表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/116

73 オレーフ村

 

 少し冷たい風が顔をなでて通り過ぎていく。

 クルールは寒いのかマクレイの胸元にいる。確かに暖かそうだ。俺もそこに行きたい。胸元のクルールを見ていたらマクレイに(にら)まれた。怖っ!


 導く先へ移動して一日たった昼下がり、進んでいくと前方でなにやら争っているようだ。

 近づくと魔人の大男三人が若い魔人の一人をいたぶっているようだ。

 横にいたマクレイをちらりと見ると俺を見てため息をついたが、

「おい! 何やってんだ!?」

 大声で怒鳴った。すると大男三人の動きがピタリと止まった。


「あんだと! 今、怒鳴ったやつはどいつだ!」

 三人の中でも一番デカイ男が怒鳴り返す。

「アタシだよ! なんか文句でもあんの?」

 マクレイが返答してズカズカ近づく。デカイ男は凄んで残りの二人もガン見して威嚇(いかく)している。

「は? エルフ女のくせに生意気だなっつばあああああぁぁぁ!」

 相手が言いかけているのにマクレイが平気で殴り始める。

 デカイ男は二発で地面に沈み、さらにマクレイが足蹴にしだす。慌てて二人が止めようとするが、あえなくマクレイの鉄拳の前に沈んだ。仲間は皆、苦笑いで見ている。なんで、いつも手が早いの? この美人さん。


 満足したマクレイが振り返った。

「これでいいだろ?」

「いや、間違ってないけど少し違うよマクレイ…」

 しょうがないので、いたぶられていた一人の元へ行く。あちこち痣だらけになって、青い肌がどす黒い紫色になっていた。

「だ、大丈夫?」

 声をかけると、茫然(ぼうぜん)としていたのか我に返って返事した。

「え!? はい! 大丈夫!」

 そこにリンディが出てきた。

「あんたこの近くの村の者かい? 何があったんだい?」

「え!? あ、はい! そこの村に住んでます。そこを歩いていたら、いきなり襲われて…」

 なんともバツの悪そうな返答だ。何か訳でもあるのだろうか?

 とりあえず全員を紹介して村まで案内してもらうことになった。

 助けた魔人はベルドと名乗り、村への道を進む。



 なんとも農村チックで懐かしい風景な村が見えてきた。

 あー、ほのぼのする。フィアはここでも興味津々でキョロキョロしている。

 リンディはベルドの横で話しを聞いている。横にいるマクレイは胸元のクルールを見てニヤニヤしていた。ふと後ろを見るとモルティットが俺を(にら)んでいた。昨日から怖い! 何もしていないのに。


「ここがそうです。オレーフ村です」

 ベルドがそう言って村の中へ案内する。

 村は開けっ広げで柵などの囲いもないのどかな感じだ。木材で出来た質素な家が立ち並んでいる。商売をしているような所が無いようなので自給自足かも知れない。

 奥に入って行き、ある家の前で止まった。

「ここは村長の家です。少々お待ちください」

 そう言うとベルドは家の中へ入って行った。ふと疑問に思ってリンディに聞いてみる。

「リンディ、何かあるの?」

「そうね。ちょっとね」

 少し困った顔をして答える。何? マクレイを見ると片眉を上げていた。フィアは家を観察しているようだ。モルティットはロックから降りてこちらに来た。

 しばらくしてベルドが出てきて俺達を家の中へ通す。


 玄関を入ってすぐが居間のようで、大きなテーブルがあり横に大柄な(いか)ついおっさんがいた。

「ようこそ。私は村長のポンブロです。何もないですがお掛けくだされ」

 そう言って村長が挨拶してきた。体格の割には優しい言い回しだ。俺達も自己紹介して席に着くとリンディが口を開いた。

「それで、どうしてこんな事になってるんだい?」

「それが良くわからんのです。近頃、急に隣の村の者が手を出し始めて…」

 村長が申し訳なさそうに言った。

「ふ~ん。でも目的があるはずだよ。他に心当たりはないのかい?」

 リンディが追い打ちをかけてる。って、なんか知らない内に話しが進んでるけど、なんの事なの?

「うーん、そうだなぁ~。あ! ずっと昔から魔獣がよく畑を荒らすけんど、そんなに被害はないから関係ないかの~」

 村長が(いか)つい顔を横に向け思い当たりを考えてる。なんか面白い。横のマクレイを見ると目を()らした。なぜ? 胸元のクルールは吹き出していた。ずるいぞ。


「そうね。魔獣は関係ないかもね。ん~、とりあえず周りを見てみるかな?」

 そう言うとリンディが俺を見た。え? 付き合わせる気満々だね。これは。

「わ、わかった。じゃ、皆で見ようか」

 席を立つと誰も立ち上がらなかった…。マジで?

 悲しい顔してマクレイを見ると震えて下を向いていた。ヒドイ。リンディは手を口に当てて笑いをこらえている。モルティットは何故か期待の目で俺を見てるし、フィアは家のあちこちを見てた。

「あー、もう! わかったよ!」

 マクレイが立ち上がり、俺の背中を押して外に出る。すると仲間と村長達がゾロゾロ出てきた。今更ヒドイ!


