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78 漁村と港町

 

 落ち着いたところで物知りなフィアに“妖精の羽”の説明してもらった。

「ワタシも書物でしか知りませンが、ソレは昔、妖精王が妃を助けるために妖精の羽の粉を集めたもノで、死神の世界から妃に羽を与えてこの世界へ飛び立つ為のものと記されていまシた」

「へぇ~、空が飛べるんだー。いいね! クルールみたいにフワフワしたいな!」

「「違う!!」」

 フィアの説明を聞き感想を述べると、ものすごい勢いでモルティットとリンディに否定された…。


「あああああっ! こんな人族が好きだなんて!」

 またリンディが頭を抱えてる。なんか俺の評価が(ひど)くなってる。

「なんだと! ナオが“こんな”だと!」「そう! 今のはないよ!」

 マクレイとモルティットが怒り始めた。ああ、カオスだ…。

 騒いでる三人をよそに、そっと離れた。

 爽やかな晴天の下、気持ちがいい中庭の芝生に座る。フィアとクルールも来て、騒ぎが収まるまで一緒に日向ぼっこをしていた。


 しばらくして騒ぎが収まり、出発することになった。

 町外れの塀にある小さな門を出るとロックが待っていた。いつの間に移動していたんだロック……。

「それじゃ、気をつけてね。特にナオヤ。そしてペンダント」

 リンディが見送りに来たが、どうやら妖精王に貰ったペンダントの方が大切らしい。

「ありがとう。よくわからなけど気をつけるよ」

 苦笑いのリンディに別れを告げ、出発した。



 森林を抜けると、岩場の多い平野に出た。そこを抜けさらに移動する。

 やがて海の見えるところまで来た。

 クルールは今、俺の肩に乗りハミングをしている。楽しそうだな。

 今は海を目指し向かっている。

 最近は文字も大体覚えてきたので、文章を作ったり、計算したりしている。もちろん先生はフィアだ。

 クルールも一緒に勉強している。とても頭が良く、フィアの説明もすぐ飲み込んだ。その才能、俺にも分けて欲しい…。


 何日か野宿した後、海岸へたどり着く。

 マクレイは怪訝(けげん)な顔をして聞いてきた。

「また、海の中じゃないだろうね?」

「あら? 海の中も行ったの? いいねぇ」

 モルティットが羨ましそうに言ったが、マクレイと俺が苦笑いしてるのを不思議そうに見ていた。

 とりあえず目的地について説明する。

「もっと遠くからだから、陸地だよ。夢でも海は出なかったよ」

「だとすると、海を渡らないと…」

「なら、港を探しましょ」

 マクレイとモルティットがそれぞれ続けた。フィアは(うなず)いている。

 そんなわけで海岸沿いに歩いて港を探すことにした。


 しばらく進んで行くと、漁村らしきものが見えてきた。

 近づくと、魔人の漁師が一人でせっせと網を補修しているところだった。

「こんにちはー」

 声をかけてみると漁師は俺達を見てビックリしている。

「な、なんだぁ? 人族とエルフ族か?」

「そうです。人族とエルフ族です」

「どうしてこんな田舎に。俺を襲っても何も出ないぞ!」

 補修している網を体に引き寄せ、警戒している。

「違います! 襲いませんから! 少し聞きたい事があって」

「本当か? なら、いいけどよ」

 ちょっと警戒が緩んだようだ。ホッとした。

「あの、向こうの大陸に渡りたいんですけど、近くに港町ってありますかね?」

「あ? ああ、大陸に渡りたいのか! それだったら、ここから北にず~っと行けば大きな港があるよ」

 なんか、含みのある言い方だな。しかし、検証しようもない。愛想笑いでお礼を言う。

「ありがとう、助かったよ! どうぞお仕事を続けて! じゃあ、さようなら!」

 何か言いたそうな仲間を急かして漁村から離れた。



 漁師の言っていたように、確かにず~っといった所に港町が見えてきた。いや、間違ってないけれど。

「意外に遠かった。もう、休みたい」

「もう少しだから、頑張りなよ!」

 マクレイが背中を押してきた。前もしたよね?

