53 地底都市
北へ向かい移動している。
東の大陸がどのくらいの大きさかわからないので、どの辺にいるかがさっぱりだ。
やがて人が通る道に出て進んでいく。
すると、道の両側に街灯のような細く短い柱が点々と立ち始めた。
「これ、何だと思う?」
「なんだろうね? アタシもわからないよ」
隣にいたマクレイが答え、後ろにいたモルティットを見ると肩をすくめている。フィアを見ると柱をしげしげ観察していた。
しばらく進んで行くと、巨大な四角形をした岩のようなものが見える。
近づくと岩の正面には巨大な門があり、今は開け放たれているようだ。門の両脇に人が立っており番をしているみたいだ。
とりあえず右側の人に向かって行く。なんとなく話しやすそうな雰囲気だったからだ。
「こんにちは!」
「あ? なんだあんたら?」
魔導銃と槍を持ち武装した門番はあからさまに怪しい顔をしてる。話す相手を間違えた?
「すみません。ここはどういう所ですか?」
「はぁ? ああ、観光か何かか? ここは地底都市セドーだ。ここは南門だよ。特に検問はないから自由に出入りできるぞ」
「なるほど! ありがとう! 助かったよ!」
「いいってことよ。気をつけてな」
こっちで正解だった! お礼を言って門の中へ入る。
入口付近は薄暗かったが、奥へ進むにつれ明るくなっていく。
「これは凄いデす!」
フィアが興味深そうにキョロキョロしている。
天井には平べったい発光物が下を照らし、下に向かう坂道にはところどころに小さな丸い発光物が埋め込まれていて道しるべのようになっていた。この道は天井も高く、馬車がすれ違うには十分な広さがある。
長いらせんの下り坂を進んでいく。なんとなく不思議な空間にワクワクしてきた。
やがて前方が明るくなってくる。そして地底都市に辿り着いた。
高い天井は薄い青色になっていて全体的に淡く発光しており、街のあちこちに高さの違う街灯が立てられ周囲を照らしている。そして、行きかう人々は少し寒そうな恰好で歩いていた。
「はぁ~。これは…なんとも凄いね! マクレイ?」
「あ、ああ。確かに。こんな都市があったなんて知らなかったよ」
マクレイが息を飲んでいると、モルティットとフィアが寄ってきた。
「私にも聞いて?」
「ワタシもデす!」
何故、聞きたがり? 二人して。
「じ、じゃあ、どう思う? モルティットにフィア?」
「違う!」
「そうでは無いデす!」
「え? わかんないよー」
なんなんだ。二人ともスネだす。よくわからないから、ほっとこう。マクレイは苦笑いをしていた。
とりあえず宿屋を探し、一旦落ち着くことにした。
街の中を歩いていくと独特の形をした家や商店が建ち並んでいる。文字は共通なので宿屋の看板を発見し中に入った。
宿の料金は比較的安かったので助かった。二部屋借りて時間もあるので観光へ街に繰り出した。
まるで違う惑星に来たような錯覚を覚えるほど、今まで見てきた町や村とは違う造形物や色使いが広がっている。
なんかマクレイと出会った頃を思い出す。ちらっと横を見ると、慌てて視線を逸らしたマクレイがいた。ひょっとして同じ事を考えていたのかも?
出店で並ぶ商品も、見慣れた物から不思議な物までいろいろあって楽しめた。
やがて広場に出ると、吟遊詩人のような弾き語りをしている者や何かの芸をしている者などがいて見物客がひしめいていた。
「ここは人が多いねぇ」
「ふふっ。楽しそうね」
「とても興味深いデす」
それぞれ感想を述べてマクレイの胸元にいるクルールも楽しそうに眺めている。賑やかな広場を一通り見物した後、人工の川沿いを歩く。川の底には淡く発光する物があるようで、流れにそって光っていた。
ちょうどベンチがあったので皆で腰かけ休んだ。
女子組は楽しく街で見たことを話しているようだ。会話に入りにくい雰囲気がする…。
対岸をボーっと見ていると、人影が見えた。何気なしに眺めていると、どうやら争っているみたいだ。大変だなー。
って! なんかダメだろ! 俺!
慌ててベンチから立ち上がって駆けていく。後ろから声が聞こえたが後回しだ。
川に架かる橋を見つけ猛然とダッシュする!
「なにしてんだい? ナオ?」
マクレイさんて足が速いですね。すぐに追いつかれていた。
「ほら、そこで争ってるみたいだから、止めに行くとこ」
「はぁ。ほっときゃいいよ、あんなの!」
美人さんが呆れて言っている。胸元にいるクルールが手を振っている。遊びと勘違いしてるなぁ。
「じゃ、そこで見ててくれ!」
「イヤだね!」
なに、この頑固者。嬉しいけど。
マクレイと話している内に現場へ辿り着いた。そこには男三人が一人をいたぶっている所だった。
「まて!」
声をかけたが無視される。あれ?
「お前ら、何やってんだい!?」
マクレイが叫ぶと三人の動きがピタリと止まった。あれ? 俺の立場無し?
