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88 ジャイアントビー退治

 

 少し落ち着いたところでイリーナが口を開いた。

「アハハ。あなた達は面白いね、人前で痴話喧嘩なんて。本当は劇団の人じゃないの?」

「本当にすみません。みっともない所をお見せして…」

 再度謝る。マクレイとモルティットは下を向いて恥ずかしそうだ。イリーナは優しそうな笑顔で答えた。

「いいさ。エルフもいるのに随分若いね。依頼は了解した事でいいかな? 狭いけど今日はここに泊まればいいよ」

「ありがとうございます! お世話になります!」

 あれだけの事をして断れないので真っ赤な顔のままお礼を述べる。

 それからエイロンは自宅へ戻り、俺達はこのまま泊めてもらうことになった。

 夕食はフィアとマクレイ、珍しくモルティットも加わって作ってもらう。


「ところでマクレイさんとナオヤ君は恋人なの?」

 調理の間、二人でテーブルで待っていたらイリーナが聞いてきた。正面切って言われると照れるな。

「俺はそう思ってるけど、マクレイがハッキリしないっていうか…」

 歯切れも悪く答えると、イリーナは微笑んで、

「フフ、そうなの。ずいぶん愛されてるじゃない。いっそ、二人とも(めと)っちゃえば?」

「えっ! そんなこと出来るの!?」

 ビックリした! さすが異世界、自由だな。イリーナが続けた。

「知らなかったの? まあ、養うだけのお金があればの話しだけど」

「そうだとしても、俺には無理だ…。二人相手なんて。一人でさえ大変なのに……」

 うなだれる。するとイリーナが笑い始めた。なんで?

「アハハハ、ナオヤ君は面白いね。見た目と違って堅い男なんだね!」

「そうかな? 考えた事無いけど…」

 ふと脳裏に爽やか勇者カイトがよぎる。ひょっとして、かわいい三人娘は全員、嫁とか? それはそれで(すご)いけど。

 イリーナは微笑んで

「ま、がんばりなよ。若いんだし」

 そう言ってお茶を飲む。

 いや、がんばって何とかなる問題でもないような…。言いたい気持ちをグッと堪えた。

 その後、賑やかな夕食を取り、空いている部屋で就寝した。


 翌日、エイロンの案内でジャイアントビーを退治に出かけた。

 村を離れ、近くの林を歩いていく。しばらく進むとデカイ蜂が飛んでいるのを目撃した。

 エイロンが遠くにいるその蜂を指をさし、

「あれがジャイアントビーだよ。な! デカイだろ?」

「ああ、確かにデカイな。あんなのに追いかけられたら夢に出そう…」

 そう言うとエイロンに肩を叩かれた。

「わかるよ! 実際、追いかけられた時は死ぬかと思ったよ!」

 ここに経験者がいたよ。しかし、よく村人は大丈夫だったな。

 倒すかどうするか考えてるときに、マクレイが指示を出した。

「あいつは斥候だから、無視して行くよ。巣を無くせばしばらくはこの付近には来なくなるよ」

「さすがマクレイ、魔物には詳しいね!」

 そう言うとマクレイはドヤ顔してる。と、膨れたモルティットに腕をつねられた。痛いって!


 さらに先へ進むと、家一軒ぐらいありそうな蜂の巣があった…。巣は薄い青色に光っていて、なんとなく神秘的だ。

 周りには蜂が無数飛んでいて警戒している。飛んでる蜂を見るとお尻に巨大な針があった。こんなんで刺されたら間違いなく死ぬな。これ。

 怖いからさっさと終わらそう! そう思って仲間を見るとモルティットが出てきた。

「ここは私の出番ね。マクレイディアの剣じゃ不利だしね」

 そう言うと補助器を取り出した。

「あれ? 俺がやろうと思ったんだけど」

「ん? 大丈夫! 私にもできるよ。心配屋さん」

 マクレイを見ると(うなず)いてきた。任せろってことね。すでにモルティットは詠唱を始めている。

「ワタシも補佐しますカら。大丈夫でスよ」

 魔導銃を片手にフィアも言ってきた。

「それじゃ、二人ともよろしくね。危ない時は手伝うから!」

「ふふっ、そうね。よろしくね」

 モルティットがウインクしてきた。そして前を向くと魔法を行使した。


 一瞬にして巣と周りの蜂が氷漬けになった!

 飛んでいたジャイアントビーは次々と地面に落下し、粉々に割れてしまった。

 さらにモルティットが氷の矢を巣に打ち込むと、ガラスが割れたようにキラキラと太陽を反射しながら欠片をあちこちへ飛ばして、跡形も無くなってしまった。

 おお! (すご)い! カッコいいね!