「頑張ってくだサい」

 フィアも横で励ます。クルールは俺の前をヒラヒラ飛んでいる。ああ、羽が欲しい。

 冷たい海風が吹いてきた。寒い季節が巡ってくるのだろうか。この世界の冬ってどうなんだろ? 過ごしやすいといいな。


 やがて港町の入り口に着いた。早く暖かい所に行きたい。

「さ、港に行こう!」

 ロックから降りたモルティットが張り切って先に進む。港のギルドに行き対岸行きの船を調べると、定期便があるようで早速予約をした。

 行先は獣人の国にある港町のようだ。おぉー! 獣人はチラホラ見たことはあるけど、国に行くのは初めてでワクワクする!


 出港は明日なので少し街を見学した後、近場の宿屋に泊る事にした。夕食は酒場で済ませて早々と宿の部屋へ戻る。

 部屋でクルールと遊んだ後、用を足しに宿屋の共同トイレに向かうと偶然、モルティットと鉢合わせた。

「あら? 偶然! それともワザと?」

「違うって、偶然だよ」

 めちゃイイ笑顔で来る。あ、そうだ! ついでで良かった。その前に確認しておく。

「モルティット、絶対、勘違いしないでね?」

「なに? なんで?」

 間違いなく勘違いしそうな顔で聞いてきた。

「いいか。これはあくまでも仲間へのお礼っていうか、目印的な物だから」

 そう言って、ポケットから包みをモルティットに渡す。ああ、キラキラした目で見ないで! 勘違いしてるでしょ?

「ふふっ。嬉しい! どれどれ、あら? ペンダントね」

 買った場所が違うから、マクレイとフィアとは違う装飾が施してある白色のペンダント。モルティットは、めちゃ嬉しそうに手に取って眺めている。

「ありがとう、ナオ! さ、着けて!」

 ペンダントを俺に預け、白い髪をかき上げる。う、うなじだ…。色っぽい。

 ドキドキしながら首に着ける。と、モルティットが抱きしめてきた。

「ちょっと! モルティット!」

「嬉しい! やっぱり私だから?」

「ほら! 勘違いしてる! だから違うって!」

 無理やり引きはがそうとするが、なかなか離れない。ああ、やめとけば良かった…。


 と、後ろの方から声がかかった。

「おたくら、この狭いところで何やってんだよ! イチャつくなら外でやれ!」

 振り返ると狼顔の獣人がいた。無理やりモルティットを振りほどく。

「あ、ゴメン! 違うから! 彼女とは何もないから!」

「……何で俺に言い訳するんだ?」

 (あき)れ顔の狼の獣人が頭をかいている。意外に良い人?


「もう! じゃましないで!」

 モルティットが何故か怒っている。これはあれだ、逃げよう!

「そ、そうだ! トイレだろ? 俺もなんだ! さ、行こう!」

「え? は? えええ?」

 無理やり狼の獣人を引っ張り、モルティットを置いてトイレに直行した。


「はぁ~、助かった……」

 (せま)いトイレで(ひたい)の汗を(ぬぐ)う。狼の獣人は苦笑いして、

「何があったが知らねえけど、あんまり女にプレゼントなんかすんなよ」

「そうなんだけど、一応、仲間の証みたいな物だからさ」

「ハン! そういうのが勘違いされんだよ!」

「ともかく、助かったよ! ありがとう!」

 手を差し出すと相手も握ってきた。

「俺はナオヤ。君は?」

「ハハッ! 俺より若そうだけどな。ブルオだ」

 ブルオの手はフサフサで気持ち良かった。ああ、暖かそう。


 それから少し雑談がてら獣人の国について聞いた。様々な種族の獣人がいて、余り人族やエルフ族はいないようだ。取引で人族や魔人族などの商人はいるそうなので、人族に対して恐れとかは無いそうだ。

 大体の情報を仕入れ、ブルオと別れてトイレを後にした。

 モルティットがいない事を確認して部屋へ戻ると膨れたクルールがいた。寂しかったらしい。謝り倒し、なんとかご機嫌を直してもらい、ベッドで寝た。


 翌日、船着き場に行き目的の船に乗船する。

 モルティットが嬉しそうで、チラチラ胸元に輝いているペンダントをアピールしてる。理由はわかるけど知らないふりをしたが、マクレイに(にら)まれ腕をつねられた。ロックは邪魔にならない甲板の場所で待機することになった。

 それから、船室に行き無理やりマクレイを寝かせた。何故か俺を威嚇(いかく)している。


 上の方で船員がドタドタと船を走り回る音がする。さらに船長が声を上げるのが聞こえ、船がぐらりと揺れた。

 いよいよ出港だ!



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