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81 鉱山


 熱いが耐えられる所まで近づいて、その場に座った。

 フレイマンも上半身だけ出して、動く気配は無い。

「あのさ、寿命ってあとどのくらいなの?」

『そうだな、我は後四、五〇年程で塵となるだろうな』

 質問をすると答えてくれた。って、長っ! 思っていたよりも寿命が長い! 一年ぐらいかと思ってた…。

「えっと、一人で寂しいなら友達にならないか? 大きいやつなら紹介するよ?」

『ありがたい申し出だが、我は十分生きた。“契約者”なら分かるであろう、精霊の想いを』

「……」

 ぐっ、その通りだ。確かにフレイマンの精霊としての感情が流れてくる。だからって、それがいいとは思えない。


「で、でも、そんな寂しい事を言わないでさ、話し相手ぐらいにはなれるよ?」

『ハハハハ。今代の“契約者”は変わっているな。過去、何人もの契約者と会ったがお主が初めてだ。“話し相手”とはな』

 燃える頭が小刻みに揺れている。このまま心変わりしてもらえるかな?

「よく言われるよ。でも、初めて会ってすぐ別れるのも悲しいものだよフレイマン!」

『なるほど、心が揺れるな。だからこそ、いや、お主に終わらせて欲しい。我は最後に良い相手に巡り合えた』

「フレイマン……」

 説得はダメだった…。悲しいな。

『だが、そんな寂しがり屋の契約者に一つ委ねたいものがある。貰ってくれるか?』

「ああ、フレイマンが良ければね」

『ではこれを』

 そう言うとフレイマンを片手を伸ばし俺の近くに小さな石のようなものを置いた。立ち上がって恐る恐る石を触れてみると熱くはなかった。手に乗せよく見ると白い石に模様が彫ってある不思議な物だった。フレイマンが続けた。


『それは“生命の石”と呼ばれるものだ。適切な者に渡せて安心している。どうか大切にな』

「そんな良い人間じゃないよ? 俺は」

 石を(ふところ)にしまいながら答えると、またフレイマンは笑った。

『ハハハ。実際、大したものだ“契約者”よ。それではな…』

 そう言うとマグマの中へ戻って行った。フレイマン……。

 汗を(ぬぐ)って振り返り、宿泊している家へ重い足で歩き始めた。



 夜道を歩いている途中で人影が見えた。良く知っている赤紫色の(ともしび)が瞬いている。

「ナオ……」

 マクレイの元に行き抱きしめた。マクレイの両腕が体を包むと安心する。

「ダメだった。けど、覚悟はできた…」

「……そうかい」

 ギュッと力が入る。よく考えたら汗だくだった。臭くないかな? くだらない事を考えてたら、いきなり服を引っ張られマクレイから離された! 何?


「もう! いないと思ったら抜け駆けしてる!」

 怒っているモルティットが俺を抱き寄せる。

「いや、待て! 抜け駆けじゃないよね?」

 なんとか体を離して、俺がモルティットに言うと無視してマクレイに文句を言い始めた。えぇー?

「ほら、そうやって独り占めにする気なんだ!」

「そ、そんな気はないよ! モルティットだって毎日してるじゃないか?」

「それは、それ! これは、これ!」

 なんだか俺を置いて二人で言い合いが始まった。なんか、さっきの重苦しい感じが無くなった……。

 少し(あき)れて見ていたがまだ続いてるようなので二人をほっておいて先へ急ぐ。

 ロックに手を振って家へ戻るとフィアが待っていた。何も言わず抱きしめてから、ベッドに行った。すると頭からクルールが飛んで枕に降りた。あれ? ずっといたの君は?

