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68 魔人の島


「それではな! こう、ちょくちょく会っていると別れる気がせんな」

「ハハハ! また機会があったらよろしくね、ドウェン!」

「承知した! さらばだ!」

 竜の国を出て、山脈を越えた先でドウェンと別れた。これから竜の国も変わっていくのかもしれない。


 再びモルティットを加わり、賑やかに旅が始まった。竜の国でどれくらい成果があったかわからないが、モルティットは満足げな顔をしている。

「あら? 見惚れたかな?」

 視線に気がついたモルティットがロックに抱えられたまま微笑んで言ってきた。

「違うって!」

 反論するが、弱い気がする。隣のマクレイに(にら)まれた。無言だ…。まだ何もしてないのに。


 それから西エルフの里へ移動した。

 里に着き、ラフィーノおばあ様へ報告した後、一泊することになった。

 皆で楽しく夕食を取っている時、エンウィットとデオールが訪問してきた。

「よお! また来たんだってな! なっ? モルティットも仲間なのか!?」

 なんかモルティットを見てエンウィットが驚いている。

「あら? 知らなかった?」

 余裕の微笑みで顔だけ向けて答える。エンウィットは一瞬キョトンとした後、席に座っている俺を引っ張って外に出た。

 え? 何? 周りの皆はあっけにとられてる。


「どういうことだ? これは?」

「え? 意味がわからない?」

 おばあ様の家の裏手でエンウィットに尋問されてる。どういう事かさっぱりわからん。ちゃっかり胸元にはクルールが何かを期待している顔でいた。


「それよりエメルディとは上手くやってる?」

「まあ、な。あれから付き合う事になったよ。ありがとな」

 エンウィットは少し照れて、頭をかいている。結構単純だ。肩を叩いて祝福する。

「良かったじゃん!」

「ああ。って、そっちじゃねえよ! マクレイディアもそうだけど、あの二人は東エルフの里でその人ありと言われてたんだぞ! どうしてこんな事になってんだ?」

「そう言われても。成り行き上、仲間になったとしか答えられないケド」

 話しを()らそうとしたけどダメだった。昔の事を言われてもわからないし、そんなに驚くことか?

