとマクレイが台所に立ち、モルティットも手伝うようだ。残りの俺達は狭いテーブルについている。
「ところで、お前達は何の商売をしてるんだ?」
お茶の入っているカップを片手にノートリアが聞いてきた。
「ハハ。商売はしてないよ。ま、しいて言うなら観光かな?」
すると驚いたノートリアはカップを置いた。
「マジかよ! 帝都から来たんだろ? 観光なんてすごい金持ちじゃねぇか!」
「全然違うし! もうギリギリなんだって! あの帝都のゴンドラにはもう乗れないよ!」
速攻否定して言い訳したらノートリアがニヤリと笑った。
「まー、いろいろあるからな! 俺も商売柄、深くは聞かないよ! ワハハハ!」
絶対勘違いしている顔で笑っていた。面倒だからこのままいこう。一緒にいたマチルダは興味なさそうに部屋の中を見渡していた。なんかフォローして!
しばらくして料理が運ばれてきた。どれも美味そうだ。ノートリアの目が輝いているのを見て、いつも質素なのかと同情した。
それから全員で食事をして過ごした。ノートリアは感激してもの凄い早さで食べていた。
少し落ち着いたところで、満足げなノートリアが口を開いた。
「ありがとう! とても旨い飯だった。しかしお前も羨ましいな、美人な嫁二人に良くできた魔導人形なんてな!」
「一人だけだから!」「違うよ!!」「ありがと!」「あノ…」
とんでもない言葉にそれぞれ悲喜こもごもな顔で一斉に主張し始めた。あまりの迫力にノートリアは青くなっている。
「わ、悪かった…。この話しは置いておこう。な?」
全員が頷く。ノートリアは少し震えているようだ。特にマクレイに睨まれているからかも。マチルダは必死の顔で肩を震わせていた。絶対に笑いを堪えてるよね?
「じゃ、じゃあ、気を取り直して…。いいか? お前達には明日、この村から少し先に行った所にある崖から下の大陸に降りてもらう。もちろん、生身じゃないぞ。このような袋を背負って降下中に開いてもらう。そうすると比較的安全に降りられるって寸法だ。ただ、降りた先の事は知らん。そこは運だな」
なんとか持ち直したノートリアが小さな丸い袋を逆さにして説明した。あ、これって!
「“パラシュート”を作ってるのか? ノートリアは!?」
「おや、知ってるのか。そうだ、俺はそのパラシュートってやつを作ってる職人なんだよ。昔、転移者がこの村に伝えたようでな、代々引き継いでるのさ」
関心してノートリアが説明した。なるほどな~。
「アタシは嫌だよ! そんな袋みたいので落ちるのは!」
真っ青になったマクレイが叫んできた。あー、忘れてた。
「ほら、一緒にいてあげるから。ね?」
「無理だよ、無理! 恐ろしすぎるよ! わかってよナオ!!」
今度は涙目で言ってきた。プルプルしてるし、かわいすぎる。
とりあえず嫌がるマクレイを皆でなだめて今日はノートリアの家に泊まることになった。
商売人もよく泊まるそうなので部屋数も多く、問題なく各自で寝る事ができた。
夜中、ふと、物音で目が覚める。
あたりを見回すと薄暗い部屋にマクレイが佇んでいた……。あれ? 寝ぼけてる?
「ど、どうしたんだ? マクレイ?」
声をかけると、顔を下に向けて弱々しい返事がきた。
「……明日の事を考えると、こ、怖いんだよ」
なんだと…。そんなかわいい……。起き上がって、マクレイの手を取って一緒にベッドに入る。なぜか抵抗もせずなすがままだ。
「ほら、大丈夫だから」
そう囁いて抱きしめると、ギュッとしてきた。少し震えている。反対側からはフィアもそっと抱きしめていた。そう、俺はフィア、クルールと一緒に寝ていたのだった。それでもドキドキする。
クルールはマクレイの頭をナデナデしていた。皆、優しいね。