 ベッドに寝るとクルールがなぜか頭を撫できた。お返しに頭を撫でて、二人で眠った。



 翌日、仲間達と共にフレイマンの元へ行く。

 フレイマンは既に人型になり待っていたようだ。周囲の気温が上がっているようで、暑くなってきた。

 俺達が近くに来ると、フレイマンが声をかけた。

『待っておったぞ。覚悟は決めたな?』

「あまり乗り気じゃないけどね」

『ありがとう。気に悩むな、我が望んだことだ。さ、始めてくれ』

 そう言うと、フレイマンは静かに(たたず)んだ。


 泣きたい気持ちをグッと堪え声を出す。

「…アクア、カエルム」

 するとフレイマンが水に包まれた。もの凄い勢いで水蒸気が溢れ、辺りは霧のように白くなっている。


 次々と冷たい水がフレイマンを冷ましていく……。

 やがてマグマも冷え固まり、フレイマンの炎が消えて黒い芯だけとなった。

 すると芯はサラサラと風に乗って宙にまっていった……。


「さようなら。フレイマン……」

 そう(つぶや)くと、肩に手を置かれた。

 振り返るとマクレイが微笑んで抱きしめてきた。

「ホントにすぐ泣くねぇ」

 すると、モルティットとフィアも抱きついてきた。

「いや、泣いてない。これは熱いから汗だ!」

「もウ。わかってまスよ」

 強がって言うとフィアが返す。

 しばらくそのままでいた。皆の気持ちが温かった……。



 それから村長の家に行き、マグマ溜まりが無くなった事を報告した。

 村長達は喜んで皆にお礼を言われ、報酬を出すと言われたが辞退し、この村を出る事にした。

「それではお気をつけて皆さん! ありがとう!」

 村長が手を振って見送っている。ロウンガとウルルも並んで笑顔で見送っていた。

 俺達はハイロの村に別れを告げ歩き出した。


 村から離れて気がついたが、導きはまだ先のようだ。と、先を見ると山々がそびえ立っていた。マジで?

 ちらりと横のマクレイを見ると顔を()らした。気がついていたな…。

 すると、フィアが手を握ってきた。

「がんばりましょウ。ナオヤさン!」

 励ましてくれた。が、体が拒否している。山にはろくなことが無い。

「ふふっ。あんまりダダこねてると、マクレイディアに怒られるよ!」

 ロックに抱かれて移動しているモルティットが後ろから声をかけてきた。毎回ずるいなぁ。羨ましい。


 想像通り、やがて山道に入り本格的な登山が始まった。キツイー。

 しばらく進んで野営することにした。

 夕食後、グッタリしていると、アーテルが出てきて一緒に散歩することになった。

 最近はたまにアーテルや他の精霊主が現れ散歩することが多くなり、マクレイ達も慣れたのか何も言わなくなった。


 ニコニコと横を歩くアーテルに疑問をぶつけてみる。

「アーテル。精霊主って生命を創造できるの?」

『あの子の事ね。正確には新しい生命では無いの。精霊達を集めて一つにしてるのよ。それが新しい姿に変わるだけ』

「そうなんだ。でも、どうして造ったんだろう?」

『さあ? 本人が望んだからかもしれません。きっと寂しかったのかも』

「そうか…」

 思案しているとアーテルが俺の手をとった。

『フフ。私たちは寂しくないですよナオヤさん。貴方のお仲間同様に、ね』

「ありがとうアーテル」

 手をつなぎ、周辺を散歩する。クルールは肩に乗ってハミングしている。

 精霊主と一緒の時は不思議と魔物には襲われなかった。



 翌日も山歩きだ。朝からもうグッタリ。俺以外は皆、涼しい顔で歩いている。

 一山越えた辺りで先をみると人工的な物がかすかに見える。マクレイも気がついたようで、

「この辺は鉱山かもね。ひょっとして、噂に聞くドワーフの町かも知れないねぇ」

「あ、ドワーフっているんだ!」

 おお! 知ってるぞ、ファンタジーの定番だ。なんか会えるとなるとワクワクしてきた。

「あら? ナオは知ってるの?」

 モルティットが聞いてきた。

「実際には会った事ないけど、絵を見たことがあるよ」

「ワタシも図鑑で見ましタが会えると思うとワクワクしマす!」

 俺の返事に続いてフィアも言ってきた。しかも同じ感想。

 目的が決まり好奇心から足取りも軽くなる…気持ちで歩く。

 しかし、体は重い…。苦笑いしているマクレイ達を尻目になんとか先頭を歩いてく。


 何度か休憩を(はさ)みながら移動して、ようやく町の外壁が見えてきた。

 山の中腹を切り崩しながら作っているような印象だ。天然の岩でできた壁がぐるりと町を囲んでいる。

 分厚そうな扉も岩を削って造られたようで、とても重そうだ。


 山を登りながら近づいていくと、重武装をした門番が立っていた。

 なかなか入るには大変かもしれない。



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