8 転移者
導きに従い、湖を後にして森へ入っていく。
シェルエイプとか言う凶暴な猿の魔物がいたが主にロックが撃退して進む。
そうして歩み続け、森に囲まれた草原へ出てきた。
しばらく進むと少し先に複数の人影を発見するとソイルが四人と教えてくれる。なんでも地面に伝わる振動でわかるそうだ。マクレイは警戒を強めているが、大丈夫だろう。もし、盗賊なんかだったら、大っぴらに出てこないよね?
やがて向こうも気がついたらしく、こちらに向かって来る。相手の姿が見えるようになると、魔法使いらしきローブを羽織った者、メイスのような短い錫杖を持った薄い衣を着た女性、やたら露出が高いダンサーみたいな服を着た女性と、まるで勇者みたいな輝く鎧に身を包んだ男性が近づいてきた。たぶん魔法使いも女性だな…。なにこれ? ハーレムってやつ?
とりあえず敵意はないので近くに来ると手を挙げて挨拶をしてみる。
「こんにちはー!」
隣にいたマクレイが額に手を当てている…。え!? 対応間違えた?
「やあ! 君たちは冒険者かな? 僕たちは御覧の通り旅の途中さ!」
相手も手を振って答える。よくみたら勇者はイケメンだった。こりゃモテるわ。
「あ、そうですか。それでは失礼します」
余り関わりたくないので敬語でやり過ごす。マクレイは終始無言だ。
だが、相手は前に立ちふさがって両手を前に振ってきた。
「ハハハ! そう警戒しないでくれ。僕たちは敵意はないよ。それに少し尋ねたいことがあるんだけどいいかい?」
「その前にどなたですか?」
「ああ失礼。僕はウエスギ・カイト。後ろの三人はミリー、アマンダ、ナンシー」
「俺はナオヤ。ゴツイのがロック、美人さんはマクレイ」
痛て! 怒ったマクレイに小突かれた。しかし、カイトの連れはみんな小柄でカワイイ…。
カイトは苦笑いで続ける。
「よろしく、ナオヤ! 実はこの近くにある湖を探しているんだけど、わかるかい?」
「ああ、それならこの先をしばらく行けば着くよ」
「なるほど! ありがとう。助かったよ! あまり長居できないものでね」
なんて爽やかな応対。これがモテる男の秘訣か? にしても、後ろの女の子達がマクレイを見てヒソヒソしてるぞ。ガン飛ばして睨まないでください、うちの美人さん。と、カイトがにこやかに質問してきた。
「ところで、ナオヤは魔獣使いか錬金術師かな? ゴーレムを連れてるなんて珍しいね」
「え? あー、そんなところかなぁ……」
「少しいいかな? 二人で話をしたいんだけど?」
カイトの言葉にチラリとマクレイとロックを見る。マクレイがシッ! シッ! って、犬か!
「わかった…」
答えるとカイトと連れだって少し離れた場所に移動した。
遠くで三人娘とマクレイが無言で対峙している。互いに目で戦ってるな…。怖っ。
カイトはちらりと後ろを見てから話しはじめた。
「すまなかったね。ちょっと確認したい事があって」
「何っすか?」
「ナオヤは“転移者”かな?」
「そうっすね。“転移者”っす」
「あ! そうなんだやっぱり! 実は僕も“転移者”なんだ」
「名前聞いた時から思ってたけど!?」
もうダメだ。素に戻る。無理して使い慣れない言葉を話すんじゃなかった。
爽やかに経緯をカイトは説明した。
「僕はこの世界に来て一年程になるよ。今、東の小国で勇者をやってるんだ」
マジで勇者なんだ。さすがイケメン。って事は魔王とかもいるんかね?
