70 怪物退治
奥の大型テントを離れ、少し歩いた所にあるテントの一つにリンディが連れてきた。
「狭くて悪いけどここで我慢して」
そう言って中へ入って行く。ロックは入り口で待機するようだ。
テントの中は四~五畳ぐらいな広さだ。とりあえず詰めて寝る分には大丈夫そうだ。リンディが荷物を降ろし始めた。え?
「あれ? ここはリンディのテント?」
「そ! だってあなた達に会えるか分からなかったからね」
「は?」
「つまり、用意してないってコト」
リンディはウインクして言った。それじゃ、五人で寝るのね。フィアは興味深そうにテント内を観察している。
疲れたので、ノロノロとテントの端っこで横になった。はー、一休みしよう。
すると何故かモルティットが無言で隣に寝てきた。何で? 見てもロクな事にならないので背を向けて横になった。
すると後ろで何かが始まったようで、騒がしくなってきた。クルールが胸元から出てきてテント内を探検しはじめている。
その姿を目で追っている内に眠っていった……。
はっ! 目が覚めた。
右手が重い…。よく見ると手の平の上でクルールが丸まって寝ていた。なんだこれ…めちゃくちゃかわいい。
ふと隣を見るとマクレイの顔があった。こちらもかわいい寝顔…。近いな、間違いなく。いや、間違いがおきてもいいはず。
少し無理な体制で顔だけマクレイに近づける。あ、あと少し……。と、マクレイが目を見開いた! は! 見つかった!
次の瞬間、顔が元の位置に戻った。痛い…。いきなり無言ビンタ。再び隣を見ると威嚇された。
それから熱い頬が目覚まし代わりになって起き上がる。
皆もすでに起きていたようで俺に注目していた…。沈黙の中、視線が痛い。フィアまで。
「さ、さっ! おはよう! いい目覚めだね!」
無理やり笑顔で言うと周りが無言で動き出した。なんだこれ?
炊き出しがあるとのことで皆で朝食に出て行く。
スープのいい匂いがする大きな土鍋から皿に盛り付け、次々に配っていくのが見えた。俺達も列に並んでその時を待つ。
番が回ってきて、俺を見たコックが一瞬動きが止まった。何?
やがて何事もなかったようにスープを盛り付けた皿を差し出してきた。ありがたく頂く。皆も料理を受け取り、適当な場所を見つけて輪になって座って食事をした。
「見た? あんたら目立ってるね!」
リンディが笑いをこらえながら言ってきた。
「フン。ただの興味本位さ」
マクレイが返答したところで、どこからか武装している相撲取りのような魔人がこちらにきた。なぜか俺に向かって。こんどは何?
「おい! 小僧! なんでオメエがリンディ様と一緒に飯くってんだ?」
間違いない、俺だ。返事をしようと口を開きかけるとリンディが先に答えた。
「この人達はあたしの客人だ。そこまでにしないと容赦ないよ!」
凄みを聞かせて言うと、相撲取り魔人は無言で頭を下げスゴスゴと帰っていった。周りの魔人達もそれを見てザワザワしてる。
「ごめんね、ナオヤ。ここはあたしの顔に免じて許してよ」
リンディが苦笑いで謝ってきた。
「いや、よく言われるから別にいいけど。そんなに俺って若い?」
「ブーーー」
マクレイが吹き出した。モルティットも笑っている。フィアが空いている俺の手を握ってきた。いや、なんで慰めるの?
「面白いねぇ。ナオヤはさ」
リンディは満面の笑顔で言ってきた。いや、なぜだ? タブーなの? ……もういいや。
それから雑談していると、本部から集合の連絡が来た。俺達もリンディに連れられて行った。
前に行った大型テントではなく、大きな広場に壇上があるところに来た。
広場には各部隊の代表が来ているみたいだ。壇上近くは位の高い者たちなのか、身なりが良く雰囲気も高貴な感じがする。俺達はその身なりの良い人達の横に案内された。
やがて、壇上に司令官が上り、周りを見渡すと声を張り上げる。
「よろしい、諸君! 注目しろ!」
すると、ざわつきが収まり風の音が流れた。
「これから作戦地点まで移動する。我々が最後の砦だ。すでに各々の行動は伝えてある。各自、命を懸け仕事をしてくれるものと信じている! 作戦の成功を! そして怪物の息の根を止めろ!!」
「「「「オオオオオオオオオオ!!」」」」
人の声で地響きがした。すごいなこれは。背筋がソクゾクしてきて、なんか緊張してきた。そっと、隣のマクレイの手を握ると返してきてくれた。あー、安心する。
それから解散となり俺達は壇上裏に案内された。そこには何人かのいろいろな人達が立っていた。
雑多なその中から一組の男女がこちらに向かってくるのが見える。
「ナオヤ!」
「タツミ! 久しぶり! 参加してたのか!」
懐かしいネクロマンサーのタツミが女性と共に駆け寄ってきた。黒髪のかわいらしい女性だ。同じ“転移者”かな?
