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69 再会


 魔人の島の港に着いた。

 案の定、途中でマクレイが船酔いになりグッタリしていた。

 接岸すると、いの一番でマクレイが駆けて降りる。その後を俺たちが続いた。

 さすが魔人の港だけあって、どこもかしこも青い肌の魔人だらけ。当たり前か。日が傾き始めたので、今日はこの港町に一泊することにした。宿を取り、近くの食堂で夕食をとりに移動した。

 やはり食堂には魔人ばかりで俺達が目立っていた。席に着いて注文をする。店員は慣れているようで普通に接してくれた。ありがたいなぁ。


 食事をした後、飲み物を頼んでまったりしていると、誰かが俺の首に後ろから手を回した。あれ? 前にもあったぞ。

「こんなとこにいたの! 偶然ね!」

 皆が驚いている中、後ろを振り返ると青い肌の美しい魔人がいた。顔近っ! って誰?

「えっと、どなた?」

「あれ? 忘れたの? あんなに熱い夜だったのに?」

 バキャ!! マクレイがコップを握り潰した音がする。恐ろしくて前を向けない。(すご)く刺すような視線を二か所から感じる。

 すると美人の魔人が呪文を唱え始めると肌の色が変わってきた。あ! 知ってるわ!


「リンディ!?」

「当たり!」

 そう言って俺の膝の上に乗ってきた。もう、重いって。

「どこに乗ってんだい! この女!」

 いきなりマクレイがブチ切れる。そのマクレイの腕を取りモルティットが静かに聞いた。

「ナオ? 誰?」

 ええぇ!? なんでそんな怖い目をしてるの? アワワワワ…怖い。ダブルで怖い。フィアに助けを求めて見ると背中を向けていた。ずるいぞ!

 からかうような感じでリンディがモルティットに聞いてきた。

「新入りのエルフかな? あたしを知らないの?」

「あら? 残念。全然知らないよ」

 恐ろしい、目と目で戦っている。マクレイはモルティットがギュッとつかんで、暴れないようにしている。


「ほら! 重いからどいてくれ!」

 リンディを隣の席へ移す。

「もー。相変わらずデリカシーが無いなー」

 そう言うと髪をかき上げた。その仕草で誘惑するつもりだな。って、もう、ハッキリ言うぞ!

「いいか! 皆、よく聞け! 俺はマクレイが好きなの! わかった?」

「……」

「「全然わかんない!」」

 マクレイが真っ赤になって押し黙り、モルティットとリンディが声を揃えて否定した。息ぴったりだね。

 それから何とか事態を収拾し、とりあえず落ち着いた。その間、楽しそうにクルールは皆を見回していた。


「ところでなんでリンディがいるの?」

 俺が聞くと、リンディは困った顔で答えた。

「ハハッ。むしろ、ナオヤ達がいるのが不思議だね。ここは魔人の国。あたしは魔人…」

「あー、そう言えばそうだね。元に戻ったら? さっきの方が断然カッコイイよ」

 そう言うと何故か面食らったリンディは呪文を唱えて元に戻った。

「そんなコト言われたのは初めてだよ。ますます気に入ったね!」

 ニカッと笑っている。マクレイが(にら)んできた。なんか失言したっぽい。どう言えばいいの?

「ま、あんた達に会えてよかったよ。ホントは探しに行こうとしたトコだったんだ」

 俺の肩に(あご)を乗せて言ってきた。なぜ乗せる?

「そうなんだ。って、顔乗せないで!」

「嫌なんだ? フフ」

「ふざけんな! この女!」

 マクレイがリンディの髪をつかんでどかした。モルティットは(あき)れている。でも、モルティットも同じだよ?


「ちょっと、みんな落ち着いて。全然話しが進まない!」

 すると全員が俺を見た。え? 俺が悪いの?

「そうね。ここは後で話し合った方がいいね」

 モルティットが回りを見渡して言うと、マクレイとリンディは(うなず)いた。いや、なんか違う。特にマクレイ。


 一息ついたリンディが話し始めた。

「まとまったから続けるけど、ある魔物を倒すのを手伝って欲しいんだ」

「魔物って?」

 俺が聞くとリンディの顔が険しくなり、息を吐きつつ、

「ふーっ。ここではあまり言いたくなかったけど、ベヒモスが出てさ。ちょっとした騒ぎになってんだ」

「はあ!? それって、大事でしょ! 国単位でヤバいでしょ!」

 モルティットがビックリして声を出した。マクレイも厳しい顔つきになった。なんかマズいの?


「ベヒモスって何?」

 俺が聞くと全員が見た。あれ? また間違った?

「第一級の魔物だよ。姿を見たものは皆死んだって噂もあるねぇ。軍隊が出る案件だよ」

「えっ!? それってダメじゃん! 俺達でもヤバいよ。いくらドラゴンを相手したとは言え…」

 マクレイが説明したのを受けて感想を漏らす。リンディは驚いて口を開いた。

「は? ドラゴンと戦った? それってベヒモス並みじゃん!」

「そのときは他のドラゴンが手伝ってくれたから…」

 さらに俺が言うとリンディはビックリして

「え? ドラゴンと一緒に? んな話し聞いたこと無いよ!」

「前にも言ったろ、ナオといると普通じゃないって」

 なぜかドヤ顔のマクレイが余裕の笑みを浮かべながら言った。モルティットも微笑んでいる。


「ま、なおさら大歓迎だよ。あんた達って規格外だから少しでも戦力の足しにって思ってたけど、こりゃあれだね」

 リンディが言葉を切って俺を見つめてきた。何?

