91 魔導研究所
しばらくすると、ブエールがもう一人を伴ってやってきた。
「遅くなってすまんな。紹介するよ、魔導研究所所長のコベントさんだ」
「よろしく、コベントだ。君が魔導人形の持ち主かね?」
細身の小柄なおじいさんが紹介され、挨拶してきた。
「はい。ナオヤと申します。このフィアについて聞きにきました」
するとコベントは驚いて聞き返したきた。
「なんだと! フィアといったか?」
「は、はい。言いましたけど」
勢いに押されながら答えると、コベントはフィアに向かう。
「君はレネルフィアかね?」
「はイ。そうデす」
静かにフィアが答えるとコベントは無言で目を見開いたままフィアを凝視している。薄くなった頭に汗が滲んでいるのが見えた。何か思い当たる過去があるんだろうか?
「どうです。コベントさん。本物でしょ?」
にやけ顔のブエールがコベントに話しかけるとコベントは眉をひそめ俺に聞いてきた。
「む、そうだな…。もう一つ君に聞きたい。このレネルフィアと出会ったのはどこかな?」
「西の大陸にある荒野の家です。湖の近くにある」
そう答えると確信したようにコベントが続けた。
「なるほど、その湖を越えた森の中にある石切り場は知っているかな?」
「あー、はい。その石切り場から湖を抜けて旅してました」
コベントの瞳に何かあるような感覚がする。ひょっとして…。
「石切り場に埋まっていた物がありました。コベントさんはご存知ですね?」
話しを切り出すとコベントは驚いたようだ。
「ああ! ここより私の部屋に来なさい。座って話そう。ブエール君ありがとう」
コベントはそう言うと背を向け部屋から出て歩き始めた。慌てて俺達も後について行く。だが、なぜかブエールも後ろからついて来ていた。
コベントの私室は三階のようで、エレベーターに乗って上まで上がって行き、通路の突き当たりの部屋へ案内される。
そこは大きな机があり、その前に長いソファーが並んでいた。机の上には書類や設計図のようなものが整然と並んでいて几帳面さを伺わせた。
座るよう合図され全員が着席する。ブエールは扉の近くに立っていた。
一同を見渡してやがてコベントが口を開く。
「では、続けよう。確かにあの石切り場のゴーレムには私が関係している。なぜ知っているんだね?」
あー、やっぱり。言いづらいなぁ…。マクレイを見ると目を逸らされた、ズルイ!
「……近くを通ったとき偶然動きだしきたので、俺と彼女で、は、破壊しました」
「なに!? あれを破壊したのか!」
驚いたコベントが前のめりで声を上げた。
「か、彼女は高名な剣士でして…」
「ああ、なるほど、赤い髪のエルフの冒険者か……どこかで聞いたことがある。あのゴーレムは試作なのだよ。錬金術で創られたゴーレムに魔導工学を導入し、誰でも操れるようにしようとしたが失敗してね。無理に動かすと暴走するのであの石切り場へ埋めていたんだよ。だが、そのお陰で魔導人形の技術が発展したよ」
破壊して良かったのか…。少しホッとした。
なぜか機嫌の良いコベントは饒舌で、話しを続ける。
「それで、レネルフィアの事だったな。儂はバンホールと共同で魔導人形の研究をしておった。先ほど言ったゴーレムの技術も使い新しい魔導人形の開発をしてな、いろいろ試したよ。だが、見よ! バンホールは独自で造り上げたのだ!」
フィアを見たコベントは意地の悪い顔をして付け加えた。
「己の娘を犠牲にしてな!」
は!? どういう事だ? そう言えば…確かフィアの家に親子の肖像画があったな。コベントは勝ち誇ったような顔をしているが、さっぱりだ。フィアを見ると頭が震え動揺しているのがわかる。
「あの、どういう意味ですか?」
質問すると出来の悪い生徒に接するような態度で言ってきた。
「まだわからんのか? バンホールは病気で死んだ自分の娘の一部を魔導人形に組み込み造ったのだ。レネルフィアは魔導石では動いて無いだろ? 見なくてもわかる。精霊をエネルギーに変換するよう考えたのは儂なんだからな!」
……ああ、わかった。ショックだ。でもおかしいぞ。
「前にビスロットさんに会いましたが、あなたの名前は出ませんでしたよ?」
「あいつか……。バンホールの腰巾着だった奴だな。バンホールがいなくなった後、我々の計画に反対しおって行方をくらませたんだ。儂を恨んで名前を出さなかったかもな」
イライラした表情で言葉を吐き出したコベントは相当ビスロットが嫌いなようだ。確執か何かな? しかし、これ以上ビスロットの話しは振らない方がいいかもしれない。マクレイを見ると片眉をあげていた。
「あノ…。お父様はどういう人でしタか?」
話しが落ち着いたと判断したフィアがおずおずと聞いてきた。
「バンホールか……。奴はとても頭は良かったが独善的で独りよがりだった。しかも秘密主義で必要な事以外は教えてもくれなかった。しかし、天は味方した。完成させた魔導人形が自らここに来てくれるとは! こんな嬉しいことはない!」
ニヤリと笑うコベント。しかし、ずいぶんな評価だ。フィアはショックを受けたらしく頭が小刻みに震えている。隣に座っていたモルティットが励ますようにフィアの手を握っていた。俺もフィアの隣の席にすれば良かった。自分の事ばっかりだな俺は……。
これ以上、身内の悪口は御免だ。早く出よう! マクレイ達に目配せして会話を切り上げる。
「話しはわかりました。俺達も先を急ぎますから今日の所はこれで帰ります」
驚いたコベントは、
「なんだ、もっと興味があると思ったんだがな。しかたがない。ここを出るために少し別室で待っていてくれたまえ」
そう言うと後ろにいたブエールが扉を開き手招きする。
「こっちだ」
ブエールに案内され、作業をしている研究員達の部屋を横切りコベントの私室と反対側にある分厚い扉の実験室のような所に連れてこられた。
「さ、この中で待機してくれ、すぐに許可をとってこよう」
扉の側でブエールが声をかける。絶対おかしいよね? 罠? マクレイ達は既に部屋へ入ってしまった。俺はフィアの手を取って行こうとすると、いきなり鈍器のような物で頭を殴られ突き飛ばされた! 痛って~!
