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74 ジロット村

 

 夕食後、これからの事を話し合った。

「この村のことはほっとけないね。このままだと、いざこざの種になる」

 リンディが言ってきた。モルティットがリンディを見つめ聞いてくる。

「あなた、どういう立場なのかな? 王の関係者よね?」

「それが?」

 ふてぶてしくリンディが答える。ああ、あれか!

「リンディってスパイ的な人なんだ? カッコイイじゃん!」

 思わず言ったら全員に(にら)まれた。あれ?

「この男はほっといていいよ。先を続けて」

 マクレイが俺の腕をつねりながら(うなが)す。痛いって。


「は~。あんたらといると頭が軽くなるよ。ま、あながちスパイは間違ってないけどね。明日、隣村に行って確認してみるつもり。あたしはここで問題を解決するよ」

「ナオは?」

 リンディの言葉を受けてマクレイが聞いてきた。目が付き合うなと言っている。そんな(にら)まないで!

「えーと、せっかくだから付き合うよ」

「そう言うと思った」

 俺が答えるとモルティットが微笑んで言ってきた。リンディは苦笑いしてる。

「そ。じゃ、明日もよろしくね! モテモテ君!」

 嫌みを言ってリンディが締めた。く~、反論しにくい。マクレイが(にら)んで腕を再びつねった。



 翌日、村長に説明してオレーフ村を出る。今回は何かあるかわからないので村にロックを残してきた。

 少し冷たい風が吹く晴天の中、リンディが先導してついていった。クルールはマクレイの胸元から出る気配が無い。寒さに弱いのかな?


