表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/116

63 大気の精霊主

 

 しばらくすると半魚人が一人、エレベーターからやって来た。バッパではないようだ。

「リーダー。お耳を拝借」

「なんだ?」

 トコトコとノボルの元へ行き、耳元で(ささや)いている。ノボルはそれを聞いて(うなず)いた。

「ありがとう、ボーメロ。紹介しよう。半魚人達の管理者ボーメロだ」

 そう言われたボーメロは俺達にお辞儀をして、そのままエレベーターへ向かう。


「奴らは私の事を“リーダー”と呼んでおる。本当は“総統”にしたかったが、奴らは理解できなかった。それは置いておこう、ナオヤ達は人魚に遭遇したのは本当か?」

「ええ、会いましたよ。マクレイが追い返しました」

「おおっ! やるな! あいつらは半魚人をイジメておるので困っておったのだ。海中だと素早いからどうにもできん。ま、近いうちに新兵器で追い返す予定だがな」

 ニヤリとするノボル。一体、どういう関係なんだろうか? 気になるが自分達の事が優先だ。

「あの、こちらには潜水艦みたいのってあります?」

「今は無いな。一応、建造予定ではあるが…。私が使っている潜水服ならあるぞ」

 残念だ。潜水服はフィアが着られないし。あ、そうだ!

「でしたら、空気を送る装置をお借りしていいですか?」

「さっぱりわからん。どういうことか説明してもらおうか?」

 いぶかしげな顔でノボルが聞いてきた。そりゃそうだ。そこで、ここに来た目的と、この先したいことをノボルに説明した。


「ふむ、なるほどな。なかなか非科学的だが面白い。同じ“転移者”のよしみで貸そう。詳しくは明日だな」

「ありがとう! 助かったよ!」

 立ち上がってノボルに握手も求め、快く応じてくれた。

 それから夕食に招待された。と言っても、半漁人達と同じ広い食堂でノボルと一緒に食べた。

 ノボルは半漁人達にとって恩人のようで、皆、横を通るとき頭を下げていた。そして噂が広がったのかマクレイに対してキラキラした目で見ていた。


 食後はバッパに寝室のある部屋へ案内された。

「ふぅー。とりあえず、何とかなったかな?」

 ベッドに寝そべり椅子に座っているマクレイに話しかける。

「ちょっとナオは無計画すぎるねぇ。と言ってもアタシも何も考えつかないけど」

 笑いながらマクレイがフィアに視線を移す。二人に見つめられたフィアはモジモジしながら、

「ワタシは何も出ませんカら、期待した目を向けないでくだサい!」

 そう言って丸い窓に向かっていった。可愛いなぁ。

 クルールは部屋に入ってからずっと窓に張り付いて外の海を熱心に見ている。

「さ、もう寝よう! ほら、マクレイ! こっちへ!」

 ベッドの空いた所をポンポンしてお招きした。

 無言でマクレイに(にら)まれた。あれ? 早かった? 少し怖い。


 視線に耐えられないので背を向けると、横に入ってきた。マジで!? 嬉しい!

 急いで振り向くとフィアがモジモジしていた…。いや、そんな気はしてたけど。

「ほら! 早く寝な! 落ち着きがないね」

 フィアの隣に寝たマクレイがニヤニヤしながら言ってきた。くぅー! 悔しい!

 無言で(にら)み返すと目を閉じてた。しばし顔を観察してると耳がピクピクして段々赤くなってきた。

「いつまでも見てるな!」

 クワッと目を見開いてマクレイが怒りだす。ハハッ! こっちも可愛いなぁ。

「ワタシを(はさ)んで遊ばないでくだサい!」

 今度はフィアが怒り始めた。頭がカタカタ揺れてる。

「ごめんなさい」「ゴメンね」

 二人で謝ってから寝直す。しばらくするとクルールが枕元に来て一緒に寝た。



「おお、待ってたぞ。これが機械一式だ」

 ノボルが俺達の姿を見るなり言ってくる。

 朝食をとり、バッパの案内で再び支柱の扉前までやって来たところだった。ずいぶん早いな。

 それから使い方を説明され必要な資材を渡すと、ノボルはどこかへさっさと行ってしまった。関心薄いなぁ。

 エレベーターへ残してきたロックと合流し、資材を持って機械のスイッチを入れる。

 するとホースから空気がシューシューと出てきた。これで安心だ。

 なぜかトコトコとバッパが一緒に来た。何故って顔で見ていると、愛想笑いしている。

 そしてエレベーターを操作しだした。ま、いいか。横のマクレイを見ると苦笑いしていた。

 やがて海中に入ると、行きと同じようにアクアに海をドーム状に除いてもらい、空気が出ているホースを延ばしながら海底都市の支柱から出て導きの先へ進む。するとフィアが首を傾けながら聞いてきた。