「ナオ!」
慌てたマクレイ達が駆け寄って来るが、急いで立ち上がって振り返ると分厚い扉がすでに閉まっていた。なんだと!
「フィアーーーー!」
叫ぶが全然聞こえてないようだ。
「ナオは大丈夫?」
モルティットが声をかけてきた。
「ああ、たんこぶぐらいだ。……畜生! フィアを連れて行きやがった!」
扉に手をついて精霊主を呼び出そうとすると、慌てたマクレイが止めてきた。
「だ、ダメだよ! ナオ! そんなんじゃ、この辺一帯が崩れるよ!」
俺の手を取って必死な顔で留める。
「そう。まだフィアちゃんには何もしないよ!」
モルティットも手を重ねてきた。自分じゃ気がつかなかったけど、そんなヤバいの?
確かにイライラしてるし、怒ってるケド。
「ふー。わかった! 少し落ち着くから!」
そう言って扉から離れた。二人のエルフはホッとしていたがマクレイの胸元にいるクルールはプンプンしていた。
──よし! 落ち着いた! たぶん!
「じゃ、扉を開けるから」
そう宣言してマクレイとモルティットを見ると頷いた。
一応、鍵が掛かってないかもしれないので、押したり引いたりしたがビクともしなかった。
「アウルム!」
と、扉が変形して人が通れる空間ができた。部屋を出て壁に手をつけて振動感知を試してみる。
……んー。なにか阻害されている感じがしてフィアの鼓動を感知できない。〈ごめんなさい。ここは魔法の障壁があるみたい〉ソイルが申し訳なさそうに答える。
「ダメだ! フィアの居場所がわからない!」
マクレイ達に説明すると少し焦ってきたようだ。
「ナオならすぐに見つけると思ったけど、面倒になってきたね」
モルティットが言ってきた。ううっ、すまない。
「ほら! 早く探すよ!」
マクレイが身近な扉を開けながら調べ始めた。
資材置き場や機械類のある部屋を調べながら移動する。途中、先ほど会った女性が背中を向け前を歩いているのに気がついた。
「マチルダさんですか?」
声をかけると振り返って驚いている。よかった本人みたいだ。
「あら!? まだいたの? ここは関係者以外は立ち入り禁止よ」
「違うんです! 仲間の魔導人形を見かけませんでしたか?」
すると思い当たったのかマチルダが頷いて話してきた。
「それならブエールさんが連れて歩いているのを見たわ。てっきり譲渡したのかと思ったけど違うようね」
「ええ違います。フィアとは離れません。どちらに行きましたか?」
「それなら私が案内するわ。途中でロックが掛かっているから解除してあげる」
そう言うとマチルダは通路を急ぎ足で案内しはじめる。
「ありがとうマチルダさん。でも、こんなことして大丈夫?」
「たぶん駄目ね。気にしないで、前から辞めるつもりでいたから」
苦笑いしながらマチルダは進んで行く。マクレイに腕をつねられた。見ると睨んでいる。なんで?
やがて鍵の掛かっている扉につき、マチルダに解除してもらい先を急ぐ。
「たぶんこっちよ! ブエールさんはきっと詳しく調べる気だから検査室だと思うわ」
マチルダを先頭に先に進んでいく。何人か研究員とすれ違ったが、誰も疑問に思わないのか無視をされていた。
俺の様子を見たマチルダが説明してくれた。
「この研究所にはいろいろな人が来るから誰も気にしないわ。さ、急ぎましょう!」
たどり着いた所は大きな白い鉄製扉の部屋だった。壁に手をつくと微かにフィア特有の振動が感じられる。
「間違いない、この部屋から感じるよ」
皆にそう言うとマチルダはビックリして聞いてきた。
「驚いた! あなた何か特殊な力を持っているの?」
「それは後で! 早く開けてください!」
慌ててマチルダが鍵を解除しようとするが、どうも上手くいかないようだ。
「駄目。内側から違うロックを掛けていて開けられないわ」
申し訳なさそうに言ってきたがマチルダの肩に手を置きお礼を言う。
「いや、十分だよ。ありがとう。アウルム!」
ゴギキィと扉ごと内側に折れ曲がった。どうも他の材質もあったようだ。マチルダはそれを息を飲んで見ている。
早速、中へ踏み込むとそこには手術台のような台に寝かされているフィアと、その横に血に濡れたスパナのような物をもったブエールが佇んでいるのが見えた。
ブエールの足元には、コベントが血だまりの上に横たわっていた……。
「フィアーー!!」
叫ぶとブエールがビクッとして、ぎこちなくこちらに頭を向ける。
手に持っていたスパナのような物がカタカタ震えていた。
フィアは上半身を起こし、金属でできた拘束具を引きちぎって、こちらへ来た。あれ? フィアって怪力かな?




