55 金の精霊主
休憩後、坑道を探して歩いている。
ベントゥスからは良い報告がなかった。くそっ。どうすればいいんだ。
焦っている俺に気付いたのかモルティットが手を握ってきた。
「これくらいならいいでしょ? 寂しがり屋さん!」
「そ、そんなに寂しくはないよ。モルティットがいるし」
「ふふっ」
見透かされた。俺ってわかりやすいのかな? 考えたことないけど。
「ローーックーー!!」
坑道の奥に向かって叫んでみる。
しかし、反応はない。
が、どこからか砕ける音が聞こえてきた。
「モルティット聞こえる?」
「ええ、何処かが崩れているみたいね」
辺りを見回すが、よくわからない。モルティットは魔法の補助器を取り出して警戒している。
ゴガッ!!
すると、少し先にある坑道の壁が突如破壊される。ビックリしてつないでいた手に力が入った。モルティットは嬉しそうだ。違うからね、勘違いしないで。
警戒していると、黒い塊が出てきた。
「ヴ!」
「ロック!」
岩の巨体が姿を現した。嬉しくて駆け寄る。
「良かった! 大丈夫? なんともない?」
「ヴ、ヴ」
大丈夫みたいだ。ロックは俺の反応を頼りに来たとの事だった。反応って何?
すると、ロックの後ろから
「ナオ!」「ナオヤさン!」
マクレイとフィアの姿が見えた。すると、胸に何かが当たってきた。よく見るとクルールが胸にしがみついている。
「クルール! 無事で良かった!」
妖精の頭をなでると、クルールは涙を流して嬉しそうだ。と、マクレイとフィアが抱きついてきた。
「心配したよ!」
「探しまシた。会えて良かったデす」
「俺も嬉しいよ、マクレイ! フィア!」
皆で喜びを分かち合う。それから、モルティットにもマクレイとフィアは抱きついて喜んだ。
胸から頭の上に移動したクルールがゴロゴロしている。髪の毛で遊ばないで。
再び集まった俺達は導きの元へと進み始めた。
フィアと手をつないで歩く。フィアは嬉しそうだ。マクレイも機嫌が良さそう。モルティットの事は黙っていよう、心に誓った。ちらりとモルティットを見るとウインクしてきた。ああ、絶対何かありそう…。
しばらく行ったところで後ろから声がかかった。
「おーい! 待ってくれ!」
振り向くとツイルが走って来た。
「どうしたんだ?」
「あの三人組を見かけたから、君達といれば安心だと思ってね。無事合流できたみたいで良かったよ」
「ああ、ありがと。別に一緒に来てもいいけど、採掘はしないよ?」
「わかってる。大丈夫だ。しばらくよろしく!」
そう言うと再び握手を交わした。それから、まだ紹介していなかった仲間を引き合わせてから進み始めた。
坑道を下って行き、最下層へたどり着き、導きの示す先へ進む。
やがて行き止まりへと着いた。
「……」
「ホントにここかい?」
「たぶんね」
マクレイが聞いてきた。
するとロックが壁に手をつくと、人型に切り取られように岩が出てくる。再びロックが肩に触れると砂になって崩れていった。
「すっかり忘れてたよ。慣れって怖いねぇ」
マクレイが呟く。その後ろでツイルが驚いている。
そして入口が現れ奥に入っていくと丸い広場があり、真ん中に丸い台座があった。
皆でゾロゾロ入っていき、俺が台座を上る。
すると黄金に輝く光の輪が出現し辺りを黄金に染める。そして黄金が消えた時、神話に出てくるような美しい女性が出現した。
『ようこそ。“契約者”よ』
「はじめまして!」
『……はじめまして。私は金属の精霊を束ねる精霊主。どうぞ契約を』
あれ? 挨拶はいらなかった?