「あ~! わからん! “契約者”ってそんなに(すご)いのか?」

「いや、俺もわからんし。わざわざここに連れてこなくてもよかったんじゃない?」

 とりあえず、訳がわからないからなだめよう。そうしよう。

「まあ、落ち着いて。何か言ったところで変わるわけじゃないし。ね?」

 と、エンウィットがギロリと(にら)んできた。


「ここは私が説明しよう」

 いつの間にかデオールが来ていた。突然声が聞こえたのでビックリした。エンウィットも驚いている。

「「デオール!」」

「早い話が、エンウィットがマクレイディアに惚れる前は、モルティットが好きだったわけだ。つまりナオヤは惚れた女を独り占めってことだな」

「ばっ、バカ! 言うんじゃねえよ!」

 エンウィットが焦って叫んだ。ああ、わかった。これなら納得。

「それだけで、ここに来たの?」

「うっ! いや、確認だ。確認!」

 ますます焦っているエンウィット。早く戻って食事の続きがしたい。

「彼の気持ちもわかってくれ。最近、新しい彼女ができたけど、以前好きだった二人が現れたからな」

 デオールがエンウィットの肩を叩き、(うなず)いている。もう、どうでもよすぎだろ。これは。

「わかった。でも、しょうがない。戻ろうか?」

 そう言って戻ろうとすると、デオールが待ったをかけた。


「すまない、“契約者”様。今一度お願いを聞いてほしい」

「今度は何?」

「できれば、再びアクア様にお目にかかりたいのだが…」

 こっちはこっちで未練たらたらだ。ある意味、似ている二人だな。

「えっと、アクア。どうかな?」〈しょうがないですね〉なんかごめんアクア。

 すると再びアクアが出現した。デオールは片膝をつき、両手を広げ口を開いた。


「好きです! アクア様! 一目見たときから!」

「……」

 引きつった笑顔のアクアはスーッと消えていった…。俺とエンウィットは唖然としている。クルールはその光景を興味深そうに見ていた。

「言ったぞ! 想いを伝えられたぞ!」

 握りこぶしを天に掲げ、満足そうに(つぶや)くデオール。まあ、良かったね言えて。〈私は好みではありません〉ごめんアクア。

「ありがとう! “契約者”様!」

 いい笑顔のデオールに両手で握手される。何も言えず、愛想笑いで誤魔化した。


 その後、二人と別れてラフィーノおばあ様の家に戻った。

 突然、俺が連れていかれたので心配してたみたいだが、その時の話しをしたら皆、爆笑していた。

 それから一人遅くなった残りの夕食をクルールと一緒に済ませ、皆と雑談をして就寝した。

 翌朝、ラフィーノおばあ様に別れを告げ、出発した。

 西に向かって移動する。まあ、正確に西とは限らないが…。


 道なき草原を歩いていく。爽やかな風が気持ちいい。仲間もリラックスしているようだ。道中、魔物が何度か出現したが、マクレイとモルティットが撃退していた。ロックは出番が無くて寂しそうだ。

 モルティットの魔法は前と比べて詠唱が短くなって威力が増したように見えた。(すご)いなぁ。

 クルールのハミングを聞きながらフィアと手をつないで進む。


 何日か立った頃、丘に上がり見下ろすと小さな港町が見えた。

「あの町かい?」

 マクレイが港町を見ながら聞いてきた。

「いや、もっと先かな」

「あら? そう」

 いつの間にか側に来ていたモルティットが(ひたい)に手で(ひさし)を作って言う。

「さ! 行こう! ロック乗せて!」

「ヴ」

 さりげなく言ったら断られた。その横でモルティットがロックに抱き上げられていた。ひどい…。

 マクレイが肩を叩いて先に歩いて行く。

「ほら、バカやってないで行くよ!」

 慌てて後を追う。


 やがて港町に着いた。中に入って行くと肌が青い人を多く見かけた。不思議に思って見つめていると、

「あれは魔人だよ。ほら、あんまりジロジロ見ない!」

 マクレイが背中を叩いた。あ、すみません。しかし、フィアとクルールはめちゃガン見してる。

 そして港へ導きに従い行くと、海の先にうっすら大きな島が見えていた。あそこかな?

「まさか、あの島かい?」

 マクレイが聞いてきた。

「たぶんね。何かあるの?」

 質問するとマクレイが口を開こうとしたところにモルティットが割って入ってきた。

「ふふっ。あの島は魔人の国なの。あまり人族がいないから目立つかもね」

 マクレイがセリフを取られてパクパクしている。かわいいなぁ。俺が見てたら(にら)まれた。

 それから港のギルドに行き、島に行く便を調べた。

 幸いなことに今日も出る便があるようだ。手続きをすませ、船着き場へ行く。


 船は中型の商船のようで、頻繁に行き来しているようだ。船長に挨拶をして行程を聞くと、四、五時間ぐらいで着くそうだ。意外に近いね。

 本日の最終船に乗り込み島を目指す。

 魔人の島か。少しワクワクしてきた。船の甲板で薄く見える島を見る。隣のマクレイを見ると顔が青くなっていた。魔人かな?

 今回は船室に入れないので甲板の船員に邪魔にならない場所に陣取った。

 気丈に振る舞っているが、無理やりマクレイを横に寝かせ、船酔いの準備をする。相変わらず寝顔を見ようとすると威嚇(いかく)された。

 モルティットは笑いながら準備をし、フィアは珍しい海の光景に目を奪われていて、クルールは俺の胸元にいてキョロキョロしている。ロックは隅で見守っているようだ。


 船が大きな帆を上げた。さあ、出港だ!



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