 一刻ほど歩くと、隣の村が見えてきた。なるほど、近いな。

 村に入って行くと、後ろから声が聞こえた。

「あ! なんだお前ら! 何しに来たんだ?」

 皆、振り返るとベルドをいたぶっていた魔人三人組がいた。マクレイを見て少しビビっているようだ。

「なにか問題あるのかい?」

 リンディが(すご)んで聞いた。こちらの女性三人が(にら)んでいて相手はたじろいている。

「じ、ジロット村に勝手に来るんじゃねぇよ!」

 一番のデカイ男が強がって言っている。リンディはプイっと無視して進み始めた。ああ、どうして俺の周りの女性ってこんな感じなの? そして、俺が納めようと話しかける。

「あのさ、あまり騒ぐと村が無くなっちゃうよ?」

「は? なに言ってんだ! たかだか女風情がそんなことできるわけないだろ!」

 デカイ男が大声で言っているが、こちらに近づく気配が無い。怖いのか…。


 俺も無視してリンディ達の後を追った。リンディ達はどうやら村長の家へ向かっているようだ。

 追いかけて行くと、すでに村長に何か聞いていた。だが、あまり(かんば)しくないように見える。到着する頃には終わっていた。

「じゃあ戻るよ」

 リンディがそう言い、村を出て行く。例の三人組がまだいたが、何も言わず黙って俺達を見送っていた。


 帰り道、マクレイに聞いてみた。

「なにかわかったの?」

「全然だよ。“わしゃ知らん”って」

「へー」

「興味無さそうだねぇ。なんで手伝ってるの?」

「そ、そんな事ない! あー、また魔獣に会いたいなー」

 何故か見透かされてる…。マクレイは苦笑いしている。

 村が見えなくなった辺りでリンディが立ち止まった。

「あたしはここから別行動だから。先に帰ってて」

 そう言うと近くの茂みに入って行った。トイレかな? いや、さすがに違うだろ、俺。


 それから俺達はオレーフ村に戻り村長に隣村の事を話し、それと昨夜の魔獣の事も伝えた。

「なんと! 話せるんですかい、あの魔獣は! 知らなんだ」

 村長は驚いている。そのことについて提案をしてみる。

「ところで、魔獣がビユの実を食い荒してしまわないように、専用の畑を作ってみては?」

「なるほど! そうすれば食い荒らされてないか調べなくてもいいって事ですな! さすが外様だ!」

 村長が関心している。そこでフィアが村長に聞いてきた。

「いつモは、どのくらい食べられているのでスか?」

「そうだな~。たいがいは畑になっている実を一列ぐらいは食べてるかもしれん…」

「わかりまシた。それデは、畑に行って区分けしましょウ」

 早速、皆で畑に行ってみた。


 畑に行くと、魔人の女性が下を向いて雑草を取っているのが見えた。

「お~、ニメラさん! 精が出ますな!」

 村長が声をかけるとニメラさんと呼ばれた女性は顔を上げて微笑んでいる。

「ポンブロさん! 今日もお元気ですね! 後ろの方はどなたですか?」

「ああ、客人じゃ。昨日からおるよ。なんでも、騒動を止めたいと言っておって助けてくれるそうだ」

「あらー。それは良かった。皆さん初めまして!」

 ニメラが挨拶してきたので、俺達も挨拶を返す。


 それから広い畑を横断して隅に移動した。

「それデは、この辺りでいいでしょウか?」

 フィアが村長に確認してきた。

「ああ、大丈夫じゃ。それにしてもここまでしてもらわんでもいいけどな?」

「いエ。思ったが吉日デす」

 村長が頭をかいて言うと、フィアが当然のように返して作業にかかった。

 フィアが距離を測り、俺がそこに印をつけ、マクレイが丸太を突き刺し、モルティットがロープを巻いた。

 何も言わず役割分担をこなし、魔獣の畑スペースが確保された。それでも結構な広さだ。こんだけ食べるの?

「数回に分けて食べれるような広さを確保しまシた。ある程度、無くなったら苗を埋めてくだサい」

 フィアが村長に説明した。なるほど、さすがだ。

「ほー、なるほど。フィアさんは賢いな~」

 村長も関心している。

 と、そこにソイルが教えてくれたので畑の外側を見ると、遠くで魔獣ウードロが座ってこちらを(うかが)っているようだ。


「ウードロ! ちょっといいー?」

 口に手を当てて魔獣を呼んでみる。

 ウードロは立ち上がって軽い足取りでこちらに来た。

 村長と作業していたニメラはビビっている。ウードロが近づいて文句を言い始めた。

『なんでそう馴れ馴れしいんだ、お前は!』

「でも来たじゃん」

『む。まあ、な』

「それでさ。このロープが張ってある部分はわかる?」

 畑に立てた杭からロープが四隅に張られている区間を指し示す。

『そんなの見ればわかる』

 ウードロは一瞥(いちべつ)して答えた。

「これから、ここがウードロの畑になるから」

『は? 何言ってるんだ。俺は好きな所から食うぞ』

「頼むよウードロ。このロープ内の畑のビユの実なら好きだけ食べても、誰も文句言わないよ」

『なに? それは本当か!』

 ウードロは村長を見て言うと、村長は恐る恐る答えた。

「は、はいっ! どうぞお好きにしてくだせい。無くなったらまた植えますんで」

 すると魔獣は納得したのか尻尾を振り始めた。

「良かったね!」

『ふん。それぐらいで、いい気になるな!』

 と言いながら尻尾はパタパタしてる。体は正直だなぁ。マクレイとモルティットは苦笑いしていた。

「あと、あんまり他の畑で悪さしたら、精霊が追い出すから」

『なんと! むむ。分かった。精霊使いは敵に回せん』

「ありがとう。ウードロ」

『なら、もう食べていいんだな?』

「どうぞ」

 そう言うと、ウードロはロープの張った畑に入り、ビユの実を齧りはじめた。食いしん坊だなぁ。


「はー。(すご)いもんだ。あんな大きな魔獣が大人しく従うなんて…」

 村長は関心している。そんなに恐ろしい魔獣なのかな? 不思議だ。

「ちゃンと、管理してくださイね」

 フィアが村長にクギを刺している。

「もちろんですじゃ。ありがとうフィアさん。皆さん」

 村長が(いか)つい体でお礼をしてきた。あ、今の内にしとかないと。


「ソイル」

『はい。ナオヤ』

 ソイルを呼ぶとフッと出てきた。微笑んでる所を見ると俺の考えが分かっているようだ。

「すまないけど、精霊にこの畑を見守ってもらえないかな?」

『もう呼んでおります。彼らもこの畑が気に入ったようですね』

「ありがとう。いつも無理なお願いばかりでゴメンね」

『いいえ、私は使われるのが嬉しいのです。“契約者”よ』

 ソイルは村長に向き、

『この村の畑には土の精霊が住んでおります。なにかあれば手助けをするでしょう』

 そう言うと姿が消えていった。村長は大口を開けて驚いている。

「はあ~。(すご)い! 精霊使い様とはビックリだ!」

 そう言うと俺の手を握ってきた。手がめちゃデカイ!

「ありがとう! 何もできないけど、助かっただ!」

「泊めてもらったお礼ですよ。村長」

「いや~。人族やエルフ族を泊めて良かっただ! ワッハハハ!」

 村長の嬉しそうな笑い声が村に響く。


 こちらをずっと見ていたニメラは一連の出来事に驚いて固まっていた。



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