「お願いします!」
片手を差し出す。
『まあ! 闇の精霊主も契約したのね! 嬉しいわ。 さ、早く名前を!』
「え? はい。“アウルム”はどうですか?」
『いいですね。それでは』
そう言うと俺の右手に触れる。すると腕の中へ入ってきた。〈皆さんよろしくお願いします〉〈ようこそ!〉……賑やかに挨拶をしている。一体どうなってるんだろ? 一回、見てみたいな。
台座を降りるとツイルが震える指をさし、
「ひ、ひょっとして、ナオヤって精霊使い…様?」
「えーと、そうかな?」
「そ、そうでしたか…。これは失礼しました」
いきなりツイルがかしこまった。なんなんだ?
「なぜ敬語?」
「え!? 我々メディラ族には精霊使い様がこの地で活躍された伝説があって以来、敬意を払うようになりました」
「いや、わかったから。普通でいいから」
そんな伝説の話しをされても。ちらりとマクレイを見るとドヤ顔してるし、関係ないよね?
再び全員で坑道に出て来た。このままどうしようか考えて歩いてると、前方に例の三人組がいた。
「ここにいたか! って、手前ら!!」
ツイルを見て凄んで、俺達を見て驚いている。見て最初にわかるよね? いつの間にか胸元に移動したクルールが真似してる。
三人組は少し焦っているようだ。こちらの出方を伺っている。
「ナオ。どーする?」
マクレイがどうでもいい風に聞いてきた。そりゃ、美人さんなら余裕ですけど…。
「えーと、無視かな?」
「え!? それじゃ僕は?」
ツイルがビックリして聞いてきた。
「一緒に帰ればいいじゃん。ダメかな?」
「ダメっていうか、今帰っても同じかなっていうか…」
ああ、そういうこと。精霊使い様って訳。はぁ、関わったからなぁ。
とりあえず三人組に向かって言ってみる。
「おたくら、もうツイルには関わらないでくれよ」
「あんだと坊主! お前なんか怖くないんだよ! 横の女がいないと威張れないのか?」
そんなにマクレイが怖いのか…。横を見ると思いっきり三人組を睨んでいた。ちょっと怖い。
しょうがないので三人組に近づいていく。
「もう、いい加減やめたら?」
「は! こんなに近づいていいのか坊主! カッコつけようとしてるんじゃネェよ!!」
と、世紀末風のおっさんがけっこうデカいナイフを突き立ててきた。残りの二人もナイフを抜いている。
「ソイル、アウルム」
すると横の壁が三人を襲い、体半分を固い岩盤へ引きずり込んだ。
「なんだーー?」「ひあぇえええ!」「うぁあああ!」
突然の事で三人組は驚き悲鳴を上げている。ソイルとアウルムのタッグは凄いな。自分だったら嫌だ。
「どうする? やめるって約束してくれたら解放するけど?」
「ふざけるなぁああああーーやめてくれーー!」
文句を言った途端に体が壁に引きずり込まれていく。他の二人は戦意が無くなったのかナイフを離していた。
「ホント、どうする? 嫌ならそのままでいてくれよ」
そのまま進もうとすると
「待て! 待て! もうしませんから! お願いだ! 解放してくれ!」
「ホント? うーん。確証がないなぁ」
「本当です! 本当です! もう二度と目の前には現れません!」
世紀末が冥途になったように顔面蒼白で訴えている。ま、いいか。
「わかったよ。じゃ、有言実行してね」
解放すると、三人組は無事に壁から出た身体を確認して、逃げるようにこの場から去っていった。
いつの間にか横に来ていたマクレイが俺の頭をクシャクシャにして、
「フフ。怖いねぇ、ナオは」
微笑んで言われる。ま、今回は演出してみた。少しビビッてたけど、頑張った。そっと、汗を拭いた。
「ありがとうございます!」
何故かツイルが座って手を組んでいる。祈りのポーズ?
「いや、それはいいから!」
それから、もう面倒くさいのでその場からソイルとアウルムにお願いしてエレベーターの要領で上階へ行き、外に出る。
ツイルとフィアは魔導石を採掘していたので小屋でチェックを受けていた。フィア…いつの間に。




