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71 激戦

 

「もう近づきすぎだ! 小銃隊は小物を狙え! 先発隊は出動しろ!」

 司令官が吠える! とうとう出番だ。握っていた手を放しマクレイが俺の肩に触れた。モルティットとリンディが背中に手をついている。フィアは魔導銃を抜き、胸元のクルールは服をギュッとした。


「行くよ。ナオ」

 マクレイの声にぎこちなくタツミ達の後についていき走っていく。ロックの足音が聞こえ安心する。

 ベヒモスに近づくにつれ地面が大きく揺れ動いている。地震の中を走っているようだ。

 ある程度近づいた所で止まった。

 タツミはそれに合わせ何かを唱えると、地面のあちこちから複数のスケルトンと一体の巨大なスケルトンが出てきた。おお! (すご)い! カッコイイ!


「最初から奥の手で行く!」

 タツミが叫ぶと指揮官が大声で怒鳴った。

「まだ早いぞ! これから我らで撃ち始める!」

「ダメだ! あんたらじゃ相手になんない!」

 二人が言い合いしてる内に人型サイズの魔物達が攻めてきた。スケルトン達と正規軍が対応している。


「ソイル! ベヒモスの足止めを!」

 こちらに向かってくるベヒモスが土に足をとられ、動きが(にぶ)くなってきた。

「アウルム! 全員の武器の強化をお願い! シルワ何かできる?」〈大丈夫です。土がある限り生命(いのち)は芽生えます〉

「シルワも足止めを!」

 するとベヒモスが足元を気にしている間に地中から枝が伸び絡み始めた。

 突然の出来事に指揮官は唖然と事の成り行きを見ている。


「タツミ! 行けるか?」

「ああ、(すご)いな! やってやるよ!」

 タツミがそう言うと巨大スケルトンがベヒモスヘ突撃していく。しかし、ベヒモスはデカイ! 巨大スケルトンでも頭に届くくらいだ。


 スケルトンが巨大なこん棒で頭部を殴ると、ベヒモスの背中の触手が一斉に伸びて巨大スケルトンをズダズダにしていった。

「ヤバイ! こいつはダメだ!」

 タツミが叫ぶと同時にベヒモスがその場からブチブチと太いツタを引き裂いてジャンプした!

 巨体がこっちに飛んで来る!


「ベントゥス! アーテル!」〈ごめんなさい。あの怪物には目と耳がありません〉え!? マジで!

 フィアが撃ち、モルティットが魔法の矢を打ち込む。傷はついたが、こちらに落ちてきた! ベントゥスが強風で着地点をずらす。

「全員伏せろ!!」「ソイル!」

 指揮官が叫ぶ。着地と同時に周囲に壁を作り衝撃を抑える。が、ベヒモスが体当たりで粉砕した。強えぇ!

 もう目の前だ! 逃げることもできない。


 なおも小型の黒い魔物が押し寄せる。ああ、足りない! 何をすれば!

「タツミとユキエは周りを掃討してくれ! 俺達がデカいのを!」

「わかった! 死ぬな!」

 タツミが叫んで新たにスケルトンを次々と召喚していく。ユキエも手持ちの武器で無数の魔物を豪快に(ほふ)っていく。


「アクア!」

 巨大な水玉がベヒモスを包んだ。窒息は…しないよね? でも動きが(にぶ)くなってきた。

 と、触手がこちらへ伸びてきた! ぶっ太い触手が次々に地面に刺さる! 危ない! 後ろに下がりやり過ごす。


「ナオ!」

 マクレイが俺を抱いて飛んだ。触手がさらに地面に突き刺さって来る!

「大丈夫かい?」

「ああ、ありがと!」

 二人で立ち上がると、手あたり次第に触手が地面に穴を穿(うが)っている。皆避けるので精いっぱいで散り散りだ。


「ゥグァオオオオオオオオオオオオオオオォ!」

 水に包まれているベヒモスが雄叫びを上げる。ここが正念場だ! 何かないのか?

 アウルムで強化された武器でも表面だけで効果が薄い。フィアの銃でやっと小さな穴が開く感じだ。ドラゴンより硬い!


 気がつくとベヒモスの正面に来ていた。怖えぇえ!

 とっさに目の前に壁を出現させるが複数の触手に崩されていく。

 手詰まり感、半端ない! 頭がグルグル回る。なんとかしないと仲間がヤバい!

 次々と繰り出される触手にソイルの壁で対抗するが解決策が出てこない。焦る。


「ナオ! しっかり!」

 マクレイが触手を切り裂きながら叫ぶ! くそ! なんとかしないと!

「カエルム!」

 水で包んでいたベヒモスを真空の球に閉じ込めた。が、真空中を漂っている触手が球をペチペチ攻撃して穴を開けようとしてもがいている。


 すると巨大な矢が次々とベヒモスめがけて飛来した。ああ、穴開くな、これ!

 矢が次々と球に穴を開けベヒモスを開放した。と同時に無数の触手が再び襲いかかってきた!

 壁を出現させやり過ごすが多すぎる!

 マクレイ達を見るとがんばって避けているようだ。どうやら俺達に狙いを定めたようだ。無数の触手が集中してきた。

 すでにソイルとシルワによってベヒモスの動きを(にぶ)らせている。これで踏みつけはないだろう。

 とにかく一番近いマクレイに向かって走る。


 その時、幾多の触手の内、一本がマクレイを貫いた!