「俺は一か月少し前ぐらいかな? 縁あって今の仲間といる感じかな?」
「最近だね。でもナオヤからは魔力を感じないんだよね。だから魔獣使いや錬金術師かと思ったんだ」
「あー、そうみたい。俺って魔力無いみたい。ところで、“転移者”って何かしら特殊能力とかあんの?」
「そうか! 来たばっかりだから知らないんだね。この世界では生まれつき特殊な能力を持つ者が少なからずいるんだ。だけど、それが適正に発揮できるの者はごくわずかなんだよ。“転移者”にも同じ事が言えるけど、ただ、転移してきた人はこの世界の人より能力が並外れて強く出る傾向があるんだ。僕も“鑑定”と呼ばれる鑑識眼と素早く動ける能力を持っていて、ナオヤを鑑定したら特殊な能力を持ってなさそうだから不思議でね。しかも、こんな辺境にいるしね」
ペラペラと流ちょうにカイトが説明する。わかりやすい。さすが勇者。
「ここって辺境だったんだ…。って、俺に能力を喋っていいの?」
「ああ。鑑定でもわかってるけど、キミは敵対者じゃないしね。それにできれば仲間にならないか?」
「ムリ!」
「即答!? そうか残念。ナオヤの仲間はずいぶん強いようだしね。いれば心強いんだけど。しょうがないか」
気落ちした顔つきになったカイトだが、すぐに爽やかスマイルに戻る。
「そっちだって、可愛い子が三人もいるんだから十分だろ!」
「ハハハ! 確かに彼女達はカワイイね。しかも強いよ」
「ならいいじゃん!」
キー! 爽やかイケメンめ! これ以上女性を増やしてなるものか! 同郷だからって…羨ましすぎる!
その後、仲間と合流しお互いの道についた。
別れる際にカイトが爽やかに手を振って声を出す。
「また会おう! その時はいい返事を待ってるよ!」
「ああ、またな! 返事は変わらないぞ!!」
「ところで、何を話していたんだい?」
勇者と離れて見えなくなった所でマクレイが聞いてきた。
「んー。彼が“転移者”で勇者なんだって。あと、マクレイとロックが欲しいって言ってた」
「なんだと!! ふざけんじゃないよ! 速攻断ったんだろうね!!」
おおー。怒ってるなー。ちょっとからかうか。
「実はあの女の子三人と交換って話もあって、悩んだけど断った」
「なんで悩むんだよ! ナオは小さくてカワイイ娘が好きなのかい?」
不思議そうにマクレイが聞いてくる。
「いや。好きだよ。かわいいし」
「? じゃあ、なんで交換しなかったんだ?」
「そりゃ、目の前の美人さんがいいに決まってんじゃない?」
「なっ…! む…!」
フフフ…面白い。マクレイの耳が赤くなってピクピクしてるし、動揺してるな。
「なんだ? そのニヤケ面は! あっ! 嘘だな!」
バレた。怒りのマクレイが素早く動く。
痛っ! アイアンクローするな! あ、握力すげー。頭割れそー!
「ごめんなさい。このままだと頭がつぶれます。助けてクダサイ」
「へぇ~。何か言ってるよこの男は」
「マクレイ様。すみませんでした!」
「ホント、ナオはどうしょうもないねぇ」
解放された後は、いつも以上に負荷を掛けられて歩かされた。容赦なしだ。自業自得だけど。
さらに草原から森を抜けた先には荒野のような石と乾いた土のあるゴツゴツした土地に変化していた。
導きの感覚はこの荒野の先にあるようなので、進む事にする。
野営する時はソイルに低い土壁で周りを囲って中心に火を起こし、薪をくべて寝た。ロックにはいつも通り見張りをお願いした。しかし、ロックが寝てるところは見たことがない。不思議だ。精霊ってそんなものなのかな? 〈優しいですね〉
荒野を進んで幾日。
魔物もなく、植物もなくただ、ひたすら進む。
だんだん食料が心もとなくなってきた。水はアクアのおかげで足りているので安心だが、このままではマズイ。ソイルの地面の振動を利用したレーダーにも何も引っかからなかった。
ぐったりしながら隣を歩くマクレイを見る。
「なぁ、マクレイ…」
「なんだい? 何か発見したかい?」
少し疲れたような赤紫色の瞳が俺を見つめる。
「いや、何もないけど、マクレイは大丈夫か?」
「アタシの心配より自分の心配しな! この中で一番弱っちいのはナオだからね」
「それを言われると辛い……」
「ま、無理しないでさ。いざとなったら背負っていくよ」
と、俺の頭をクシャクシャにした。なにこの美人さんは……。
「ありがと…」
「あ!? またか!すぐ泣くねぇ」
「うるふぁい!」
もう、優しくされると泣くっつーの。泣き虫なめんな!
そうこう歩いていくと大岩に寄り添った二階建ての家を遠くに発見した。
嬉しそうにマクレイが指をさし言ってくる。
「ナオ! あそこで泊めてもらえないかな?」
「偶然だな! 俺も同じ事考えてた」
「ヴ」
全員賛成のようだ。
とりあえず行ってみよう!




