52 魔法陣
俺とロックはガエルの案内で傭兵団の元へ向かっている。
「全員集合しろ!」
ガエルが叫ぶと黄色い腕章をした傭兵団員がゾロゾロ集まってきた。
集合したところで、ガエルが説明する。
「噂は聞いていると思うが、ナオヤは精霊使いだ! ロックは見ての通り、丈夫で強いらしい。ただのゴーレムじゃないぞ! この二人を加えて作戦を決行する。鐘が鳴ったら再び集合だ! それまでは装備を整え、準備をしろ! 以上だ!」
言い終わると、団員はそれぞれ散っていった。けっこう自由なのね。
十代後半ぐらいの女の子がガイルの所に来た。
「副団長のメルダよ。精霊使いと聞いてたから、もっと恐ろしい風貌かと思った」
「そう? 他の人を知らないからなぁ」
ガイルがメルダの肩を叩き、
「妹をよろしくな。怒らすと怖いぞ!」
「兄さんヤメてよ! 初めて会う人に!」
「ハハハ。こいつはあのマクレイディアを押し倒したんだぞ!」
「え? ホント? 凄いね!」
メルダが驚いて羨望の眼差しを俺に向けた。
どういう評価なの? 押し倒すとポイントアップかな?
この二人の準備は済んでいるようだ。他の団員もほぼ準備が終わってくつろいでいる。
やがてメルダが鐘を鳴らすと団員が集合した。
「よし! 揃ったな。これから前線に出てそのまま魔法陣を潰す! 冒険者どもに俺たちの生き様を見せてやれ!!」
「「「オオオオオオオーー!!」」」
おお凄い! なんか冒険者と気合が違うな。って、俺も冒険者だった。
「ナオヤは俺と一緒に来てくれ。最前線になるが援護する」
「大丈夫だけど、いいの? まだ俺の実力を見たわけじゃないでしょ?」
「ああ、そうだが、心配していない。あの“紅蓮の刃”と“氷の魔法使い”を従えているからな」
「いや、従えてないよ? 仲間だよ」
「ハハハ。そうか、仲間か! その方が凄い!」
ガエルに肩をバンバン叩かれた。あの二人は一体何したの?
それから、前線まで移動していく。道中、数グループに分かれた傭兵はそれぞれの持ち場へ移動していった。
やがて前線が見えてきた。黒い獣の様な魔物が冒険者達と対峙し、戦闘を繰り広げている。
「ナオヤ。準備はいいか? 突っ込むぞ!」
ガエルが右腕の銃器を前に向ける。周りの傭兵が切り込み前への道が開けた。
「よし! ついて来い!」
一斉に駆け出した。前から襲ってくる魔物をガエルの右腕から発射される魔法の矢で一掃して行く。
何これ? カッコいい! サイボーグ人間っぽい。魔法の矢は途切れることなく魔物達を貫く!
「俺も手伝おうか?」
走りながら二人に聞く。
「アンタは最後だよ。それまで私達が連れていくよ!」
メルダが答えた。
そのメルダは強力な風の魔法を操り魔物を近寄らせず、たまにカマイタチで切り刻んている。
やがて盆地にある魔法陣が見えてきた。三メートルはありそうな大きな魔法陣は薄紫色に地紋が発光している。
そして、ゆるやかな丘の上に俺達はついた。
魔法陣からは黒い靄が出てそれが形づき、次々と魔物になっていく。なるほど、これは大変だ。
するとソイルが話しかけてきた。〈あれは禍々しいものです。こんな物を大地に置くなんて許せません〉ああ、俺も同感だ。
と、巨大な影が辺りを黒く染めた。ふと見上げると怪獣みたいな二本角が生えた黒い魔物が拳を下す所だった。
「あれは! もう間に合わない!」
絶叫するメルダと拳に魔法の矢を打ち込むガイル。しかし、巨大な魔物がバランスを崩して地面を揺らしながら倒れた。
「ロック!」
「ヴ!」
見ると魔物のひざ下をロックが引きちぎっていた。どんだけパワーがあるんだロック。凄い!
