87 ソルトレイの村
宴会が続いている中、マクレイ達を探しているとフィアとロックがいた。手を上げて近くに行く。
近づくと先にフィアが口を開いた。
「ナオヤさン。起きましタね」
「おはよう! フィアもロックもありがとう。助かったよ」
「イイエ。当然の事でス。ナオヤさン達も無事でホッとしてマす」
フィアが手を握ってきたので俺も握り返す。
「心配かけてゴメンね。マクレイがいたから大丈夫だったよ」
「フフフ。余計な心配でしタね」
「ヴ」
二人とも嬉しそうにしている。やっと安心できた。胸元のクルールもニコニコしている。
三人で座って雑談しているとマクレイ達もやってきた。
「ここにいたのかい。探したよ」
マクレイが俺の横に座ってきた。モルティットはフィアを抱いて、また俺の横に座る。
「心配したのになんのお礼もないの?」
怖い笑顔でモルティットが言ってきた。マクレイを見ると目を逸らした……。絶対、喋ったな…何もなかったとか言ったくせに。
「だって、彼女じゃないじゃん?」
「ふーん。マクレイディアにはするのに?」
そう言いながらモルティットが俺のほっぺたをグリグリしてきた。
「関係ない…っぷ」
突然口づけされた。マクレイが慌てて俺を引っ張って怒鳴る。
「なにしてんだい!」
するとモルティットは恐ろしい笑顔で
「お礼をもらったの。イケない?」
その顔を見たマクレイは引きつった。最近わかったけど、モルティットが怒ったときの笑顔はすごく怖い。殺人級の怖い笑顔。
俺とマクレイは顔を逸らし、村の様子を眺めた。怖くて全然、様子が目に映らない…。
「モルティットさンも、それぐらイで。二人ともわかってますカら」
フィアが助け舟を出した。ありがとう! フィア!
「あら? フィアちゃんが言うのならしょうがないね。わかった? そこの二人?」
モルティットの言葉に二人して凄い勢いで頷いた。怖えええ!
それから町に行っている間の事とかお互いのことを報告しあって、雑談した。
翌日、村人達にお礼を言われ村を旅立った。
ダボイもこの村が気に入ったようで張り切っている。少し心配したが安心した。
魔物のでる森に入り奧へ進んで行く。
「この方角は導きとは違うよね?」
横を歩いているモルティットが疑問をぶつけてきた。
「ああ、その前にやることがあるんだ」
「ナオは魔物の多さを調べたいのさ」
マクレイがモルティットの肩に手をのせる。
「ふーん」
少し怖い顔をモルティットが向けてきた。昨日から怖い、夢に出そう。
先に進んで行くと魔物が出始めてきた。マクレイとロックが排除していく。
奥に行くにつれ魔物の出現が多くなってきた。
今ではモルティットも参戦している。時折、フィアも狙撃していた。ソイルの振動感知だけでも結構な数を確認できた。
とりあえず、マクレイ達にバレないように、少し離れている魔物はソイル達に処理してもらった。
やがて前方に開けた空間が見えた。
「たぶん、あそこに原因があるかも」
魔物を撃退しているマクレイ達に声をかける。
頷いたマクレイ達は前に進むスピードを上げ始めた。いや、ゆっくりでいいんだけどね。
開けた空間に出ると、そこには前に見たことのある薄紫色をした魔法陣が置かれていて、黒い靄がゆっくりと立ち上っている。
「前に見た物よりも小さいね。どう思う、モルティット?」
思案顔でマクレイがモルティットに聞く。
「そうね。これはテスト用かもしれない。小さいものでどのくらいか確認していたのかも」
「一体、どんな奴がそんなことしてるんだ?」
腹が立って俺が聞くとモルティットは見透かしたように微笑んで答えた。
「さっぱりわからないよ。でも、こんな魔法陣を組むのは魔法使いか錬金術師のどちらかね」
なるほど。はた迷惑極まりないな。これは。
〈早く無くしてしまいましょう。このような不快な物は〉ソイルがご立腹だ。
「ソイル!」
すると魔法陣が砕け散り、跡形もなくなった。ユラユラ出ていた黒い靄も霧散していく。
「皆、ありがとう。これで安心かな?」
仲間にお礼を言うと皆が頷いた。
これでメンタットの村も少しは魔物に悩まされる事はないだろう。
晴れて導きの方へ歩き出す。
横に来たモルティットは俺の手を握ってきた。
「ホントにお人好し。そこまでしなくていいのに」
「別にそういうのじゃないよ、途中で止めるのが嫌なの。それになんで手をつなぐの?」
そう聞くと、モルティットがマクレイをけん制しつつ、
「ふふっ。なんとなくね」
笑顔で言ってきた。まだ怒ってるわ…。マクレイを見ると高速で頷いている。ああ、もう面倒くさい。
しかたがないので、そのままで暫く歩いた。クルールは肩に乗って楽しそうにハミングしている。
数日進むと馬車道の途中に関所みたいな所に出た。
「あれは国境の詰め所だね」
マクレイが解説してきた。あれがそうかー。まさに関所だな。
あれから、モルティットの機嫌も直って、今はロックに抱かれて移動している。
「その先は人族の領土になるんでスね」
手をつないでいるフィアが言ってきた。
「ああ、そうか! 帝都が近いんだっけ?」
「そういうことさ。さ! 進むよ!」
俺の疑問にマクレイが答えて詰め所へと移動した。
詰め所といっても荷物のチェックぐらいで、すんなり通れて少し肩透かしな感じ。
戦争でも起きない限りは安全に行き来できるようだ。
それから数日進むと、村らしき影が見えてきた。
「あそこで休めるかな?」
「さあねぇ。行って見ないとわからないよ」
横にいるマクレイが呆れながら答える。
「あー、休みたい。ゆっくりしたいよね?」
「ナオは、何時もゆっくりしてるだろ! ほら! 行くよ!」
怒られた。何故だ?
