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56 夜の散歩

 

「とても助かりました。ありがとうございます! それでは!」

「がんばれよー!」

 ツイルが手を振って別れ、俺達も手を振って応える。


 それから食堂に行き疲れと空腹を満たして休憩している。ロックは何時ものように入口近くで待機している。

「ま、何はともあれ良かったよ! 皆が無事でさ」

 マクレイが話し出す。それを見てモルティットが手を挙げた。

「はい! いいかな?」

「なんだい?」

 マクレイが(うなが)す。なんか嫌な予感しかしない。モルティットがニコニコしながら口を開く。


「私、ナオが好きです!」

「ブーーー!!」

 吹いた。何、宣言してんのこのエルフ…。マクレイが固まっている。フィアも同じだ。

「ちょ、ちょっと! モルティット! 何言ってんだよ!」

「あら? 本当の事だけど?」

 モルティットに抗議すると、にこやかに流された。

「お、俺は好きじゃないから! 言ったよね?」

「聞いたけど、知りません」

 と、マクレイが俺の両肩をつかんできた。鬼の形相になってる…。めちゃ怖い!


「ど、どどどいう事なんだ、ナオ?」

「いや、俺じゃなくて、モルティットだって!」

 ぎこちなくモルティットを見るマクレイ。すると素敵な笑顔の答えが待っていた。

「ふふっ、ごめんね。マクレイディア」

 またこちらに向くマクレイ。目が怖い! 人殺しの目になってる!


「ち、違うんだマクレイ! 俺が好きなのはマクレイなの! モルティットが勝手に言ってるの!」

「はぁ? どういう意……」

 言いかけた途中で気がついたようで、いきなりマクレイの顔が赤くなった。

 よく考えたら本人に直接言ったのはこれが初めてだ。もう少しムードのある時にしたかった…。

「あ、ああああアタシは……帰ってもう寝る!」

 え!? と思ったら、いきなり席を立って出入り口にダッシュしていた。逃げた…。


「あら? 恥ずかしがりだね」

 マクレイの後ろ姿を見ながらモルティットが言う。そうだけど、違うだろ。

「ちょっと! なんでこんな時に!」

「あら? こういう時こそ言った方がいいの!」

「はー。ややっこしくなってきた…」

「ふふっ。はっきりしないマクレイディアが悪いの!」

 悪びれた素振りもなくモルティットはにこやかだ。俺が一番困るパターンだ、コレ。


 フィアは回復したのかモジモジしてるし、胸元のクルールはキャーキャー言ってる。

 しばらくして、余計ぐったりして宿屋に戻る。

 部屋に入ってからは、甘えん坊になったクルールと一緒に遊んで寝た。



 翌朝、準備が終わり宿屋の前でロックと一緒に待っている。めずらしく俺が一番早く起きたようだ。

 しばらくして、マクレイ達が出てきた。

 どんより出てきたマクレイとモルティットの目の下にクマが出来ている。何があったんだ? なんとなくわかるけど。知らない振りして声をかける。

「おはよう!」

「あーおはよー」「……」「おはようございマす」

 エルフの二人は疲れた返事。フィアはいつも通りだ。


「……それじゃ、行こうか!」

「こ、今度はどっちだい?」

 なぜか真っ赤な顔のマクレイが聞いてきた。クルールも不思議そうに見ている。

「東の方かな?」

「そ、そうか! じゃ、行こう!」

 ズンズン先に歩き始めた。なんなんだ…。

 そこにモルティットがフラフラ寄って来た。

「ふふっ、ちょっと昨日は深く話し合ったの。有意義だった。わかった?」

「は? 全然わかんないよ…」

「ま、そうね。私も色仕掛けはしないよ。堂々といくから!」

 そう宣言されて、目が点になった。何を言ってるんだ? このエルフ…。

 またフラフラとモルティットはロックの所に行って、抱えられた。ロック…それでいいのか?

 フィアが何も言わず手を握ってきた。あー、なんだか安心する。見ると(うなず)いてきた。ホント、良い子だ。

 なんか釈然としないが、不思議な地底都市を後にして歩き始めた。



 東に向かい移動して行く。しばらくはギクシャクしていたが、普通に接している内にいつも通りになっていった。

 進んでいくとやがて山々が近くになってきた。ひょっとしてこれを登るの?