呻く魔物にロックが乗り上がり、止めを刺している。
「あれ、ホントにゴーレム? 尋常じゃないよ」
「こいつは驚いた! 今のうちに補給だ。おい! 予備の魔導石を!」
メルダが驚き、ガエルは指示を出す。団員が大きな荷物を持って来てガイルが背負っているバックパックのようなものを開け、魔導石を交換している。
俺の視線に気がついたガエルが説明した。
「こいつは魔法が強力なせいで、燃費が悪いんだ。常に予備を団員に持たせててな、少し手間がかかる」
「なるほど、でも凄い技術だね」
ガエルはニヤッとして、右腕の銃器を上げる。
「おう。帝都の最新技術だからな。俺は実験体なんだよ」
そう話している間にも魔物が襲ってくるが、メルダの魔法と他の団員達の善戦のお陰で今の位置を保てている。
「魔法陣が見えたから、ここからは俺がやるよ」
「え? こんなに離れているよ? 大丈夫?」
不安そうにメルダが聞く。
「ああ、大丈夫。それにメルダも限界だろ?」
「ぐっ。ま、まだいけるよ!」
汗を流しながら気丈に振る舞う。息が上がっているからキツそうだ。
「なら、早めにお願いしたいな! 精霊使い!」
ガエルが魔導銃を乱射しながら大声で叫ぶ。ああ、わかった!
「ソイル! 一掃しよう!」
すると、薄紫色に輝いていた魔法陣が一瞬にしてバラバラに吹き飛んだ。ソイルは怒っているな。
魔法陣から出ていた残りの魔物達を次々に地中へ引きずり込む。あちこちから断末魔が聞こえる。ロックが大物相手に剛腕を振るっているのが見えた。
やがて武装した者たちの音以外は聞こえなくなった。ありがとうソイル。〈こちらこそ! スッキリしました〉
「……」
「「「うぉおおおおおおおおおーーーーーーーー!!」」」
一瞬の静寂の後、あちこちから歓喜が上がった。おおっ! 思ったより人数がいるな。
唖然と見ているガエルとメルダに声をかける。
「じゃ、戻ろうか?」
「あ、ああ。とんでもないな、精霊使いってやつは。こんなに早く終わるなんて」
「兄さん…夢みたいだよ」
それから他の団員と冒険者達と合流して、天幕の方へ歩き出した。
「ナオ! あんただね。無茶苦茶だよ!」
笑顔のマクレイが駆け寄ってきた。モルティットとフィアも一緒だ。
キリークが冒険者達を引き連れこちらに来る。
「あれはナオヤ殿がやったのか? 魔物が一斉に地面に引き込まれたぞ!」
「正確には土の精霊だけどね」
「どっちでも一緒だわい! ワハハ!」
そう言って握手をしてきた。
その後、傭兵団やら冒険者達にもみくちゃにされ歓迎された。
皆が落ち着いた頃に、今回の報酬を貰い俺達は先に進むことにした。
「なあ、あの時は冗談だったが、今回は本気だ。入団しないか?」
「ダメじゃ! ダメじゃ! 冒険者なんだぞ!」
ガエルにキリークがけん制している。何があったんだ?
「ハハ。断るよ。まだまだ先に行くんでね」
「そいつは残念だ。だが“轟の雷鳴”団はいつでも歓迎するよ」
ガエルと握手を交わす。妹のメリダは何故か目をキラキラさせて見てる。
「それでは達者でな! 良い旅を!」
「ありがとう! あなたたちも!」
キリーク達と別れの言葉を交わした後、歩き始めた。思ったよりも早く済んでホッとした。
それからしばらく歩いて、適当な所で野営することにした。
「へー。ロックもやるもんだね」
夕食時に今日の事をお互い報告し合って、マクレイが関心している。
「ふふっ。聞いて! マクレイディアったら、ずっとソワソワしてたの」
「え? オシッコしたかったんじゃないの? って痛い!」
マクレイに小突かれた。鬼の形相でモルティットに迫る。
「それ以上、言うんじゃないよ! モルティット?」
「あら! 怖い!」
楽しそうにモルティットは笑っている。大人しかったクルールは俺の頭の上でゴロゴロしている。甘えてるのかな?
フィアも嬉しそうに聞いていて、大活躍だったロックはいつも通りの位置で見張っている。
騒がしい夜が今日も更けていった。