「とりあえず村を一周してみますかな」

 そう言って村長がベルドを(ともな)って先へ歩き始める。その後を俺達も追って歩いた。

 村はこじんまりとしていたが、畑は立派で広々と作られて順調な様子が見てとれる。村長は畑を指さし説明した。

「この畑のほとんどはビユを栽培しておるでな。他は野菜ですな」

 それを聞いたリンディは声を上げる。

「え! あのビユの実ってここで採れたの! なるほどね~!」

 全然わからん。フィアを見ると説明してくれた。

「ビユの実はとても貴重な果実でス。とても高値で取引されていルと、本に書いてありまシた」

「へぇ~。フィアって博学だね」

 お礼にフィアの手を握る。と、リンディが少し興奮しながら補足してくれた。

「魔人には人気があるんだよ。あたしも何回かぐらいしか食べたことないけどホント美味いんだよ!」

「へぇー。リンディって食いしん坊だね」

 お礼にリンディに小突かれた。痛い…。

「ま、確かにこれだけ畑が広いと魔獣に少し食べられたところで、大丈夫そうだねぇ」

 気を取り直したリンディが感想を述べる。

「そもそも何で、あんたが首を突っ込んでるんだい? このお人好しならわかるけど」

 マクレイがリンディに聞いてきた。そんなに俺はお人好しじゃないよ?

「フフ。気になる? 後でね」

 リンディがウインクして答えた。ぶ然としてるマクレイ。

 畑を見た後は、村を一周したが特に不審な物もなく村長の家へ一旦戻った。


 夕暮れ過ぎなのでベルドは自分の家へ戻り、俺達は村長の家に泊まる事になった。

 フィアとマクレイが台所に立ち料理を作っていて、俺を含め他の人はテーブルで待っている。ロックは外で待機中だ。

「リンディはどうしたいの?」

 食事を待ってる間にリンディにそれまで疑問だったことを聞いてみる。

「うーん。そうだねぇ。いざこざは辞めて欲しいってところかな?」

「ふふっ。何かありそうねー」

 リンディが答え、モルティットが突っ込みを入れた。

「フン。教えないよ!」

「あら? ホント?」

 モルティットは何か気がついているようだ。その(するど)さが欲しい。俺には全然わからん。


「ところで村長さんはお一人なんですか?」

 村長に話題を振ってみた。

「そうですな。残念な事に出会いが無くて……」

 すまなそうに村長が答える。

「ゴメン。変な事聞いて」

「いや、いや、こうして人族やエルフ族の方々に会えるなんて、なかなか無えことですから。それだけでも生きてて良かった」

 重い……。聞いた俺がダメだった。隣のモルティットに笑顔で腕をつねられた。でも、外見と違って良い人だなぁ、村長って。

 と、どこかで遠吠えが聞こえた。村長がなんの事もないように説明する。

「お、噂をすればじゃ。これは魔獣の遠吠えだ」

「マジで! ちょっと見てくる!」

 好奇心に押され立ち上がると遠吠えのする方へ家を出て駆け足で見に行った。


 丁度、昼に見た畑の奥で巨大な四足の影があった。説明を聞いた時は犬ぐらいかと思ったが、全然違うな。

 四足の影は畑に生えているビユの実を食べているようだ。そもそもビユの実って見たこと無かった。

 もう少し近づくと、こちらに気がついたのか顔を向けて警戒している。よし! 最初が肝心だ!


「こんばんはー!」

 ビックリしない程度な声で挨拶した。と、後ろから小突かれた。振り向くと怒りのリンディがそこにいた。

「なに挨拶してるの! わかるわけ……」

『なんだ!? お前らは?』

 向こうから声がするとリンディは言いかけて固まった。とりあえず話しかける。

「俺はナオヤです。あなたは?」

『……ウードロ』

 そう言って魔獣が近くに来た。でかい! 外見はジャッカルみたいで頭から尻尾までふさふさの鬣が一本通っていた。

「ビユの実が好きなんですか?」

『……好物だ』

「村の魔人に迷惑かけてませんか?」

『……知らん』

「仲間はいるの?」

『……いない』

 なぜか一問一答。そこで復活したリンディが口を(はさ)む。

「あなた言葉を話せるの?」

『ああ、他の奴はしらんが俺は(しゃべ)れるぞ』

「隣村の魔人を見なかった?」

『この村の奴じゃないのは見たな』


 リンディと魔獣ウードロが話している内に、すぐ隣まで近づいた。さ、さわりたい!

『小僧! 俺に触れたら噛みつくぞ!』

「なんでわかった!?」

「ナオヤ…わたしでもわかるよ」

 ウードロに言われ、(あき)れたリンディにもバレてた。ウードロは軽い足取りで身を(ひるがえ)し、畑の先まで駆けていき振り返ると、

『変な精霊使いだな!』

 俺に言ってきた。

「また会っていいかな?」

『好きにしろ!』

 そう言うと暗闇に飛び込んで見えなくなった。


 すると両肩をいきなり掴まれ振り返えさせられると怒りのリンディがいた。

「行っちゃったじゃない! せっかく情報が出たのに!」

「ご、ゴメン。リンディ」

「はー。ホントに変! 普通、魔獣には近づかないよ!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 リンディはプリプリしてる。そこへマクレイとモルティットが来た。

「ナオ、夕食だよ! 何してんだい?」

「あら? お盛ん?」

 二人を見たリンディはいきなり抱きついてきた。なんだ?

「見てわかるでしょ?」

 ウインクして挑発してる。すると二人の様子が一変した。

「なにしてんだい!」

 マクレイがリンディを引きはがすと、代わりにモルティットが抱きついてきた。なんで?

「あんたもなにしてんだい!」

 空いた手でモルティットを引きはがすマクレイ。なんかコントみたいだ。


「さ、帰って飯にしよう!」

 そう言って騒いでる三人を置いて村長の家に逃げた。後ろから追いかける音がする。こ、怖い。魔獣より怖い!

 めちゃくちゃダッシュで戻っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