「なんだ? お前らは?」
三人組の一人がこちらへ来た。世紀末に出てきそうな、おっさんが凄む。
マクレイは何も言わず近づいて殴り始める。最初の一発でおっさんが崩れ落ち、他の二人が慌てて担いで逃げていった…。あれ? 普通、何か言わないのかな?
「ほら、これでいいだろ?」
ドヤ顔だ…。全然よくないんですけど。とりあえず無視して倒れている男の元へ行く。
「大丈夫?」
声をかけ、同じ年代ぐらいの細身の男を助け起こす。
「…ありがとう。助かったよ」
口を拭って立ち上がった。なんか色白で不健康そうな感じだ。マクレイは腕を組んで見ている。あーもう。
「ありがとう、マクレイ」
「べ、別にいいよ。これぐらい」
その割には嬉しそう。遅れてモルティット達も来たようだ。助けた男に向いて自己紹介する。
「俺はナオヤ。一体どうしたんだ?」
「ああ、ちょっとな…」
そう言って男はフラフラと行こうとした。
「ホント大丈夫? 詳しくは聞かないけど、送っていくよ」
「いや、大丈夫だ…。助けてもらってスマンな。それじゃ」
男は手を振り、びっこを引きながら去っていった…。マクレイが肩に手を置く。
「ほら、言わんこっちゃないね。ま、ナオらしいけどね」
微笑んで言われた。なにそれ、ズルい。
「あら? 何があったの?」
モルティットが聞いてきた。あまり言いたくないなぁ。と、マクレイが説明しだした。あらら。
「ナオが襲われていた男を助けたけど、袖にされたんだよ」
「へ~。お人好しだねぇ、ナオって。知ってたけどね」
話しを聞いたモルティットが笑顔でくっついてっきた。顔が近いって! 慌てたマクレイが引き離す。助かった…。
「何やってんだ!」
「あら、慰めようとしたけど?」
「そんなのいいの!」
また始まった。マクレイの胸元にいるクルールは笑顔で二人を交互に見ている。
それから近くの食堂で夕食をすませ、宿屋へ戻った。
翌日、宿を出て街中を歩いている。
「ねぇ。この街の中に精霊主様がいるの?」
「たぶんね、俺もわからんけど。でも、こっちで合ってるよ」
モルティットが聞いてきたので答える。いまいち納得いってないようだ。
「ま、アタシはどこでもいいさ」
マクレイが俺の頭をクシャクシャしてくる。フィアは何も言わず手を握ってきた。
朝食後、再び街中を歩きこの巨大地下都市の隅へやってきた。
そこには更に地下へ通じる大きな穴がぽっかり開いていた。
大きなリュックを背負ったり、石を積んだ荷車を押した人達が行き交いしている。
穴の入り口には小屋があり、入場する人々が列をなしている。ここの管理は厳しそうだ。
取り敢えず並んで順番を待った。
やがて俺達の番になり、小屋の前に移動する。小屋は遊園地の入り口のように小さな窓があり、中には厳ついおっさんがいた。
どうやらここは坑道で、一般に解放されているが入場料を払う必要があり、中で採掘した鉱石は一人頭二〇キロを越えなければ持ち帰れるようだ。とりあえず五人分を支払って中に入る。
大きなリュックを担いだ人々が奥へと足早に進んでいく。入り口付近はもはや採り尽くされ、かなり奥まで行かないと大物に出会うのは難しそうだ。
しかし、俺達は目的が違うため鉱石には目もくれず導きに沿って歩いている。
「ここは貴重な鉱石が採れるようでスね。先ほどすれ違った方の荷物に濃度の高い魔導石がありまシた」
「へぇー。さすが詳しいねフィアは」
手をつないでいるフィアに関心する。
坑道の中は都市部と違って、天井に点々と灯りが連なって道筋を淡く照らしている。その中で目的の場所へ向かう人影が見えた。
荒れた地下道は幾重にも枝分かれしていて迷宮のようになっている。
「ほら、足元には気をつけな!」
俺がつまづいた所をマクレイが助けた。
「ありがと。マクレイ」
お礼を言うと、顔を背けられた。ははっ、照れ屋さんだなぁ。
しばらく歩いて行くと後ろのロックが何かを壊したような音がしてきた。
振り向くとロックの足場が崩れ落ちる所だった。
「ロック! ソイル!」〈ごめんなさい。ここは鉱石が多くて私の言うことを聞いてくれないの〉マジで!?
そのままロックは下に落ちていく……。マクレイ達も手を伸ばしたが無理だったようだ。
「ナオ! ここは足場が脆いよ!」
マクレイが叫ぶのと同時に俺達がいる足場が崩れだした。ロックの方にいたマクレイが駆け寄ってくる。だが、崩壊の方が早く、皆がバラバラになり始めた。フィアの体が崩れる石に持って行かれ、手が離れてしまった。
「マクレイ! フィア! モルティット!」
向かってくるマクレイに手を伸ばすが、崩壊しながら落ちているので届かない。かろうじてモルティットの手をつかむ。
「ナオーーーー!!」
マクレイの叫びを最後に暗闇に落ちていった…。