「最前線で主力だね!」

 今度はリンディがニヤリと笑った。


「ちょ、ちょっと待て! 待て! まだ引き受けるとは言ってないぞ!」

 慌てて話しを戻す。このままだとズルズルと引き受けそうだ。リンディが続けて言ってくる。

「そうだね。でもここに来たのはあの“導き”とかなんだろ?」

「ああ、そうだ」

「なら道中の案内をするよ。この国なら詳しいからね」

 なるほど、案内人付きね……。ますます騒がしくなりそう。最初の頃の四人で旅してるのが懐かしくなってきた。


「で、どうするんだい、ナオ?」

 マクレイが聞いてきた。モルティットとフィアも俺に注目している。はぁー、なんでこうなんだ?

「わかった。とりあえず現場の責任者と話して決めるよ」

「そうこなくっちゃ! ありがと!」

 そう言うとリンディは俺の(ほほ)に口づけをしてきた。

「ナオ! なんであんたはいっつも無防備なんだ!」

「ご、ゴメン。マクレイ…」

 マクレイが俺に怒ってきた。えぇー。リンディはしてやったりな顔をしている。かんべんして。

 それから宿屋に戻り、何故かフィアとクルールと一緒に寝た。ロックは宿屋の前で待機している。

 他三人はどうやら話し合いをしているようだ。あえて内容は聞きたくない。何故、今だマクレイが何も応えないか不思議だ。


 次の日、リンディの案内でベヒモス討伐の前線基地へ移動することとなった。

 三人がどう話し合いをしたのか不明だが何事もなく平和な感じだ。いつも通りに野営して進んだ。


 何日か移動した後、キノコが密集しているような円形のテント群が広がっている光景が目の前に現れた。どこかと戦争でもするのか? これ。

「こりゃ、ヤバいね」

 マクレイが独りごちた。リンディはニヤリとして

「あそこがそうさ。思ったより規模が大きくてビビったかい?」

 そう言うと先を急いだ。

 やがてテント群に近づくと、武装した魔人達が見えてきた。俺達に注目している魔人が何人もいた。少ないが人族の傭兵や獣人のような人達も見える。胸元のクルールはおっかなびっくり周りを見ていた。

 リンディは気にした風もなくテント群の奥へ進む。戦場のような雰囲気にビビりながら後を追った。


 大型のテントが見えてきたところでリンディは足を止める。テント前には衛兵が門番の様に警備している。

「ちょっと待ってて。先に話しをつけてくるから」

 リンディは俺にウインクして衛兵に相槌(あいづち)してテント内に入って行った。


「思ったより大事(おおごと)になりそうね」

 ロックから降りてきたモルティットが言ってくる。

「とんだ話しだね。正規軍が少ないけど、かなりの数の混成軍だね」

 マクレイが続けた。この世界の軍隊って初めて見るな。まさか関わるとは思わなかった。フィアはキョロキョロして周りを確認しているようだ。

 しばらくすると、テントの幕が上がりリンディと大柄な武装をした魔人の男が出てきた。

「お待たせ、中へ入って! この人は副指令」

 副指令は無言でお辞儀をした。名前ないの? とりあえず挨拶をしてテントの中に入る。


 中には地図を広げた大きなテーブルがあり、その奥に皺の深い軍人らしき魔人の男がいた。

「いきさつは聞いておったよ。私はこの連合軍司令官ブレッグだ。よろしく」

 立ち上がって挨拶をしてきたので俺達もそれぞれ自己紹介し挨拶をした。

「各自の話しはおおよそ聞いている。ナオヤ殿が“契約者”か…。伝説には聞いていたが普通の人族で安心したよ」

「そうですか、それなら良かったです」

 なにこれ。どう返事すればいいの? 横のマクレイをちらっと見ると微笑まれた。意味わからん。司令官が続けた。

「立ったままですまんが、我々に協力してほしい。もちろん報酬は出すしリンディ様との約束も守ろう」

「…わかりました。できる限りはします」

 もう断れないじゃんね。誰だ、行ってから決めるって言ったのは……俺だった。


 司令官がテーブル越しに握手してくる。

「ありがとう。実際、噂に聞くマクレイディア殿とモルティット殿も加わってくれて助かる! 説明を副司令官」

「はっ! まずは地図を見てくれ。我々は今、この平原に陣を構えていて、ベヒモスはここから二日行った山間にまで来ている。未確定の情報だが背中に召喚の魔法陣があり、小型の魔物を輩出しながら進んでいるようだ」

 なんか聞いたことのある魔法陣が出てきたぞ。マクレイを見ると片眉を上げた。副司令官が続ける。

「あなた方がギリギリで間に合ってくれて良かった。幸いな事に今回のベヒモスは飛行能力がないので、ワイバーンを使い空からの偵察を続けている。冒険者達の一部はすでにベヒモスを遠巻きにして魔法陣より出た魔物を掃討している」

 副司令官が地図の上を指を滑らせ説明する。なるほど、ここを抜けると町が近いのか。


「我々は明日、前進して山間部の出口でベヒモスを迎え撃つ。最初は長距離から攻撃し、その後、突撃する。ところで、ナオヤ殿はどのくらいの距離から精霊様を使えるのか聞いていいか?」

「あ、はい。大丈夫です。見える範囲ならできると思います」

「それは(すご)い! 作戦の大筋は以上だ」

「ありがとう副司令官。詳細は詰めてまた伝える。後はリンディ様が案内するよ、それでは!」

 副司令官と司令官がキビキビとした対応で話し終わる。どうもこういう雰囲気は苦手だ。

 それからリンディが先導してテントを後にした。



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