「マクレーーーーーイ!!」

 倒れるマクレイに叫ぶ!


 慌てて(そば)に行き、抱き寄せ傷を見ると脇腹が真っ赤な血で染まっていた…。ああ、そんな……


「モルティット!! 来てくれ!」

 叫びながら無数の壁を出し、マクレイを何とか負ぶってモルティットを探す。自分の非力が憎い!

「ここよ! ナオ!」

 モルティットが触手を避けながら来てくれた。全体をカバーするためにそこら中に壁を出現させる。

 触手の攻撃はなおも続いている。

「早く、マクレイを! 頼む!」

 背中からマクレイを降ろし、モルティットに見せる。モルティットは素早く患部を見て治療の魔法を唱え始めた。


「ロック! フィア! リンディ!」

 叫ぶと皆気がついて集まってくる。

 次々に襲う触手に負けないぐらい壁を出現させ、ベントゥスを使って(そら)らせた。

 涙が流れるが、かまってらない。ふと、(ほほ)に手を当てられてた。見るとマクレイが青ざめた顔で俺を見ている。

「ごめん、ナオ。ドジった」

「大丈夫だよ。マクレイ!」

「こんな事なら言っとけばよかったよ……もう泣いてる」

「いや、今はダメだ! 元気になってからだ!」

 マクレイの手を握って戻す。モルティットは治療を続けているようだ。


「マクレイさン!」「ヴ!」

 フィアとロックが先に駆け付けた。よし!

「フィアはマクレイを守って! リンディにも言ってくれ! ロックは俺の盾に!」

「はイ!」「ヴ」

 二人が(うなず)く。

 崩れては現れる壁を攻撃し続ける触手に向かう。ロックが前に出て触手をさばいていく。


「アエルム! ベントゥス! カエルム!」

 巨大な硬い金属の針を無数出現させ、発射する。ベントゥスとカエルムにより高速で飛来した針は次々とベヒモスとその触手に深々と突き刺さる!

 こちらの攻撃が通じた! このままいくぞ!


「ゥグァオオオオオオオオオォ!!」

 再びベヒモスが雄叫びを上げる。かまってられるか!

 地面から次々と硬い金属状のスパイクを出現させ、串刺しにしていく。が、ベヒモスはそれを豪快に折りながら少しずつ進み始めた!


 ベヒモスが踏みしめる地面を持ち上げバランスを崩す。よろけるベヒモスに金属の針を次々に浴びせる!

 と、やっとベヒモスが大きな衝撃と共に倒れた。辺りの地面が大きく揺れる。

 今だ!! スパイクを穿ち地面に縫い付ける!


 と、空が黒くなり辺りを影で包む。

 すると強烈な一筋の光線がベヒモスの首と胴体を両断した!


 空を見るとよく知った黒竜が口から光線を出しながら降りてくるところだった。

「ドウェン!!」


 黒竜はベヒモスの背中にある魔法陣を足で踏みにじりながら粉砕して、首をこちらに向けた。

「間に合ってよかったぞ。よく会うな“契約者”よ」

 そう言って近づいてきた。すると俺達の後ろの方で大歓声が起こっている。


「ありがとう! ドウェン! 助かったよ! ホント、ギリギリだった!!」

「そうか? ほぼ倒していたではないか。さすがだな」

 そんな会話をしてる場合じゃない! 急いで助けないと!

「マクレイを助けてくれ! お願いだ!」

「どれ。見てみよう」

 俺の無茶な言い方で緊急を察したドウェンに、モルティットが治療を続けているマクレイを見てもらった。

「なるほど、ワシも手を貸そう」

 そう言うと、ドウェンも詠唱を始めた。

 再びマクレイの横に行き、手を握る。マクレイは気を失っているようだ。

 詠唱を終えたモルティットが微笑んで言ってきた。

「大丈夫、治るよ。泣き虫さん」

 はっと気がついた。慌てて涙を(ぬぐ)う。

「違う! これは汗だ!」

「もウ、ホントに意地っ張りでスね」

 フィアが首を傾けながら言ってきた。胸元にいたクルールはふーと、汗を()いていた。

 リンディとタツミ達も集まってきたようで、近くにいる兵士達も集合してきた。


「これで大丈夫だろう。しばらくは安静に、な」

「ありがとうドウェン! それにモルティットも!」

 ドウェンとモルティットは微笑みで答える。

 そしてドウェンが語った。

「実は竜王に謁見してきた使節団がこの情報を持ってきたのだ。いわば“お詫び”としてワシが派遣されたが、楽な仕事で申し訳ない気もするな」

「いや、本当に助かったよ。来てくれてありがとう!」

「フフフ。ま、こういう役もたまにはいいものだ。ではさらば、また会おうぞ!」

 そう言うとドウェンは空に舞い上がって行ってしまった。



 軍と傭兵や冒険者が小さい魔物達をほぼ倒し終わった後、タツミ達がやってきた。

「すげぇな! ナオヤは! ドラゴンなんて初めて見たよ」

 タツミが肩を叩いてきた。

「いや、タツミ達の援護がなければ無理だったよ」

「そう言ってもらえると、報酬が増えるから助かるよ」

 お互い笑いあった。


 それからロックにマクレイを抱いてもらって本隊の方へ歩き出した。

 ありがとう精霊主のみんな!



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