 最後にフィアが斥候のジャイアントビーを狙撃して吹き飛ばしていた。

「どお? これでいいでしょ?」

 満足気なモルティットが振り向いた。

「ああ、(すご)いね! 前よりも格段と強くなったみたいだ」

「ふふっ。ありがと!」

 褒めると嬉しそうに近寄ってきた。エイロンは驚いて固まっていて、

「す、(すご)い……。こんなにアッサリと……」

 ワナワナ震える声で言っている。そんなエイロンの肩を叩いて声をかける。

「大丈夫?」

 無言で頷いているが、徐々に興奮してきたようで、モルティットをめちゃ褒めていた。


 さらに憧れの目でモルティットを見ているのが印象的だった。見慣れているから普通だけど、結構大事(おおごと)なのかな?

 それからマクレイが周囲を調べ、特に問題なさそうなので村へ戻ることにした。


「あれ? 随分早いね。どうしたの?」

 村に帰ると驚いたイリーナが言ってきた。そこに興奮したエイロンが駆け寄って説明している。

 俺達も近づいて説明が終わるのを待っていた。聞き終わったイリーナは

「そうだったの。ひょっとしてあなた達って凄腕なのかしら?」

 そう俺達に聞いてきた。実は自分達の評判なんて知らないから、わからない。と、モルティットが微笑んで答える。

「ふふっ。そうかもね」

 マクレイを見ると苦笑いしている。フィアはいつも通りの感じだ。ロックは皆を見守っている。クルールは俺の胸元で眠っていた。

 それから村長とエイロンからお礼を言われ、少し引き留められたが、丁寧にお断りしてソルトレイの村を後にした。



 数日かけて前へ進むが一向に目的の近くへ来た感じがしない。

 おかしいと思い、空を見上げると遥か先に浮遊大陸が見えた。あ! ひょっとして!

「あれだ!」

 思わず声を出すと横にいたマクレイがビックリして聞いてきた。

「な、なんだよ。どうしたんだいナオ?」

「ゴメン。わかったんだ。次の目的地はあれだ!」

 遠くに小さく見える浮遊大陸を指さす。

「ホントかい? まさか浮遊大陸とはねぇ。どうやって行けるんだろうねぇ…」

 マクレイが頭をかいて困っている。そこにロックから降りたモルティットが来た。

「あら? どうしたの? 立ち止まって」

「浮遊大陸が目的だって今、わかったところ」

 説明すると首をかしげて、

「へ~。浮遊大陸かぁー。それなら帝都に行った方が早いんじゃない?」

「帝都には行く手段があるのでスか?」

 モルティットの言葉にフィアが疑問を(はさ)んだ。

「たぶんね。確か昔、聞いたことがあるよ。浮遊大陸との定期便があるとか」

 指を(あご)にあて、思い出しながらモルティットは答えている。

「なら、帝都に行けばいいかな? 皆はそれでいい?」

 仲間を見渡して聞くと、皆、サムズアップをしてきた。クルールもか!

 俺達は帝都に向け移動を始めた。


 野営をして夜の事、初めてイグニスが姿を現した。

『こんばんは、ナオヤさん。よろしくお願いしますね』

「ああ、大丈夫。じゃ、その辺を回ってくるから!」

 焚き火の周りにいるマクレイ達に声をかけて、イグニスと夜の散歩に出かけた。


『話しには聞きましたが、本当にできるなんて夢のようです』

 隣を歩くイグニスが静かに言ってきた。

「ハハハ。今迄は“契約者”とどうしていたか聞いていい?」

『そうですね、私はただ使われる存在でした。この力を求める者に』

 少し寂しそうに言ってきた。使われるだけなのは辛いなぁ。俺だったら嫌だな。

「そうか…。でも、俺も似たようなものだし、あまりイグニスの役には立てないけど、力にはなるよ」

 イグニスはニッコリ笑って手を握ってきた。

『その言葉だけでも嬉しいですよ、ナオヤさん。私もあなたの力になりたい』

「ありがとう! ところで聞いていい? えっと、俺の中にいるときって、どうなってんの?」

 そう聞くと、予想外の質問らしく面を食らっていた。やがて顔を赤らめ

『そ、それは言えませんが、皆、あなたを見守っていますよ』

「へー。って、ことは……!。ま、まさか…この間のマクレイのこととか?」

 赤くなったイグニスは顔を(そむ)けて無言だ。マジか……見てたのか、恥ずかしい…。なんていう公開プレイ。

 するとボソリとイグニスは(つぶや)いた。

『…恋ってステキですね』

 めちゃくちゃ恥ずかし! 俺も赤くなって、散歩を続けた。

 クルールのハミングが雰囲気を紛らわせてくれる。いて良かったクルール。


 仲間の所に戻っても顔が赤かった。

 俺を見たマクレイとモルティットは怪訝な顔をしたが何も言わなかった。…助かった。こんなこと言えない!



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