「ナオヤさン。どのくらい進むのかわかりまスか? ホースの長さは測りまシた?」

「え? 全然?」

 するとフィアが両手を挙げて怒り始めた。

「もウ! 行き当たりばったり過ぎマす!」

「ご、ごめん。何も考えてなかったよ」

「もウ! もウ! ワタシが見るべきでシた!」

 珍しく憤慨している。それでも仕草が可愛い。


「フィア、もうその辺で。ねぇ、アタシも見てただけだったし」

 マクレイが助け舟を出してきた。

「ごめんね、フィア。ありがと、マクレイ」

 すると二人に(にら)まれた。あれ?

「ワタシ決めまシた! しっかり管理しマす!」

「え~、大丈夫だから。ね、フィア?」

「ダメでス!」

 両手で握りこぶしを作っている。固い決意のようだ。フィアの後ろのマクレイが鬼の形相で首を縦に振っている。えー。

「わ、わかった。お願い、フィア!」

「もウ」

 フィアはあれかな、牛かな?

 ロックは無関心な様子で、バッパは関係ないのに隅で震えて縮こまっていた…。クルールは笑顔でフィアの真似をしている。


 そんなこんなで先へ進み海底都市から離れて歩いていく。

 意外とホースには余裕があるが、フィアは余裕が無さそうな感じだ。

「フィア、足りない時は一旦戻るから安心して」

「大丈夫でス。先ほどは取り乱しまシた」

 俺の手を握ってきたのでお返しにギュッとして返事をした。マクレイも安心したようだ。ホッとしている。

 やがて、大きな岩の前にやってきた。ここかな?


 ロックが前に出て岩に触れると人型の岩が出てくる。そして肩に触れると砂のように崩れていった。

 前の岩が崩れ、ポッカリと洞窟の入り口ができると、そこにロックは入って行く。

 俺達も後を追う。洞窟の中は空気があり、どういう訳か海水が入ってこないようだ。

 先に進むと、奥は見慣れた円形状の部屋で真ん中に丸い台座があった。


 部屋に入り丸い台座に上がると、爽やかな光の輪が現れ輝き出す。部屋全体を輝きで包むとやがておさまる。

 するとそこには神話から出たような美しい女性が出現していた。

『ようこそ、“契約者”よ。このような所に来て頂けるとは嬉しいです』

「初めまして! ナオヤと申します!」

『…初めまして。…丁寧ですね。私は大気の精霊を束ねる精霊主。契約をお願いできますか?』

「こちらこそお願いします!」

『ありがとう。それでは私の名をお願いします』

「はい! “カエルム”はどうですか?」

『フフ。ありがとう。では、契約を!』

 俺が右手を差し出すとカエルムが触れる。すると腕の中に引き込まれていった…。〈皆さんよろしくお願いします〉〈お待ちしてました〉〈………〉〈…〉ああ、もうダメ。全然聞き取れない。最初だけだ。賑やかだなぁー。


 台座を降りてフィアの元まで行く。

「フィア! もう、ホースは必要ないみたい。カエルムが空気を作り出してくれるって」

「本当でスか! それは良かっタ。でモ、ナオヤさンは無計画すぎデす!」

 フィアに怒られた。そばにいたマクレイに(うなず)きながら肩を叩かれる。同情されてる…。

 初めての出来事にバッパが目を見開いたまま固まってた。

「バッパ! 大丈夫? もう行くよ」

 話しかけると一瞬ビクッとし、ノロノロ動き始めた。返事ナシ。なんか寂しい、俺。するとまたマクレイが肩を叩いた…。

 洞窟を出るときはアクアではなく、カエルムに空気のドームを作ってもらい移動した。アクアいままでありがとう。


 ロックがホースを巻き取りながら海底都市へ戻る。

 すると、いつの間にかたくさんの影がドームを回遊しているのに気がついた。と、アクアが警告してきた。


「マクレイ。また人魚が来たけど。今度は複数だ」

「はん! 別に何匹来ようと関係ないけどね」

 影に気がついたマクレイが答える。余裕なのか剣の帯すら手にかけてない。

 ふとドームの真ん中を見るとバッパがしゃがんで縮こまっていた…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