 かなり歩いて日が暮れる頃、野営に移った。


 夕食後、クルールと一緒にフィアから文字の勉強をしていた時、ふいに闇の精霊主が現れた。

『今晩は、ナオヤさん』

「あれ? アーテル、どうしたの? めずらしい」

『折り入ってお願いがあって来ました』

「何を?」

 するとなぜかモジモジしはじめ、上目使いで聞いてきた。

『今宵ご一緒に散歩をしていただきますか?』

「ああ、それなら…」

「どういうつもりだい? ナオに何かするのかい?」

 言いかけたところでマクレイが口を(すご)んできた。剣に手を置き(すご)んでいる。後ろにはモルティットが補助器を上げ、詠唱を始めていた。

『フフッ、さすが“契約者”の従者ね。精霊主相手でも臆することがない…。でも安心して、何もしないわ』

「マクレイ、モルティット。大丈夫だから、収めてくれ!」

 俺も慌てて事態を収拾する。しかし、喧嘩早いよね。美人さん達は。


「……わかった。でも、何かあったら呼びな」

「ありがとう、マクレイ、モルティット」

 二人が警戒を解き、座りなおすが注目している。心配してくれるのは嬉しいけど、最近は過保護な気がしてきた。

 その様子をアーテルは微笑んで見守っている。

『では、参りましょう』

「わかった。じゃ、ちょっと散歩してくるよ」

 皆に声をかけ、アーテルと夜の野原へ繰り出した。


『…こうして“契約者”と一緒に歩くことが夢でした。私は幸せです』

 野営地が小さくなる頃、アーテルが切り出した。

「ホント? お役に立てれば嬉しいけど」

『あなたは変わった方ですね。この世界では“闇”は忌み嫌われています。歴代の“契約者”でも私と契約した者は僅かしかおりませんでした』

「そうなんだ。それは寂しかったね」

『はい。でも私の望みは叶えられました。ありがとう、ナオヤさん』

 それからしばらく歩き、ちょっとした岩場で休む。アーテルはニコニコしていて、こちらも温かい気持ちになった。

 言葉に出さなくても、なんとなく幸福感に包まれている。


 すると音もなくソイルが現れた。

『ごめんなさいアーテル。途中でお邪魔して』

『いいえ。大丈夫です』

 微笑んでアーテルが答えると、ソイルは俺に顔を向ける。

『実はナオヤにお願いがありまして』

「あ!? 俺に?」

 ビックリした。まさか俺がご指名とは。

『そうです。その、言いにくいのですが、触れ合いたいのです』

「は?」

『私は今ままで“契約者”と触れ合った事がありませんでした。ぜひお願いします!』

 そんな可愛い感じで言われる。いや、全然いいけど。


「アーテル。少しいいかな?」

『ええ、もちろん構いません。私はここで見ています』

 にっこりと微笑んでアーテルは答えると、その場をさがり近くの岩へ腰を下ろした。

『ありがとうアーテル』

 ソイルがお礼を言うと俺の元へ来る。恐る恐る俺の手を取り感触を楽しんでる。こんなんでいいの?

 やがて俺の顔をペタペタ触り始めた。なんか恥ずかしい…。ソイルは目を細めてとても楽しそうだ。

 今度は手をつなぐ。なんか、なすがままだ。心配になってきた。そして抱きしめられた。

『ああ、感じます。人の鼓動を。これがナオヤなんですね』

 そう言うと静かに離れた。とても満足してるようだ。そしてアーテルに微笑んだ。

『ありがとう。ナオヤ、アーテル』

 そう言って再び音もなく消えた。ふー、なんか緊張した。ソイルって大人だよね。


 するといつの間にかアクア、ベントゥス、シルワ、アウルムが(たたず)んでいた。見渡したアーテルは微笑んだ。

『皆さんもどうぞお聞きください。よろしいですかナオヤさん?』

「ああ、お手柔らかにお願いします」

 それから、皆の要望を聞き実践した。どれも俺にとっては些細な事ばかりだった。今まで“契約者”とどういう交流してたのかが不思議だ。

 全員が終わると、座っていたアーテルが立ち上がり

『それでは戻りましょう』

 そう言って手をつないできた。ニコニコしている。

 少ない会話ながらも楽しそうなアーテルと野営地へ戻った。


 焚き火の近くへ戻ると、マクレイが駆け寄ってきた。クルールも一緒だ。

「ナオ!」

「大丈夫だよ。心配ありがと」

『従者よ、あなたの“契約者”は素晴らしい人です。それでは…』

 アーテルは闇に紛れて消えていった。消えたと言っても俺の中にいるんだけれども…。

「あら? 意外に早かったね」

 モルティットも来た。二人を焚き火の前に戻してとりあえず精霊主達の事を話す。

 フィアも含め精霊主の行動には驚いたようだった。確かに伝説の存在だもんね。当然、俺も知らないし。


 話しも弾んで夜更けまで続いた。



お読みいただきありがとうございます。


今日はイブですね。

こたつでケーキとフライドチキンをかぶりつきたいと思います。


皆さんも楽しい夜になりますように。


お話しはしばらく続きます。お付き合いいただけると嬉しいです。

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