やがて村の門が見えてきた。ここから見える家の数は少ないが、村をぐるりと囲っている柵は広い。不思議な感じだ。
門には痩せた男が一人、魔導銃を肩にかけて、けだるそうに座っていた。
「こんにちはー!」
声をかけると、ビクッとしてこちらを見た。ひょっとして寝てた?
「あ、旅の方ですか? あれ? ひょっとして冒険者?」
「えーと、全部あってるよ。ところで、この村で一泊したいけどいいかな?」
すると男は興奮して話しかけてきた。
「本当かい! と、とりあえず村長の所へ!」
なんかあるのかな? 俺達が困惑している中、村長の家へ案内された。
家の前には村長と思わしき年配の女性がいた。俺達が来るのを認めると痩せた男に話しかける。
「エイロン! その人達はどうしたの?」
「イリーナさん! 聞いてください! この人達は冒険者だそうですよ!」
エイロンと呼ばれた痩せた男は嬉しそうに説明する。村長と思われるイリーナは少し疑っているような顔だ。
「初めまして、ナオヤと申します。俺達、通りがかりで一泊させて欲しいのですけど…」
とりあえず挨拶してみる。
「ああ、なるほど。とりあえず私の家に入ってください。話しはそれからで」
イリーナは家の扉を開けて招待した。お言葉に甘えてロックを除いて皆でおじゃました。
中に入ると、綺麗な花があちこちに飾ってあり、それを見回しながらテーブルに着くとイリーナがお茶を用意した。
全員が席に着いたところで仲間をそれぞれ紹介していった。イリーナは思った通り村長のようだ。エイロンは村民で今日は門の当番だったらしい。ちなみにこの村はソルトレイと言う名前だった。
お互いに紹介が終わった後、イリーナはお茶を啜ってから本題を話し始めた。
「この村は花が特産で“メーロ”と言う品種を育てて町へ卸しているの。でも最近、ジャイアントビーが花の蜜を吸いすぎて枯れてしまう被害が多くてね。困っていたところなのよ」
その後にエイロンが大げさな身振りで続けた。
「ちょっと前に村人総出でジャイアントビーを退治しに行ったら、逆襲されて逃げ帰ってきたんだ。あれは怖かった!」
「なるほどねぇ。それで冒険者を求めていたのね」
モルティットが組んだ手に顎を乗せて言うと、イリーナが頷く。
「そうなの。でもギルドに頼むほどのお金がなくてね。できれば貴方たちに頼みたいのだけど、虫が良すぎかしら?」
「ふふっ。ずいぶん安く見られたね、私達。どうなのナオ?」
なんとなく主導権を握っているモルティットが、流し目で聞いてきた。
「お、俺は受けていいと思ってる」
「ふー、やっぱりね。マクレイディアは?」
ため息をついて今度はマクレイに振ってきた。モルティットの考えが分からない…。
「アタシはナオについていくよ」
少し焦っているマクレイが答える。するとモルティットが睨んできた。なんで?
「ほら! 貴方たち、なに、そのお互いわかっている的な雰囲気!」
「ま、待ってモルティット! 交渉してたんじゃないの?」
慌てて止める。なんか話しがずれてきたぞ。モルティットが両手を出して詰め寄ってきた。
「するわけないよ! リーダーはナオだよ!」
「えぇ!? じゃあ、さっきのは何?」
「貴方たちの確認!」
モルティットの言葉に驚いたマクレイが反応した。
「どういうことだい? アタシ達は普通だよ!」
「全然違うよ! だいたいマクレイディアはいつもはぐらかす!」
今度はマクレイが標的になった。言われたマクレイの目は泳ぎまくっている。ダメだ。これ。
「ちょと、モルティット! 俺が好きなのはマクレイなの! 言ってるじゃん!」
「全然聞こえません! 聞こえても知りません!」
両耳を手で覆ってモルティットが言ってきた。マクレイの顔は真っ赤でさらに目が泳ぎまくっている。
「もウ!! いい加減にしてくだサい! 三人とモ、人前でみっともないデす!!」
フィアが両手を上げて怒ってきた。イリーナとエイロンは突然の事で目が点になっている。
ハッと気がついた俺達は顔が真っ赤になった。は、恥ずかしい…。フィアに揃って謝る。
「「「ごめんなさい」」」
「謝る相手が違いマす!」
フィアがまた怒った。速攻、俺達はイリーナ達に謝った。
「「「ごめんなさい」」」
イリーナとエイロンは正気に戻ると笑い始めた。腹かかえてるし。
うわぁーめちゃ恥ずかしい。なにこれ、罰ゲーム?