近づいたタツミから声をかけてきた。
「久しぶりだなナオヤ! また、ずいぶん賑やかなバーティーになったな」
「ああ。そう言うタツミもパートナーが出来たんだ」
そう言うと少し照れて、女性が自己紹介した。
「ユキエです。話しは聞いています。会えて良かった」
「初めまして! こんなかわいい彼女でタツヤも隅におけないね!」
ニッコリはにかむ姿はかわいらしいね。タツヤも少し照れている。後ろからマクレイにつねられた。何故?
とりあえず仲間を二人に紹介した。少し雑談して近状を報告し合った。
どうやらタツミは俺達と別れた後、大森林に妖精を見に行ったが、残念なことに会えなかったようだ。しかし、道中でユキエに偶然出会い意気投合して共に行動しているそうだ。
「君達は知り合いだったのか。なら話しは早いな」
副司令官が一人の魔人を伴ってやってくると口を開いた。
「ナオヤ殿達は彼ら正規軍の一部と共にベヒモスと直接戦って欲しい。できるかな?」
「最善は尽くします」
「ありがとう。今回同行する正規軍指令、フォロウだ」
紹介された魔人フォロウが頭を下げてから口を開いた。
「よろしく。この部隊の指揮は私が行うので勝手な行動は控えていただきたい」
「はい。わかりました」
なかなか規律に厳しそうな魔人だった。
それから同行する正規軍部隊とタツミ達、そして俺達は集まり作戦地域へ移動することとなった。
「ところで、何でリンディがいるの?」
「そりゃ、あたしが誘ったからね。責任があるの」
リンディがウインクして返事する。
「なかなかナオヤも大変そうだな?」
やり取りを見ていたタツミが声をかけてきた。
「そうなんだよ、ホント。相談に乗ってほしい!」
「ハハッ。落ち着いたらな」
タツヤが笑って答える。横にいたユキエも笑っている。またマクレイに腕をつねられた。何故、何も言わないの?
移動してる途中、タツミ達と話しながら進む。
やがて目的の場所へ着いた。先発隊はすでに準備をしていたようで、あちこちへ大砲やら巨大な弓矢を設置していた。
なかなか壮観な眺めだ。こんな大規模なものは見たことがない。って、これが戦争か。また震えてきた。
誰かが手を握ってきた。見るとフィアが俺を見上げていた。ありがとう、握り返す。
「大丈夫でスよ。ナオヤさン」
「そうだな。きっと」
それから斥候が戻るまでそれぞれの位置に着いた。
「いいか、まず最初に遠距離で砲撃する。それから接近して攻撃だ。我々が先行して攻撃するので各自、覚悟してくれ!」
指揮官のフォロウが大声で指示を出す。
集団の最前線にいる正規軍は緊張しているようだ。その後ろのタツヤとユキエは慣れているのか自然体だ。最後尾にいる俺はガチガチに緊張している。ああ、マクレイの手を握りたい。
想いが伝わったのかマクレイが来た。
「ナオ。今回アタシ達はあんたの護衛に集中するから指示を出して」
「え? 指揮官がいるじゃん?」
「あんなのは戦いが始まったら意味ないよ」
マクレイがフィアと反対の手を握った。想いが伝わった! 嬉しい。
モルティットとリンディもこちらへ来た。ロックはさっきから俺達の後ろにいる。ロックがいると心強い。
やがて空からワイバーンが司令部のある所へ降りてきた。あれが斥候かな?
全員が山間に注目している。辺りは静寂に包まれている。
「ナオヤの実力を楽しみにしてるよ」
前にいたタツミが振り返って言ってきた。頷いて答える。喉カラカラだ。
「そろそろ来るぞ! 砲を準備!」
司令官の声が響き渡る。
と、あちこちの大砲と巨大弓にいた人達が動き始め、発射の準備を始める音があちこちから立ち込め始めた。
すると山間から地響きがしてきた。それと共に小さい黒い集団がわらわら出てきた。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
地面を揺らしながら、その巨体が山間から出てきた! でけぇ! こんな遠くからでもわかる!
「撃ち方用意!」
地鳴りに負けない声が響く。
巨体が完全に姿を現した! ベヒモスは両手両足を地面についた恐竜のようで、背中にイソギンチャクのような触手が無数ウネウネと揺れ動いている。足元には黒い魔物が数え切れないほど一緒に走っている。
先ほどから地震のように地面が揺れている。……逃げ出したくなってきた。
「撃てーーーーーー!!」
そこに発砲許可が出た! 無数の大砲が轟音と共に青白く発光する。
ベヒモスに何発が着弾し、煙を上げているが余り効いてないようだ。地面にいる魔物は着弾した途端に次々と吹っ飛んでいく。
「次だ!!」
司令官の叫びに続けて砲撃が始まった。
ベヒモスを含め次々と着弾し爆発する。モウモウと煙が立ち込め、無数の魔物の叫びが響く。
地響きが溢れ、煙から巨体がヌッと出てきた。これは、あれだな。ホントに戦争だ。背中に冷たい汗が流れた。




